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税法違反被告事件裁判を傍聴して(番外編)<無罪推定は死語か?>

2018/05/04

過日の日経新聞に、リニア新幹線関係の建設工事をめぐって、概要、以下のような記事が掲載されていました。すなわち、「検察庁は、JR東海のリニア新幹線関係の建設工事について独占禁止法に違反する受注調整があったとして、大手建設会社4社を起訴した。O社とS社の2社は起訴事実を認めているが、T社とK社は認めず、公判で争う方針だという。起訴後、国土交通省は当該4社を4カ月間の指名停止処分とした。指名停止期間中、4社は国交省関係の工事の入札に参加できないことになる。起訴事実を否認している2社に『無罪推定』は働かないのかと疑問に思うが、国交省は『業者が独禁法に違反し、工事の請負契約の相手方として不適当であると認定した場合には指名停止する』との趣旨の基準を公表しており、指名停止に根拠がないわけではない。」とする記事です。

 

今回も「無罪推定」について取り上げてみたいと思います。というのも、かつて大学で講じていた期間も含め、かなり長期間にわたってこの文言には触れてきたつもりでいましたが、本件事件の裁判の傍聴で、初めてその実際の状況を目の当たりにして愕然としたことからそのように思いました。刑事訴訟法336条において、「被告事件が罪とならないとき、又は被告事件について犯罪の証明がないときは、判決で無罪の言渡をしなければならない」と定めています。すなわち、「疑わしきは被告人の利益に」の原則、ないし租税法分野では、「疑わしきは納税者の利益に」を表明したものだと言われています。また、憲法では、31条において「何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。」として法律の適正手続を一般に保障し、ここに無罪推定の原則が含まれると解釈されています。

 

ここのコラムでも、これまで幾度も「無罪推定」については取り上げてきましたが、確認しますと、無罪推定とは検察官が合理的な疑いを超える程度に立証し、有罪判決が出されるまでは被告人は無罪であると推定され、これを指して無罪推定の原則と言われています。しかし、本件事件の傍聴に当たって目の当たりにすることとなった「無罪の推定」は、その本来の内容と現実とにはかなりの乖離があるように思われました。非常に残念なことながら、実際には、これまでにも触れてきましたように、無罪推定の原則は有名無実化しているような現実があります。本件事件の被告人は、1年以上も続いた勾留期間の中で弁護人による何度かの保釈請求の後にようやく保釈が決定しましたが、その保釈に当たっては、かなり高額の保釈保証金を支払い、また、行動制限等の指定条件も厳しいものが裁判所によって申し渡されたようです。

 

勾留の執行が停止され、身体的拘束状態が解かれたことは、被告人にとっては、一義的には歓迎されるべきことですが、それは、無罪推定を100%意味するのでしょうか?一方で、判決で有罪が確定する以前にマスコミ等によって被告人個人が特定可能な情報を流布され、「有罪推定」の風潮が社会で形成されてしまっている状況があります。また、それらの事実を伝えるニュースも、今日、決して珍しくはありません。わが国の刑事裁判の有罪率は99.8%以上であると言われ、刑事裁判が「有罪確認の儀式」だと揶揄されている現実もあります。容疑者や被告人の人権を擁護し、無罪推定の原則を保障する憲法は、今年で公布70年を迎えています。この原則は、刑事訴訟における基本原則であり、その本来の内容を厳格に守るべき原則と言えます。

文責(GK

 

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