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わが国の租税争訟制度と租税刑法について

2017/05/19
今回と次回は取りあげるテーマとの関係で、やや堅めの内容のお話とそれに伴ってやや硬めの表現になるのをご容赦ください。租税争訟とは、租税行政庁(一般的には税務署)が行った各種の処分に対する再調査の請求、審査請求から租税訴訟までの租税をめぐる納税者(納税義務者を含む)と租税行政庁の争いの総称ということができます。また、租税刑法は、租税法が予定している徴税の目的達成を不可能にし、それを妨げる行動をとった者(すなわち、脱税者)に対し、租税法上の違反として、その悪質な者に刑事責任を問うための法律ということができます。後者は滅多に遭遇することはないとしても、前者については税理士業務を行っている限り、頻度は別としても、必ず経験することになります。

 

租税争訟に至る前段階として、納税者及び納税義務者(以下、「納税者」といいます)に対する税務調査時の税務署の事実認定における両者の見解の相違があります。この時、当局の指摘に従って修正申告をするか、納税者の主張が受け容れて貰えず、当局の指摘が納得できない場合は、再調査の請求、審査請求を行って争うことになります。審査請求の裁決にさらに不服がある場合は、訴訟を行い、その取消や違法性の確認、損害賠償の請求について裁判所に判断して貰うことになり、これが税務訴訟といわれるものです。そこで、わが国のこれらの租税争訟制度について、かつて大学で租税法を講じていた頃、研究の一環として訪れたドイツの租税争訟制度と比較しながら述べてみたいと思います。

 

というのも、大学を定年退職した現在、当時の私のゼミのメンバーを中心として税理士法人を組成して、一般的な税理士の通常の業務はもとより、租税争訟といわれる分野においても積極的な活動を展開しているからです。先ず租税争訟に関しての訪問当時の基礎的な数値として、ドイツの連邦全体での異議申立(わが国では、法改正があり、現在は再調査の請求と名称が変更になりました。)の件数は年間14万件から16万件もあり、当時でも、わが国の件数のおよそ30倍程度となっていました。もっとも、課税体系、制度の違いもあり、単純比較をすることは適切ではない側面も存在します。すなわち、ドイツは賦課課税制度の下での課税庁からの査定通知と、わが国においては申告納税制度の下での課税処分に対するものとの違いがあります。

 

ともあれ、それらの件数のうちから、州財政裁判所に提訴される件数は年間で4万から5万件であり、これらのうち連邦財政裁判所に上告されるのは、3千から4千件程度となっています。わが国は、現在では、変則一段階の不服申立前置主義が採用され、再調査の請求か審査請求のいずれかを選択し(再調査の請求を選択した場合であっても、再調査の請求についての決定後の処分になお不服があるときには、審査請求をすることができます。)、これを経て訴訟が提起されることになりますが、平成27年度の訴訟提起件数は231件であり、(前年度の2.5%減、過去10年の動向では、2004年度(552件)との比較で58%の減少)訪問した当時のドイツの概ね190分の1であり、それらのうち、最高裁に上告される訴訟件数は限定的で、ドイツと比較すると1000分の1以下になり、かなりの開差があります。

 

このようなドイツの租税争訟制度を概観しますと、先ずは課税庁からの査定通知(制度)を基礎として、そこに記載された納税額に不服がある場合にのみ、納税者はその「税額査定書」に対する異議申立を1ヶ月以内に所轄税務署に対して行うことになります。異議申立に対する所轄税務署の決定処分(3ヶ月以内)が出た後(わが国と同様、不服申立前置制度を採用しています。)、これに不服がある場合には、州財政裁判所に出訴することができ、さらに連邦財政裁判所(ドイツにおける租税裁判は二審制を採っているので、ここが最終審となります。)に上告し、救済を求めることができます。(次回に続く)

文責 (G・K)

 

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