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わが国の租税争訟制度と租税刑法について その2

2017/06/04
ドイツでは、異議申立に対する決定は、70%程度が納税者に有利な決定となっていますが、そもそもの税額決定が課税庁からの税額査定に基づいているのにも拘らず、税務調査における是認率が100%近いものになっていません。これには議員立法による税制改正が頻繁に行われ、それに対する法整備が追いつかず、連邦憲法裁判所による違憲判決が出される事態すらもあるようです。また、租税法の規定が幅のある解釈を許すような規定振りとなっており、グレーゾーン部分が多くなっていることもあり、一連の税務調査による修正や多額の追徴課税、あるいは十分な査定を実施することができない結果としての多数の異議申立や訴訟の提起に繋がっているとする見方もあります。

 

因みに、視察した当時のドイツにおける追徴税額は、約200億ユーロ(現在レートで約2.5兆円)であり、ドイツの国税収入の約4.5%を占める巨額なものでした。前回も触れましたが、ドイツでは、租税に関する公法上の紛争事件については財政裁判所が取り扱っており、州財政裁判所(一審)と連邦財政裁判所(終審)とによる二審制が採用されています。このうち、州財政裁判所においては、原則的には一事案につき、職業裁判官3名と名誉裁判官2名、計5名による審理体制を採りますが、事案の難易度によっては職業裁判官のみで審理を進める場合があり、名誉裁判官が審理に加わるのは全体の10%程度、残りの90%程度は職業裁判官1人で進められ、そのうちの80%は和解となるのが実情のようです。

 

名誉裁判官は州の同業者組合や商工会議所のような職業団体からの推薦を受け、州の専門委員会によって5年ごとにその名簿が作成されますが、その際、税理士や弁護士などの特定の職業に従事している者は任命されません。また、彼等には、職業裁判官と同様の独立性が保障されていますが、交通費等の費用弁償はあるものの、基本的には無報酬の名誉職となっています。連邦財政裁判所においては、60名程の在籍裁判官の中から、一事案につき、5名の職業裁判官による審理体制が採られ、ここでは名誉裁判官が加わることはありません。連邦財政裁判所における職業裁判官は、他の最高裁判所の裁判官と同様、連邦における専門委員会で選ばれ、任命されますが、その際には、州財政裁判所での経験者や法務局の出身者等がその対象となるようです。

 

財政裁判所は行政事件について裁くことが目的であるところから、課税の適正性、税法への準拠性等の判断や脱税行為の該当性及び逋脱税額の算定についての判断がなされ、脱税行為それ自体については、わが国と同様、刑事裁判で裁かれることになります。このような税務裁判において、わが国と大きく異なる点は、審理が進み、法廷において結論を出すことになった場合に「和解」の選択肢があることです。また、法廷外解決(ネゴシエーション)を行う場合もあり、その場合は3名の職業裁判官によって審理されることになります。このようなドイツの税務争訟制度の中にあって、税理士は、訴訟代理人を務めることが認められており、財政裁判所における訴訟の80%程度は税理士が代理人となっています。

 

わが国の租税争訟制度には、当事者間による「合意」(和解)の制度が事実上存在しないことから、課税庁側か納税者側かのどちらかの白黒が決し、当事者の一方がそれを受け容れるまで争いは継続し、最終的には訴訟により法的な決着を図ることになります。ドイツにおける租税争訟上の「合意」を参考として、わが国においても話し合いによる「合意」ないしは「和解」を目指す制度を導入し、租税訴訟における合理性を求め、争いの長期化を避け、短期解決による効率性を追求すべきと思います。

 

また、わが国における脱税行為(逋脱行為)の認定には、租税刑法上、特別刑法犯としての厳格な構成要件が定められていますが、その適用面となると、必ずしも厳格とは思われず改善すべきと考えられます。というのも、本来、租税法は憲法が保障する財産権に対する侵害法規であることに加えて、行政犯とは異なり、特別刑法犯は身体拘束を伴う場合もあり、また、ひとたびマスコミ等の報道によって人権が傷付けられると、もはや回復が不可能になる虞のある人権侵害の問題となることから、特に慎重に取り扱われる必要があると考えられるからです。

文責(G・K)

 

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