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税法違反被告事件の裁判を傍聴して No.14

2018/09/09

本コラムNo.12で、学者及び実務家の視角からは、租税事案を専門的に審理・判断する機関として租税裁判所が、そして、そこには租税法はもとより税制・税務・会計実務に精通した検察官及び租税弁護士(仮称)の存在が不可欠であるとの趣旨を述べました。これは、本件事件に顧問税理士として関わり、公判期日における法廷での傍聴を通して、何より納税者の刑事面、行政面を通じた人権擁護やより公正、公平な司法判断が必要であることを痛感したからです。その点、ドイツの税理士シュトイヤー・ベラーター(Steuerberater)は、税法・税務の専門家であり、以前にも述べた税務の専門的な審理・判断機関である財政裁判所において我が国における弁護士の役割を果たします。

 

本件事件の場合、刑事事件として税法違反被告事件が裁かれる一方で、行政面からは、所轄税務署から法人税額、消費税額等の更正通知書及び加算税の賦課決定通知書が発せられており、その後の手続は通常の租税訴訟と同様、通常裁判所で行われることになります。ドイツでは、財政裁判所の職業裁判官は専門的な租税教育を受けてきた、いわゆる租税法のエキスパートであり、税理士もそのような環境の中で活躍の場が保障されています。既に述べたように、多くのケースで租税訴訟上の和解という形で決着しますが、わが国の国税不服審判所を含む租税争訟制度には、当事者による「話し合い」(合意)の制度が存在しません。

 

このことによって、白黒が決着して当事者の一方がそれを受け容れるまで争いは継続することとなります。このことは時間や労力、また出費も嵩み、莫大な経済的利益を失うことを意味し、しかも課税庁側または納税者側の一方が満足すれば他の一方には不満が残るという、関係を生み出すことになります。その点、ドイツには税務調査時においても、異議申立の段階においても、そして一定の場合は訴訟段階においても、当事者の「話し合い」による解決ができる制度が用意されています。この一定の場合とは、個別事件を担当する裁判官が当該事件を調査している過程において、事実関係についての争いが中心であり、当事者双方に問題があると判断するときには、口頭弁論前に「話し合い」の場を作ることができ、そこでの合意を得ることができます。

 

このような「話し合い」を経て合意に達すれば、その事件は解決したことになり、当該事件の担当裁判官は判決等を書く必要がなくなり、訴訟進行の面からも負担の軽減化が図れることになります。このような「合意」が認められる事例としては、役員報酬の過大性の判断に関するもの、推計課税に関するもの、土地の評価に関するもの等の事実認定に係るものが挙げられ、それらは話し合いによる合意により解決されているようです。わが国もドイツの争訟制度を参考として、国税不服審判所を含めた租税争訟制度を見直し、話し合いによる合意を目指す制度を導入し、租税訴訟における合理性を追求すべきと思います。

 

因みに、わが国においての租税訴訟上の和解について、学説では、行政処分の法律適合性が訴訟物とされている更正処分取消訴訟に関して、被告行政庁には和解の前提となる実体法上の処分権がないから、被告行政庁は訴訟上の和解をすることは許されないという見解や租税法の強行法規性及び合法性の原則から法律の根拠なしには納税義務の減免や徴税の時期、方法等について租税行政庁と納税者間で和解を行うことは許されないとする見解が有力です。国税と納税者の争いは、永遠になくなることはないと思われます。それは、根本的に「課税をしたい」国税当局と、「課税をされたくない」納税者との間に、やむことのない根源的な二項対立の図式があるからと思われます。(つづく)

文責(GK

 

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