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税法違反被告事件の裁判を傍聴して No.11

2018/07/21

実際に、本件事件の被告人ら(A氏、B氏)は逮捕、起訴される以前、会社の現顧問税理士による本人らへの聞き取りの中でも、かつての関与税理士から、今期の利益は1億円と伝えられていたと述べており、また、法廷におけるA氏への被告人質問においても(突然に顕現した)利益2億円の大きさに「びっくりした」と供述しています。この2億円について、決算修正時(決算をする前に関与先と関与税理士との事前の打合せ)にかつての関与税理士は、会社代表者であるA氏に対し「利益のことですけども、いくら位にしますか」と尋ねています。一般的に多額の税負担の話を突然に持ち出されて、いくら位がいいかと問われれば、(あまり熟考することもせず)咄嗟に願望を込めて「半分位」と言うのは人間の心情であり、A氏もさしたる根拠もなく半分位と言ったと供述しています。

 

心理分析はともかくとして、決算修正時にかつての関与税理士は「分かりました、1億ですね」と言い、戸惑うA氏、B氏の方を向き「こっち(親会社)で払うか、あっち(関係会社)で払うか、今期払うか来期払うかだけのことなんですよ」との説明をなし、結果として、利益を約1億円に圧縮したとしています。その後、国税局による査察調査が実施されていますが、その査察調査の翌日、かつての関与税理士はA氏の社長室を訪れ、「お願いがあって来ました、実は決算のときの1億円、社長に頼まれたということにしてもらっていいですか、(そうでなければ)税理士資格を剥奪されますので…」と懇願し、A氏は、深く考えずに「いいよ」と答えたと供述しています。

 

ここまで述べてきた内容だけでも、期中現金主義の欠点とも言うべき特徴や問題点にゾッとさせられますが、かつての関与税理士は、その会計処理方式を決して変更することをしませんでした。本件裁判の対象となっている直近3ヶ年以外の次年度の決算説明においても、A氏、B氏を前に、件の税理士は「(今期の)利益はちょんちょん(±0)ですね」と言っていたものを、申告直前になって突然に「利益が1億円出ています」と、前言を翻しています。さすがにこの時は、A氏、B氏ともに痺れを切らし、「突然に利益が出る」ことの理由について、かつての関与税理士に問い質し、その内容を録音しています。しかし、A氏、B氏らは、断片的に現金主義、発生主義、ペーパーベースという何だかわからない言葉を使っていたことを記憶している他は、その理由等について、理解可能な形で説明を聞くことができなかったと供述しています。

 

これらの問題の多い期中現金主義を会計事務所が採用していたことで、いわば必然的に惹起した本件事件において、税額そのものを争っていない所為か、検察官はむしろ、かつての関与税理士を庇うかのような主張をしていることが、傍聴者としては、気になっています。それにも況して、気が付くことは、かつての関与税理士が長期間にわたる信頼関係を築いてきた関与先会社に関して、自らが犯したミスを取り繕うべく、税務署による税務調査、国税局による査察調査に「社長の指示に基づいて売上を除外したり、追加で外注費を計上したりして法人所得を約1億円に圧縮したが、本来の所得は1億円多かったはずだった」との内容の事実に反する供述をしていることです。

 

本件事件は、かつての関与税理士が期中現金主義の本来的な性質や特徴及び自らの見落としによるミス、そしてアカウンタビィリティを十分に果たさなかったという複合的要因によるものとの印象を強くさせるものでした。 (つづく)

文責(GK

 

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