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株式譲渡制限会社における株式の譲渡とその株価

2017/10/29

ここで何回か触れたことがありますが、税理士は将に「街の便利屋さん」的だとつくづく思うことがあります。過般は、中小企業ながら地元では堅実な経営をし続けている会社の経営者の方から、「自分の会社の株価はいくらでしょうか?」と聞かれました。というのも、その会社の創業当時は、親等の近い血縁同士が集まり志を同じくして頑張って来られたようですが、今日に至っては、持株会のメンバーもその殆どが血縁のない、他人同士という状況で、持株会のメンバーだった従業員が退職するに当たって、自らが所有する株を買い取って欲しいとの要請があったからです。その会社の株式には全て譲渡制限が付されていることから、市場での売却はもちろん、取締役会の承認なしには他人に売却することはできません。

 

上場株式であれば、証券取引所において多数の市場参加者による多数の取引を通じて、その適正な株価を知ることはできますが、上記のような譲渡制限株式は、会社が当該譲渡を不承認とした場合には、株主(持株会メンバーとしての従業員)が株式買取請求権を行使することになりますが、その際にはその株価が問題となります。会社と株主間で円満に買取価格が決定できるのであれば問題ありませんが、その買取価格を裁判所が決定するときは、「承認請求の時における株式会社の資産状態その他一切の事情を考慮しなければならない」(会社法1443項)と定められています。そのような状況が背景にあり、藁をも掴む思いで、前述のように筆者に株価を尋ねられたものと推察しています。

 

実は、筆者が相談を受ける前にも件の会社経営者は、何人かの公認会計士、弁護士にも相談されていたようで、株主側及び会社側、それぞれの側から株価鑑定書(意見書)が既に裁判所に提出されていました。因みに、株主側は時価で、自からの取得価格の60倍を超える価格での買い取りを求めるものでした。一方、会社側は、持株会々員(従業員)の退職に際しては、それまでにその会員が取得した会社の株式を、額面金額にて譲り受け、譲り受けた株式は、早期に同社の持株会々則に沿って他の会員に額面金額で譲渡するという会則によることを求めるものでした。

 

筆者は、かつて大学において租税法や会社法を講じていたこともあり、既に提出されている鑑定書等とは異なる観点からの意見書を書くことにしました。株式譲渡制限会社における株価算出方式については、会計学的なアプローチとして、純資産方式、収益方式、配当方式、比準方式、併用方式、取引事例方式等が用いられています。しかし、取引事例方式を除く、ここに挙げた多くの方式が株価算出に際し、会社の清算や解散ないし解体を前提としていること、予測や擬制等が伴い、主観的要素が入り込む余地があること等、そして、従業員持株会の会則に沿ってこれまで継続して売却がなされていることから、私的自治の原則を重視して、退職時には取得価格で譲渡する取引事例方式が適していると判断しました。

 

また、法的なアプローチとして、最高裁が平成7425日に判断を示した、「いわゆる従業員持株制度に基づいて取得した株式を退職時に額面額で取締役会の指定する者に譲渡する旨の会社と従業員との合意が有効」とされた裁判例から、株主(=原告、控訴人、上告人)は当初の合意に基づき、取得価格と同一価格でその所有する株式のすべてを会社(持株会)又は会社(持株会)で指名した者に譲渡すべきである、との意見書にしました。

 

因みに、判決は以下のような事情を考慮したものと思われます。

1)従業員持株制度の趣旨や規約の内容を承知した上で自らの意思で入会したものである。

(2) 取得時の株式を時価より安い価格(額面価格)で取得している。

(3) 保有期間中は配当を受け取り、利益を享受している。

(4) 保有株式には、定款で株式譲渡に取締役会の承認を要するとされており、元々、市場での自由な売買は予定されていない。

(5) 未上場株について退会(退社)の都度、譲渡価格を定めることは事実上難しい。

                                 文責(GK

 

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