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消費増税の延期とアベノミクス その1

2016/05/29
やはりと言いましょうか、このコラムでも何度となく触れて来ましたが、このところのマスコミ報道によれば、安倍首相は消費税率10%への引き上げを2019年10月までの2年半再延期する意向を政府・与党幹部に伝えたとされます。しかし、これらの関係者の中からも異論の声が上がったと報道されているように、財政規律健全化の観点、及び前回2014年の増税延期を大義として衆議院を解散した際「再び延期することはない」とした安倍首相の断言との整合性が、国民や野党側から問われるのは必至の情勢と思われます。

 

ご案内のように、アベノミクスは「3本の矢」で構成されています。すなわち、1本目の矢は「大胆な金融政策」、2本目の矢は「機動的な財政政策」、3本目の矢は「民間投資を喚起する成長戦略」です。1本目の矢である大胆な金融政策は、安倍首相の意向を受けた日銀の「黒田総裁のバズーカ砲」によって好調なスタートを切りました。日銀は量的緩和策の実施を宣言し、2%の物価の上昇目標を導入しました。しかし、当初に観測された効果が十分に発揮されていないところから、その後、日銀は唐突とも思われる形でマイナス金利を導入して今日に至っています。

 

2本目の矢も力強さに欠け、当初に見込まれた効果が持続せず、内閣府が発表した2015年10~12月期のGDP速報値は、年率換算1.4%減で2四半期ぶりのマイナス成長となり、また、総務省発表の2015年の家計調査によれば、2人以上の世帯の実質消費支出は前年比2.3%減で、2年連続で前年を下回りました。安倍首相は先般の「伊勢志摩サミット」で記者会見し、野党などからアベノミクスが失敗しているとの批判を受けていることについて「失敗したということには当たらない」とし、有効求人倍率が高水準で推移していることや賃金が上昇している点を強調しています。

 

他方で、マイナス成長の要因のひとつには、政府がなりふり構わずに、企業側に強硬に賃上げ要請をしたにも拘らず、昨年の実質賃金は4年連続で減少し、一部の大企業では春闘でベースアップを2年連続実施してはいましたが、全体的には円安に伴う材料費や物価の上昇に賃上げが追いつかなかったことが個人消費の低迷に大きく作用していると考えられます。これらの状況から、実際には、景気は回復の足踏みというよりは、むしろ後退局面に入ったと疑われるような現状にあるとして、マスコミの多くには、アベノミクスが機能していない或いは失敗したとする報道論調も目立つところです。

 

「伊勢志摩サミット」の初日の議論で「G7」の首脳は、世界経済は大きなリスクに直面しているとの認識では一致し、減速する世界経済を成長軌道に乗せるため、構造改革に加え、公共事業等を積極的、かつ機動的に行うための財政出動が重要であるとの認識で大筋合意しました。安倍首相は初日の討議後、記者団に「世界経済は大きなリスクに直面しているという認識で一致することができた。アベノミクスの三本の矢を今度は世界で展開していきたい」と表明しましたが、各国首脳は財政出動の重要性では一致したものの、ドイツやイギリスのように財政出動には慎重な考え方をする国もあり、具体的な景気刺激策や財政出動の実行面については、各国の方針に委ねられることになりました。

 

また、安倍首相は「現在の世界の経済状況が2008年のリーマン・ショック前の状況と似ている」とし、「対応を誤ると危機に陥るリスクがある」と強調しましたが、フランス他の首脳からは「リーマン・ショック級の」危機と表現することに疑問が投げ掛けられ、理解は得られませんでした。安倍首相は消費増税につき予てより、「リーマン・ショックや大震災のような重大事態が発生しない限り、確実に実施していく考えだ」と主張しており、ノーベル賞受賞の経済学者の進言に加えてサミットでの財政出動へのお墨付きを得て、重大事態との認識の下、消費増税の再延期のための一種の免罪符にしたかったのではないかと考えているところです。  (その2に続く)

文責 (G・K)

 

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