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選挙結果と公約としての社会保障政策

2017/11/06

今回の衆院選はめまぐるしく展開し、その結果、自民党が絶対安定多数である261議席を大きく上回って獲得し、同じ与党の公明党と合わせると憲法改正の国会発議を可能とする議員数の3分の2を超える「与党大勝」で決着しました。これには、希望の党の誕生及び民進党議員の受入れ排除並びに民進党自体の「分裂」、立憲民主党の結党という与党側にとっては、いわば敵失による「風」が吹いたことによるところが大きいと考えられます。確かに、「北朝鮮危機や少子高齢化」というわが国にとっての差し迫った「国難」を乗り越えると国民に呼びかけた首相に、国民は強い支持を与えたという側面も見られるところでもありますが、それにしても、野党は準備不足もあり、それに対抗できるだけの具体策を示せずに、選挙終盤は防戦一方の感がしました。

 

北朝鮮問題では、折しも、トランプ米国大統領が来日し、核・ミサイル開発を続ける北朝鮮を念頭に「いかなる独裁者も、体制も、国家も、米国の決意を侮るべきではない」と警告を発し、日米同盟に基づく米国の日本防衛義務を表明しました。因みに来日中のトランプ大統領は、天皇、皇后両陛下と会見するほか、北朝鮮による拉致被害者本人やその家族らと面会する予定が組まれており、実現すれば、被害者自身が米国大統領と面会するのは初めてのこととなるようです。今一つの差し迫った国難でもある少子高齢化問題については、明確なものは示されず、与党は選挙戦では、教育や保育の無償化のみを強調していたように思われました。解散前には、消費税率を10%に引き上げ、その増税分を「全世代型の社会保障改革」に充てるという消費税の使い道の見直しについて「国民の信を問いたい」としていました。

 

しかし、首相が選挙戦で訴えていたこの全世代型の社会保障改革が、選挙後1週間も経たないうちに変容してきているように思われます。というのも、1025日に開かれた財務省の財政制度等審議会において、社会保障費をカットする見直し案が出されているからです。その一部として、新聞によれば、「75歳以上の患者の自己負担の割合を現在の1割から2割へと段階的に引き上げる案や、介護報酬及び診療報酬の引き下げ、所得が高い世帯への児童手当支給廃止などが提案」されているようで、事実とすれば、少なからぬ疑問を抱くところです。一方、先進国最大の財政赤字を抱えるわが国においては、全世代に不安のない社会保障制度を維持していくには自ずと限界があるのも当然です。小手先の対症療法(詭弁)ではなく、先ずは、社会保障改革の全体像を示すことが肝要かと思われます。

 

社会保障政策について、わが国の場合、給付が負担を上回る政策が長年継続して採られてきたために、今日の財政赤字が積み上がる結果となっています。そうであれば、選挙対策用の社会保障政策ではなく、受益と負担のバランスを国民負担の増加で賄うか歳出削減で対応するのか、この点が選挙で国民に問われるべきだと思われます。今回の選挙でもまたその点を正面切って訴えた政党や政治家は見当たらず、財源の当てもなく教育や保育の無償化、社会保障の充実が声高に叫ばれた選挙結果は既述のとおりとなりました。しかし、これが民意の表出かといえば、そうではなく、「小選挙区制の魔法」といえる側面もあります。小選挙区制の構造的な欠陥は、多数派という体裁をとっていたとしても、実際には少数派であり、その少数派が政権を担うことも可能にするシステムであるという点に尽きます。

 

今回の選挙でも、自民党の有権者に占める絶対得票率を見ると、比例代表では17%、小選挙区では24%であり、このことは、自民党に投票した有権者は4人に1人にも満たないことを示しています。しかし、小選挙区制の魔法は、議席数ではそれを多数派に変えてしまいます。ここに小選挙区制がもたらす選挙制度上の大きな問題があるといえます。その意味で、今回の選挙結果の実態は、「与党大勝」だとしても、決して、「自民大勝」や「自民圧勝」などではないと考えられます。

 文責(GK

 

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