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社会保険料と税の等質性について

2017/05/01
先日の日本経済新聞に、「社会保険料という名の税」と題する論説委員の時評が掲載されていました。興味深かったので、少し長いのですが引用してみたいと思います。アメリカのレーガン大統領は、消費税の導入には反対の立場であったことはよく知られていますが、その理由として、「『人々が知らぬ間に税率が静かに上がってしまう恐れがある』。その裏には、導入が早かった欧州では税率があれよあれよという間に上がり、政府の肥大化を許してしまったという認識があった。日本では考えられない話である。消費税を上げようとすれば世の中をあげて大騒ぎになり、容易に実現しない。」

 

「だが、知らぬ間に静かに、しかも着実に上がり続けている『税』が日本にもある。社会保険料という名の税だ。従業員が払う社会保険料率は今年、給与の15%近くに達し、10年で2割以上増える見通し。賃金が原資という点では社会保険料も税も同じだ。米国は高齢者医療や年金の財源を「給与税」と呼ぶ税で賄う。もちろん、社会保険は保険料という負担に見合う形で医療や年金給付を受けられる仕組みで、政策目的で徴収される税とは本来別物だ。

だが、保険料の性格は次第に税に近づきつつある。典型が健康保険料だ。料率が毎年上がっている主因は、健保組合員の医療費とは直接関係ない高齢者医療への支援金が増えていることにある。」

 

「健康保険組合連合会の最近の発表では、今年度に従業員が払う保険料収入の44.5%が高齢者医療への支援金に充てられる。比率が5割を超す組合も約4分の1に達する。支援金は高齢化の加速に伴い一段と膨らむ見通しだ。健康管理努力で組合員の医療費と保険料を抑えようとしても焼け石に水。保険料は限りなく上昇する恐れがある。」...「増税はできないが、保険料の引き上げなら抵抗は少ないからこれを活用すればいい。そんなやりくりは限界にきている。税と社会保険料のあり方をセットで考え、日本の社会保障が直面する課題にこたえる道を探る必要がある。」

 

かつてイギリスに税制視察に訪れたことがありますが、その折のわが国の税制とイギリスのそれとを比較、検討するミーティングで、講師として迎えたUniversity of OxfordのWorcester College(オックスフォード大学ウスターカレッジ校)の租税法学者Mrs. Judith Freedman教授は、社会保険料は税であると述べられていました。その根拠としては、本人が支払った保険料と受け取る年金が直接リンクしていないことと年金のための基金もなく、社会保険料は国家の歳入とされ、また、年金は歳出とされるからだと説明され、何となく理解はしましたが、当時はまだ実感がなかったことを思い出します。

 

その後、わが国の少子高齢化は急速に進展し、今や少子高齢化と総人口の減少は、わが国が抱える大きな社会構造的な問題ともなっています。給付と負担の問題、すなわち減少が続く社会保険料の担い手に依存する保険料と税で、高齢者層の社会保障給付を賄っていく現状のやり方では、働き手の実質的な賃金はいつまで経っても増えることはなく、先行き不安も解消されることはないと思われます。社会保険料と税が等質のものであるとすれば、税として徴収するのも、社会保険料として徴収するのも変わりなく、その境界はかなり曖昧なものとなります。世代間の相対的平等が実感できる税と社会保険料のあり方をセットにして考え、わが国が直面している難題に対処すべき時がきていると考えています。 (了)

文責 (G・K)

 

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