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社会保障と税の一体改革は進んでいるか? その

2016/09/19
前回に触れた、高齢富裕層に比較的厚かった保障を勤労世代にシフトさせたり、女性の社会進出を促進する税制改革について、その考え方の源流ともいうべきものが財務省主税局の「説明資料」(平成27年10月29日)に概ね次のような表現で述べられています。すなわち、「将来の成長の担い手である若い世代に光を当て、改革の中心となる個人所得課税については、総合的かつ一体的に税負担構造の見直しを行」い、「女性の活躍推進・子ども子育て支援の観点等を踏まえつつ、多様化する働き方等への中立性・公平性をより高め、また、世代間・世代内の公平の確保等の課題については、「年齢ではなく所得や資産などの経済力を重視しつつ、世代間・世代内の公平を確保する」としています。
 
それらの考え方を受けるように、平成29年度税制改正に向けた「夫婦控除」の話題がこのところの勤労世代の関心を集めています。というのも、前号で触れたように、自民党税制調査会の宮沢会長が、平成29年度の税制改正で現行の所得税の「配偶者控除」の見直しを検討している旨を表明したからです。因みに現在の制度では、専業主婦や年収103万円以下のパート主婦のいる世帯の配偶者の所得税は、「配偶者控除」により非課税となっていますが、この制度を見直し(廃止)、これに代えて、新たに「夫婦控除」という制度を導入しようと検討が始められています。では、「夫婦控除」とはどういうものでしょうか。以下にその概要を述べてみたいと思います。
 
「夫婦控除」とは、いわば共稼ぎの夫婦のための所得控除制度で、妻がいくら稼いでも一定の控除が受けられるというものです。現在は、配偶者控除を受けるために仕事の量を制限したり、また、103万円以上を稼ぎ、配偶者控除が受けられない方も多いといわれています。「夫婦控除」は、夫婦のどちらか一方の収入の額が103万円以下であるかどうかに関係なく、夫婦双方の「所得」を合算し、その合計額が一定額以下ならば夫婦の所得額から控除をしようというものです。まだこの制度は検討段階であり、夫婦双方の所得を合算した上で差し引くのか、それともどちらか一方の所得額から差し引くのか、また控除額はいくらなのか等の細かな点については明確にされてはいません。
 
平成29年度税制改正において、現在のところ、基礎控除や給与所得控除についての見直しの議論はなされてはいないようです。ところで、「夫婦控除」は基礎控除を共有できるという点では優れた制度といえますが、仮に妻の収入が103万円になってしまうと、妻は基礎控除の全額を使い切ってしまうことになり、夫に分け与える控除分がなくなることになりますが、それを計算式で表すと次のようになります。妻の収入が103万円の場合:所得金額=年収103万円-給与所得控除65万円-基礎控除38万円=0円となります。この式において、所得金額が計算上残っていれば、その金額に対応する所得税がかかることになります。また、妻の年収が103万円以上になれば夫に分け与える基礎控除分もなくなり、妻にも所得税がかかることになるので、どちらかといえば、「増税」になると思われます。
 
では、仮に妻の年収が103万円を超えたとすると、どの位の所得税及び住民税が増えるのでしょうか。現行の所得税の税率は、5%から45%までの超過累進税率となっていますので、所得に応じて段階的に上がっていきます。仮に、夫の所得金額を330万円未満として単純化しますと、税率は10%、住民税の税率も10%です。所得税の配偶者控除額が38万円ですが、これが廃止になれば年額3万8,000円の増税、住民税の配偶者控除は33万円ですので、年額3万3,000円の増税ということになり、これら2つの税額を合わせると年額7万1,000円の負担増ということになります。また、子育てが既に終わっている世帯にとっても増税になるところから、「夫婦控除」と並行して、税負担が緩和される他の施策が検討されるべきではないかと考えています。(了)

文責 (G・K)

 

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