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来年度税制改正としての所得税の控除をめぐる議論を展望する No.3

2017/12/21

これまでの2回にわたってこのコラムで紹介してきた平成30年度税制改正としての与党の税制改正大綱が1214日に決定し、その大綱は、年内開催の閣議決定を経て平成301月召集予定の通常国会に関連法案が提出されることとなりましたので、今回はこれについて述べてみたいと思います。この大綱は全体的にみて、全ての税制改正が実現した場合の平年度ベースで、個人を軸として2800億円程度の増税となり、他方、企業向けには増減がなく、その点では、個人の負担増が顕著であり、企業優遇に積極的な税制改正であるといえるでしょう。

 

焦点となっていた所得税の改革は、これまで年収800万円超のサラリーマンを対象に増税する方針であると述べてきましたが、この部分が年収850万円超のサラリーマンや公務員となり、正式決定をみています。因みに、年収850万円超のサラリーマンは、給与所得を得ている人全体の4%に当たる約230万人であり、増税額は約900億円となるようです。また、多様な働き方を後押しするための、誰でも受けることが可能な基礎控除を10万円に増額する一方で、サラリーマン向けの給与所得控除は、年収850万円以下の人は、その額を一律10万円減額した上で、控除額が頭打ちとなる年収を850万円に下げ、最大控除額を現行の220万円から195万円に下げるとしています。

 

この結果、年収が850万円超のサラリーマンは増税となりますが、22歳以下の子育て世帯や介護が必要な世帯は対象外にして、負担増が生じないようにする配慮がなされます。上述したように、基礎控除を現行の38万円から10万円増額して48万円として、サラリーマン以外の自営業者等を対象に減税するとしています。なお、基礎控除は年間所得2400万円超から段階的に引き下げられ、2500万円超でゼロになります。また、前回までに述べてきた高額の収入がある高齢者の公的年金等控除の縮小については、年金以外の所得が年間1千万円超から2千万円以下の人は10万円、2千万円超は20万円の控除縮小とし、年金収入が1千万円超の場合の控除額に1955千円の上限を設けることで決定しています。

 

平成30年度税制改正は、このように、「基礎控除」、「給与所得控除」、「公的年金等控除」を一体的に見直すなどとして、3年程度を見込む一連の所得税改革や新税の創設などで1千億円程度の税収増という形で決着しましたが、今回の税制改正では、所得再分配の適正性という観点からの国民負担の在り方について、いかほどの議論されたものなのでしょうか。納税者たる国民の目にはその「議論」の過程が見えず、直前の総選挙で大勝し、政権基盤が安定した政治的背景による官邸主導の税制改正と映りましたが、はたしてこの改正に「理念」はあったのでしょうか。平成3110月に消費税が10%に増税される際、軽減税率を採用することで想定される税増収分が約1兆円少なくなりますが、今回の税制改正による所得税の増収分がその穴埋め財源の1つとして考えられているとすれば、あまりにも場当たり的、短絡的な発想といえるものではないでしょうか。 (完)

                             文責(GK

 

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