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最高裁決定と相続法改正における民法(相続関係)部会の中間試案

2017/01/03
今回も少し難しそうなタイトルとなりましたが、年の瀬も迫った平成28年12月19日、最高裁大法廷は、預貯金の遺産分割について従来の判例(預貯金は可分債権であり、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割され、遺産分割の対象にはならないとされていました。)を変更して、「預貯金等の可分債権であっても遺産分割の対象になる」との「決定」を示しました。これに関しては、相続法(民法)が改正されることに伴って、先に法務省法制審議会-民法(相続関係)部会の中間試案(以下、単に「中間試案」と言います。)も公表されていますので、ここでは、それとの関連にも触れながら筆者の見解を述べてみたいと思います。
 
相続法制については、配偶者の法定相続分の引上げや寄与分制度の創設等の見直しが、昭和55年に行われて以来、35年以上に渡って実質的な見直しをされてきませんでしたが、わが国の高齢化社会は、この間にもハイスピードで進み続け、家族のあり方や相続に関する国民の考え方にも変化が見られるようになってきました。この事態に、予てより法務省は、上記の民法部会に「高齢化社会の進展や家族の在り方に関する国民意識の変化等の社会情勢に鑑み、相続に関する規律を見直すための要綱について」の諮問をしていました。
 
ところで、これまでの金銭債権等の可分債権は、判例上(最高裁昭和29年4月8日判決、「その相続財産中に金銭その他の可分債権あるときは、その債権は法律上当然分割され各共同相続人がその相続分に応じて権利を承継するものと解するを相当とする」民集8巻4号819頁)、(最高裁平成16年4月20日判決、「預貯金は可分債権であって、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割される」集民第214号13頁)とされていたため、実務においても、原則として遺産分割の対象から除外され、例外的に、相続人全員の合意がある場合に限り、遺産分割の対象とするという取扱いがなされてきていました。
 
これらの判例の考え方によれば、例えば、遺産の全てあるいは大部分が可分債権である場合にも、可分債権については、特別受益(わが民法は、贈与や遺贈を受けた分を相続財産に持ち戻して計算し、共同相続人間の公平を図ることを目的としています。)や寄与分(相続財産の増殖に寄与した相続人の相続分につき、他の相続人よりも優遇するもの)を考慮することなく形式的に法定相続分に従って分割承継される結果、相続人間の実質的公平を図ることができないとの指摘がされていました。その一方で、可分債権は、遺産分割を行う際の調整手段として有用であるとして、可分債権を遺産分割の対象に含めるべきであるとの指摘もされていました。
 
それらの指摘を反映させる形で、中間試案においては、相続の開始により可分債権は法定相続分に応じて分割承継され、各相続人は、原則として、遺産分割前でも、分割された債権を行使することができるとする「甲案」及び、相続人は、遺産分割が終了するまでの間は、相続人全員の同意がある場合を除き、原則として、可分債権を行使することができないとする「乙案」とが両論併記の形で示されていました。この度の最高裁大法廷決定は、その中間試案を先導する形で、遺産分割の対象に預貯金は含まないとしてきた判例を変更し、「預貯金は遺産分割の対象に含まれる」との判断を示しました。
 
今回の決定で最高裁大法廷は、その決定理由を、「遺産分割は相続人同士の実質的な公平を図るものであり、できる限り幅広い財産を対象とすることが望ましい」とし、「預貯金は遺産分割の対象とするのが相当」とする結論を示し、審理を原審に差し戻す決定をしました。このことは、可分債権である預貯金は、今後、自動的に分割されることなく、どのように分割するかは遺産相続で決めることになり、今後は、中間試案で示されている「乙案」に収斂されていくことになると考えられます。しかし、実務面(金融機関は、従来から被相続人の預貯金を相続人が引き出す場合は、遺産分割協議書の提出を求めてきていました。)では、従来から大法廷決定と同様の考え方を採ってきていたこともあり、当該決定が遺産分割実務の全てに大きな影響を与えるものではないと考えています。(了)

文責 (G・K)

 

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