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税法違反被告事件の裁判を傍聴して No.13

2018/08/21

この点に関しては、ドイツは議員立法による税制改正が年間を通じて頻繁に行われ、それに対する法整備が追いつかず、時として、連邦憲法裁判所による違憲判決が出される事態にもなっています。また、税法規定が幅のある解釈を許すような規定振りとなっており、いわゆるグレーゾーンの部分が大きくなっていることもあり、課税庁による税務行政や法解釈が自らに都合のよいものとなりがちで、その結果として、後の一連の税務調査による修正・多額の追徴課税、あるいは十分な査定を実施することができない結果としての多数の異議申立や訴訟の提起に繋がっているとする批判もあります。因みに、ドイツにおける追徴税額は、訪問当時で、約200億ユーロ(約2兆円)、ドイツの国税収入の約4.5を占める巨額です。

 

ドイツでは、租税に関する公法上の紛争事件については財政裁判所が取り扱っており、州財政裁判所(一審)と連邦財政裁判所(終審)とによる二審制が採用されています。ここでの職業裁判官は専門的な租税教育を受けてきた、いわゆる税法のエキスパートであり、財政裁判所の職制及び財政裁判の内容、質ともに最善のものと位置づけられています。このうち、州財政裁判所においては、原則的には一事案につき、このような職業裁判官3名と名誉裁判官2名、計5名による審理体制を採りますが、事案の難易度によっては職業裁判官のみで審理を進める場合があり、名誉裁判官が審理に加わるのは全体の10%程度、残りの90%程度は職業裁判官1人で進められ、そのうちの80%は和解となるのが実情のようです。

 

なお、ここでの名誉裁判官は州の同業者組合や商工会議所のような職業団体からの推薦を受け、州の専門委員会によって5年ごとにその名簿が作成されますが、その際、税理士や弁護士などの特定の職業に従事している者は任命されません。また、彼等は、職業裁判官と同様の独立性が保障されていますが、交通費等の費用弁償はあるものの、基本的には無報酬の名誉職となっています。連邦財政裁判所においては、60名程の在籍裁判官の中から、一事案につき、5名の職業裁判官による審理体制が採られ、ここでは名誉裁判官が加わることはありません。連邦財政裁判所における職業裁判官は、他の最高裁判所の裁判官と同様、連邦における専門委員会で選ばれ、任命されますが、その際には、州財政裁判所での経験者や法務局の出身者等がその対象となります。

 

既述しているように、財政裁判所は行政事件について裁くことが目的であるところから、課税の適正性、税法への準拠性等の判断や脱税行為の該当性及び逋脱税額の算定についての判断がなされ、脱税行為それ自体については刑事裁判で裁かれることになります。このような財政(税務)裁判において、わが国と大きく異なる点は、審理が進み、法廷において結論を出すことになった場合に「和解」の選択肢があることです。また、法廷外解決(ネゴシエーション)を行う場合もあり、その場合は3名の職業裁判官によって審理されることになります。このようなドイツの税務争訟制度の中にあって、税理士は、訴訟代理人を務めることが認められており、財政裁判所における訴訟の80%程度は税理士が代理人となっています。

 

そのため、課税庁と税理士の関係は、わが国にみられるように「(半強制的)協調関係」はなく、お互いの存在を独立した関係として認め合う関係となっています。このように、ドイツにおいてはそれぞれの機関、部署や立場において、それぞれのミッションやポジションの利益に沿った主張をし、そこには多くの無駄が存在するように思われますが、ここにドイツ国民の精神性に由来した独自の合理性があるようにも思われます。数年前の新聞報道によれば、ドイツ在住の著名なバイオリニスト堀米ゆず子氏が東京からブリュッセルへ帰国する途中、乗り換えのためフランクフルト国際空港を経由しました。その際に手荷物扱いで持込んだ時価1億円相当のバイオリンを税関が押収し、輸入税(関税、VAT等)として19万ユーロの支払いを求めるとともに、脱税容疑での調査も受けたとされます。ドイツの税関当局は、一般に高価な品は必ず事前に税関に申告しなければならないとして、空港税関は、輸入関税証明書や対象物品の由来を証明する書類といった書類を堀米氏は携行していなかったとしているのも、将にそのことを物語っているのではないかと思われます。 (つづく)

文責(GK

 

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