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相続こぼれ話  その1(争続から想続へ...)

2016/04/11
税理士は、一般的に中小企業経営者の皆様の相談相手として、その業務は、税に関することのみならず日常生活に密着したあらゆる分野にわたることが多く、いわゆる「街の便利屋」的存在でもあることが特徴的です。そのことから、業務に伴って否応なく、クライアント由来のドラマの一幕に登場せざるを得ないことがあります。とりわけ相続の場面では、個人の思惑や欲望が錯綜、露呈し、生身の人間の本質的な側面(ドラマ)を垣間見ることも少なくありません。ここでは、一旦、ポリティカルマターから離れ、税理士業務に係る「余談」を筆者の独断と偏見で、若干の法律的視点を交えて述べてみたいと思います。

 

事例は、被相続人である亡くなられたご主人の、再婚相手である奥さま(後妻)からの相続税申告の依頼に関するものです。法定相続人は、前妻との間の子1人、後妻及び後妻との間の子3人の合計5人です。被相続人は、相続開始の6年位前から認知症を発症し、専門施設を持った病院に入院していましたが、この入院期間中に作成された自筆遺言書(民法968条)が存在していて、それは既に家庭裁判所の検認を受けていました。自筆遺言における記載内容は多岐にわたりますが、ここでは単純化して、前妻の子との関係に限定して述べたいと思います。

 

被相続人が作成したとされる遺言書には、被相続人の「全財産は、後妻及びその3人の子がそれぞれ指定相続分を相続し、前妻の子には一切の財産を相続させない」とする趣旨が記載されていました。これに猛反発した前妻の子は、その周囲をも巻き込んで、遺言書の無効を主張し、その後、相続税の申告期限まで2カ月少々を残して、一切の連絡が取れない状況(訪問による面会を拒否、電話は不通、手紙、葉書も受け取り拒否等)となっていました。そこで、受任した相続の申告業務の取り掛かりのこのような事態に、筆者としては、「法」と「情」の二面作戦で臨むことにしました。

 

先ず、「法」的側面から、後妻及びその子らに対して、民法1031条(遺留分減殺請求)の規定によって「前妻の子は、遺言によっても侵すことができない最低限度の遺産(遺留分)を取得することができる」こと、また、その「遺留分を請求する権利」があることを伝えました。他方で前妻の子には、「認知症を発症している人であっても遺言をするための遺言能力は別の問題であり、遺言書を作成できないとは限らない(遺言は遺言者の最終意思を尊重する制度であるため、遺言者本人に遺言能力があるかどうかが問題となる)こと」を伝えました。

 

次いで「情」的側面から、前妻の子に「あなたを愛しておられたお父さまのご遺志としての遺言書が存在する以上、その有効性、無効性は、一旦、置いてそれを尊重することが、あなたができるお父さまへの一番の供養になる」旨を話しました。理屈では理解しても、なかなか長年の鬱積した感情の部分では得心がいかないのか、気持ちが揺れ動いているのが傍目にもわかりました。そこで、本来の遺留分として算出される額に、若干上乗せをした金額を提示し、相続税の申告期限を1日残した日までを考慮時間として与え、その回答を待つこととして前妻の子の家を辞しました。

 

約束した日までに了解する回答で、「申告期日の当日、現金と引き換えに分割協議書に署名・捺印をしたいので、現金を用意して来るように」との連絡がありました。そこで筆者は、銀行から下したての数千万円の札束を紙袋に入れ、盗難の不安に駆られつつも、足早に指定されたホテルのロビーを目指しました。そこには前妻の妹(叔母)が同席していて、開口一番「後妻の子らと相続額を同じにしなければ、姪が遺産分割協議書に署名・捺印をすることを認めませんよ!」と大声を上げられました。「叔母さまは、本件相続とは直接の関係のない旨」を数十回となく繰り返し、結局、当初提示した金額で折り合いましたが、それには後妻が前妻とその子に、直接会って、謝罪することが条件でした。

 

一頻りこうした感情論からの不毛な議論が続きましたが、前妻の子は、やがてそこからは何も生まれないことを悟り、約4時間にわたる話し合いの末、ようやく法律論による会話が成立しそうな雰囲気になり、筆者はその頃合に、徐に持参した紙袋の中身を取り出して積み上げました。叔母が憮然としている中、前妻の子は完全に現実世界に戻り、遺産分割協議書に署名・捺印をしました。筆者は、お礼(儀礼的な)の言葉を述べるのもそこそこに所轄税務署に急ぎ、期限ギリギリに相続税の申告を済まし、このドラマは幕を下すことになりました。 争続から想続へ...筆者のポリシーです。

文責 (G・K)

 

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