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税法違反被告事件の裁判を傍聴して No.9

2018/06/20

これまで本件事件の裁判を傍聴してきた中で、疑問に思うことはいくつかありますが、今回は、かつて被告会社の記帳を含む税務申告までの、一切の会計、税務に関する業務を包括的に受任していた関与税理士(事務所)が採用していた、いわゆる期中現金主義について述べてみたいと思います。期中現金主義は、現金取引しているわけではないにも拘わらず、その期中の取引について、売上については入金時に計上し、出金した時点で仕入高や経費または損失を計上し、期末に、売掛金勘定や買掛金勘定の残高について洗い替えを行う会計処理方法です。

 

このように、期中現金主義は事業規模の小さい企業等を対象とした簡易な会計処理方法であり、被告会社規模(売上高約20億円)の会社の会計処理方式としては、極めて不適切であるといえ、法規範においても、企業会計原則(金商法=財務諸表等規則11項)はもとより、法人税法224項や会社法431条および432条において「一般に公正妥当と認められる会計処理」の基準や慣行および適時性を求めています。というのも、典型的には本件事件のように、関与税理士が現金主義の考え方で決算を行ない、然程税務・会計の知識のないクライアントが何らの疑いもなくそれに従った場合、重大な事態を招来することになるからです。

 

期中現金主義ですと、収益や費用と入出金が連動していて捉えやすく、理解もし易くて、管理も簡単だと思われがちですが、例えば取引先に商品を納品しても入金があるまでは、月次決算には反映されず、また仕入先等から請求書を受け取っても実際に支払いをするまでは月次決算に表れることはありません。このようなことでは会社の経営状態がタイムリーに把握できず、納税を含めた会社の資金計画にも狂いが生じるとともに、期末には機械的に洗い替え(反対仕訳)をすることから、恣意的な利益調整を可能とし、このことが脱税の誘因ともなり得ます。

 

実際に本件の場合、前年3月期の買掛金の残高約1億円が当年3月決算修正前まで試算表貸借対照表に負債として計上され続けており、これは実際には、前年4月以降に支払われ、試算表の損益計算書上の前残高に含まれて計上されています。このことは、貸借対照表上は前年の3月期のものがずっと1年間残っており、他方、損益計算書上は支払われたものも計上されていることになり、結果として当期利益が約1億円少なく表示されていることになります。このように、損益が正しく試算表上に表示されないことから、利益が見えづらくなり、その利益を見落とすリスクが高まります。

 

これについての検察官のかつての関与税理士に対する主尋問で、「期中の買掛は期末になくなるということで単純に利益が1億円増えるんだという結論で終わるんですか」と質問しています。これに対して、当該税理士は「いいえ、また新しい当該決算月の買掛金が計上されますからそれで終わるわけではありません、当期分をその後計上します」と述べていました。検察官の質問は、期末に消し込まれる前期分の買掛金の代わりに当期末の買掛金が計上されるから、トントンであり、利益が見えづらいということはないとの趣旨のように思われます。

 

これについては、明らかに検察官に誤解があると考えています。すなわち、毎期毎期が同じ売上と同じ経費等で維持されるのであれば、その論理は成立しますが、売上の急激な増加に伴って仕入れ等も急激に増大した場合、また、利益操作を目的に故意に売上や買掛金を増加させたような場合、あるいは減らしたような場合は見えづらくなる利益もそれに比例していくことになります。疑問に思うのは、検察の使命である筈の「厳正公平・不偏不党を旨とし、法と証拠に基づき、適切に捜査することによって、刑事事件の真相を明らかに」しようとする姿勢がボヤけて見えることです。(つづく)

                                      文責(GK

 

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