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税法違反被告事件の裁判を傍聴して No.17 (弁論手続)

2018/10/22

本件刑事裁判の流れを、「冒頭手続」、「証拠調手続」、「弁論手続」及び「判決手続」の4段階に分けるとすると、現在は終盤の弁論手続が終了し、判決手続を待つ段階にあるところから、今回は、弁論手続としての検察官による論告・求刑、そして弁護人による最終弁論について取り挙げたいと思います。証拠調が完了しますと、検察側及び被告人側のそれぞれが事件についての意見を陳述しますが、これを「最終弁論」と言っています。既にご存知のことだとは思いますが、これらは、検察官と弁護人(団)が証拠に基づき、被告人(ら)は有罪か無罪か、また刑罰の重さについて、それぞれに意見を表明する手続です。その後、裁判官(長)は、被告人に最終陳述を求め、裁判が終結(結審)することになります。

 

このように弁論手続きでは、先ず、検察官が事件に対する意見や被告人に対してどのような刑罰を科すのが相当であるかについての意見の陳述、すなわち「論告・求刑」を行い、それに続き弁護人が事件に対する意見陳述すなわち「弁論」を行います。本件事件においては、被告人は罪(逋脱)を認めていないところから、公訴事実に対して無罪であることを述べ、「情状」についてのみ述べることはありませんでした。なお、本件刑事裁判の弁論手続で先ず行われる検察側の論告・求刑の内容についてですが、これは、あくまでも検察や国税といった、いわゆる捜査当局による事件の考え方、受け止め方をまとめたものであり、建前上の検察側の役割や目的は、被告人の有罪を立証しその犯罪に見合った刑罰が下るように追及することにあります。

 

とはいえ、そのような厳しく崇高な使命が説かれている一方で、実際に検察官による論告・求刑を聞いていて感じられるのは、果たしてその使命のみからそのような主張や行動が行われているか、極めて疑問に感じられるものでした。すなわち、検察の面子を守るべく、予め描かれた無理筋を貫くべく強弁しているようにさえ感じさせる内容が多々見受けられました。と言うのも、実際に法廷で再生、開示された検察官検事による違法若しくは不当な取調べが想定される録音・録画を視聴したとき、その思いを強くしました。そこで被告人が述べている内容が、調書には違う表現で記述されており、それは、もちろん検察側に有利に働くと思われる内容でした。

 

これらの状況が、巷間言われる「わが国では起訴されると99.9%が有罪、否認事件に限っても99.5%が有罪」につながり、また検察官が起訴した後、法廷において、供述者が「言ってもいないことを調書に書かれた」と主張しても、取調べの際にどのようなことが行われたかを証明することは非常に難しいであろうと感じました。これに関し、弁護人と検察官の間で、違法若しくは不当な取り調べがあったかなかったかを議論しても、結果は空虚な水掛け論に終始するであろうことは容易に想像できるものでした。不幸にして逮捕あるいは起訴されたときには、自己の思いに反して話を強要されたり、話したことと違う部分やニュアンスが全く異なる部分がある調書が作成されたとしても、その調書への記名押印を安易にしないことが、自らを防御する手段だと言えるのではないでしょうか。

 

もちろん、弁護人はそれらのことも念頭におきつつ、検察とは違った観点から犯罪事実を見直し、検察側の主張で否定すべき点は否定し、その証拠を提示し、被告人に科される刑罰を少しでも軽くしようとし、また、仮に有罪だと認められることがあっても、被告人に有利な執行猶予付きの刑又は減刑などの処置を求める弁論をすることになりました。このため、あらゆる角度から事件を再三にわたって見直し、関連するあらゆる分野の知識を動員し、許される限りの、あらゆる法廷テクニックを駆使し、検察官の「狙い」や「面子」を打ち砕くべく、対抗していくことになりました。

 

こうした一連の弁論手続の最後に行われるのが、被告人の最終陳述となります。弁護人の最終弁論が終了すると、裁判官は、被告人に証言台の前に立つように告げた後、「これで審理が終わりますが、被告人は最後に何か話しておきたいことはありますか」と尋ねます。被告人は、第1回公判期日で人定質問に答えた後は、弁護人や検察官、裁判官からの質問に答え、あるいは弁護人による証拠調においての被告人質問を除いて、公判において被告人自ら事件について自発的に話す機会はありませんでした。この手続の最後の最終陳述で裁判官から尋ねられる時が、自分の意見を法廷で主張できる唯一の機会になり、こうして弁論が終結しました。(弁論手続 了)

文責(GK

 

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