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法人税法第129条第1項の実務における適用(仮装経理と減額更正)

2018/11/06
今回は、税法違反被告事件の裁判の話題から一旦離れ、過般、相談を受けた法人の仮装経理(粉飾決算)と減額更正の取扱いについて述べてみたいと思います。事案の概要は、事業経営が順調ではない時期に、銀行融資を受けるべく、やむなく売上を過大に計上(粉飾決算)していましたが、近時になって黒字が計上されるようになり、その黒字分を過年度の過大計上分と相殺していたところ、税務調査で指摘されたものです。相談者のA法人のB経理担当者は、この場合の正しい経理処理ないし税務処理についての知識がなかったため、単純に近時の売上(黒字部分)から過年度の売上(赤字部分)を控除して申告していたものです。

一般的な過大申告に係る更正の請求については、国税通則法第23条第1項にその規定が置かれ、「納税申告書を提出した者は、その申告書に係る国税の法定申告期限から五年以内に限り、税務署長に対し、その申告に係る課税標準等又は税額等につき更正をすべき旨の請求をすることができる」とされています。他方で、法人が仮装経理を行って過大な申告を行っていた場合の扱いについては、法人税法第129条第1項に「更生に関する特例」として、「法人の提出した確定申告書の所得の金額が課税標準とされるべき所得の金額を超えている場合、その超える金額のうちに事実を仮装して経理したところに基づくものがあるときは、税務署長は、当該事実を仮装して経理した法人が当該事実に係る修正の経理をしてその修正の経理をした事業年度の確定申告書を提出するまでの間は、更正をしないことができる」との規定が置かれています。

この規定の主旨は、「法人の提出した確定申告書の所得金額が仮装経理に基づき過大であった場合、その事実に係る修正の経理をして、その修正経理をした確定申告書を提出すれば減額更正をする」とするものです。しかしながら、この規定については、税務署職員を含めて税務に携わる人々の認知度が非常に低いのが実情で、中にはこの規定と「更正の請求」とを混同している向きも多いところからこの点について触れてみたいと思います。「更正の請求」と「更正に関する特例」は、両者とも「更正」の冠が付いていますが、前者は国税通則法が根拠法であり、後者は法人税法が根拠法となっており、それぞれの根拠法に違いがあります。したがって、「更正に関する特例」と「更正の請求」とは期限の制限についても意味合いが違うと考えられます。

ところで、経営業績が順調ではない法人の場合、外部に実態よりも業績をよく見せようとするインセンティブが強く働く傾向にあります。特に、法人の経営状況が思わしくなく、財務面が逼迫していてその法人の存続を銀行等の金融機関の借入れに頼らざるを得ないような場合、仮装経理を行うことにより法人所得を水増し、表面上は黒字を装う、いわゆる粉飾決算をする動機が強く、そのような事例が見られるところです。これは、わが国の銀行等の金融機関が法人を格付け(評価)し、その評価によって、融資を実行するか否か、また実行した場合の金利をいくらにするかを決定するからです。

また、そのような評価は、法人の決算書の中身でほぼ決定し、その決算書に基づく評価が、銀行等金融機関の所管官庁である金融庁の方針でもあるところから、銀行等にあっては、例外なく、決算書を中心に取引先法人の評価をせざるを得ないからです。わが国の中小企業に対する間接金融のあり方が、また、このような金融庁の方針が、延いては中小零細法人に必要悪ともいえる仮装経理の動機を与えている側面が大いにあると考えられます。ともあれ、このような仮装経理を行なうことには、大きな代償とリスクを伴います。

その最大のものは、後に減額更正を予定しているとはいえ、赤字で唯でさえ資金繰りが窮屈なところに、売上を水増しして本来は発生しない税額を計上した上に、納税という現金の流出を伴うことから経営、財務基盤が益々侵食され、財務状況を、蛸が自らの足を食べるように、愈々悪化させることになります。したがって、この手法を継続して採り続けることは、事実上、不可能であり、飽くまでも対症療法的、一次的な方策に過ぎないことになります。また、これとは逆に、過年度の水増し分を控除する形で売上を減らしていたような場合は、税務当局によって隠ぺい・仮装が認定され、重加算税の対象とされる可能性も考えられるところです。(仮装経理と減額更正 了)

文責(G・K)

 

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