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税法違反被告事件の裁判を傍聴して No.7

2018/05/22

No6で述べているように、課税庁(検察)側と納税義務者(被告)側とは、主張が真っ向から対立しています。裁判が進行中でもあるところから予断を持つべきではありませんが、今回は、先日行われました弁護人による被告側の証人尋問を傍聴した状況について述べてみたいと思います。当日は、午前中に被告会社の顧問税理士、午後からは国税OBで税務署長を経験、現在は税理士登録されている方、及び被告会社の現社長の証言でした。このうちから、今回は、顧問税理士の証言について取り上げたいと思います。本件事件の公訴事実となっている「人件費を外注費に仮装して消費税及び法人税を免れ」ることについて刑事事件となるのは、その前提として、被告会社と関係会社とが一体であるにも拘らず、これを別法人に仮装し、もって「偽りその他不正の行為」をなしていたことが要件となります。

 

そうすると、租税行政上は過去にどういう事例・事案が存在し、それをどう判断し、どう処理したかが問題となります。すなわち、行政案件と刑事案件との境界はどこにあるのかは、すぐれて租税行政実務上の問題ということになり、この視角からの証言が重要な判断要素となるところから、これについては、長年それらの実務に携わってこられた国税OB税理士が証言されることになりました。そこで、被告会社と関係会社とが実質的に一体と言えるかどうかの評価問題を含めた証言の具体的内容については、次回に取り上げることにし、今回は、検察官(国税)が主張しているように、一体であることを前提とした場合の消費税法について取り上げてみたいと思います。本件事件において、検察官(国税)は、一体であることを前提に、被告会社から関係会社への外注費はなかったものとして、被告会社の仕入税額控除の全額を否認する計算に引き直しています。

 

その場合の外注費について、顧問税理士の証言は以下のとおりです。被告会社が関係会社に支払った当該外注費の使い道は、関係会社の人件費(給与)、地代家賃、福利厚生費、車両費、現場経費、二次下請けへの外注費、その他の経費や雑費等々の営業経費が考えられ、そのうちから給与を除いた経費等は、本来、課税仕入れに該当するものであり、仮令、一体という前提であっても、仕入税額控除は可能とするものでした。また、検察官(国税)は、消費税法307項の規定を根拠に外注費に対応する消費税は全額仕入税額控除することは認められないとしていますが、これに対し、顧問税理士は同条同項の適用はできないとの認識を示し、以下の証言をしました。

 

すなわち、「仮に同条同項の適用が考慮されるとしても、関係会社名義の帳簿及び請求書等をもって、同条同項にいう帳簿及び請求書等と読み替えるべきであると考えられる」とするものです。これに対し、弁護人から「どうして読み替えることができるのですか」と問われ、顧問税理士は、「被告会社が関係会社への外注費とするものは、関係会社から見れば被告会社への売上であり、これを構成するもののうち、給与を除いた費用その他の経費等の請求書、領収書等は関係会社宛であること。また、それらに基づいて作成される帳簿等は全て関係会社名義であり、被告会社名義で作成されている筈もなく、被告会社の帳簿及び請求書等の作成、保存を求めることは不可能を強いることになるからです」と述べました。

 

続いて、弁護人から「消費税法307項の適用が認められるという立場に立ったとして、そのことと刑罰法規の適用の際の逋脱額をどう計算するかという話は同じでしょうか」との問に対しては、当該顧問税理士は「消費税法307項は行政目的を達成するために定められている規定であり、帳簿及び請求書等を保存しない場合は、仕入税額控除の適用を受け得ないとする、あくまで行政上のペナルティを定めており、租税刑罰法規を謙抑的に適用して逋脱額を計算しなければならない場面とは考え方や計算方法も異なり、両者は無関係」であると証言しました。

 

弁護人から顧問税理士に対する最後の尋問は、「被告会社は、税金の予納を行い、さらに更正決定を受けた後は、これに従って納税していますが、これは脱税を認めているということですか」とするものでしたが、これに対しては、「いいえ、行政手続面と刑事手続面を分けて考える必要があります。行政行為には公定力あり、更正決定に伴う税額を納付しなければ、その処分の取消を求めて争うことができず、また、そのまま放置すれば銀行金利を遥かに上回る延滞税が賦課され、一方、処分の取消が認められれば、還付金にも加算金が付加されることから、顧問税理士として予納及びその後の更正決定に係る納税を勧めたものであり、決して脱税を認めたわけではありません」と証言しました。(つづく)

 文責(GK


 

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