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税法違反被告事件判決への疑問 その1

2018/12/19

前回のコラムの末尾に「判決公判」として次回につづく旨を記しましたが、今回から題名を新たに「税法違反被告事件判決への疑問」として述べていきたいと思います。さて、裁判所は、消費税について被告会社の関係法人には事業実体がないにも拘わらず、被告会社から関係法人に外注した形式を作出し、また、被告会社の従業員を関係法人に形式的に所属させ、実質は被告会社の給与であるにも拘らず外注費に仮装し虚偽の消費税の確定申告書を提出していたとの課税庁や検察官の主張を認め、被告会社と関係法人とは「実質的に一体」であると認定しています。そしてそれらの行為が、客観的に見れば、「不正の行為により・・・消費税を免れ」た場合、また、「不正の行為によつて、譲渡割の全部又は一部を免れ」た場合にそれぞれ当たるとしています。要は、被告会社と関係法人とは実質的に一体であって、関係法人の従業員は被告会社に所属していると見るべきであり、被告会社が関係法人に支払った外注費は、本来は人件費であり、仕入税額控除の対象とはならず、被告会社は課税仕入れ額を過大計上していたというものです。

 

しかし、この論理は、「被告会社と関係法人が実質的に一体である」という前提の上に成立するものであり、それが崩れると、その時点で検察官の主張は瓦解することになります。況してや一方の側が何らかの意図をもって予め作出した「筋書き」に沿ったものであったとしたら猶更のことですが。ここでいう「実質的な一体性」とは甚だ抽象的な評価概念であり、逋脱の構成要件への該当性を検討するに当たっては、より具体的で慎重な評価概念による事実認定が必要となると考えられます。この点について、東京国税局勤務後、全国各地の税務署に勤務して調査担当官等を指導するポストや税務署長を歴任した経験のあるH証人は、租税実務上、法人間の一体性評価に関連して法廷において概要以下のような証言をしています。

 

人件費を外注費に付け替える事例としては、①個人資産家が不動産管理会社を設立して不動産管理料を支払うケース、②税理士ないし税理士法人が会計法人を設立して記帳代行部分を外注するケース、③印刷業を営む会社が別法人を設立、製本部門を外注するケース、④建築関連業種において従業員をいわゆる一人親方として独立させ、給与としてではなく請負代金として外注費を支払うケースなどを経験してきたとしています。そして、①、②、③のケースでは、設立された法人はいずれも親会社や個人事業主(以下「親会社等」という。)の指揮命令下にあり、また、事務所所在地も親会社等と同一か若しくは近隣にあることが殆どであったとしています。また、①から④のケースを通じて親会社等と関連法人等の実態(実体)が同一であることを理由に、消費税法違反が問題となった事例には一度も遭遇していないとしています。これらの関連法人を立ち上げてその関連法人から人材派遣を受ける例については、国税庁ホームページの質疑応答集に掲載されている通り、グループ企業内での外注や派遣は珍しいものではなく、実質的同一性を理由として消費税法違反が問題にされることは殆どなく、関連法人が、親会社等の意向や指示を受けて仕事をすることはむしろ当然であり、租税実務上、指揮命令関係や親会社等の影響力の大きさを強調して両者の一体性を論ずることはできないとしています。

 

H証人の法廷での証言を要約すると、関連法人を設立して外注費を支払うことは、取引社会においては、むしろ頻繁に見られる事象であり、そのことをもって、租税実務上、人件費を外注費に仮装したと評価されることは殆どなく、したがって、親会社等と関連法人の一体性を論じるに当たって指揮命令関係や親会社の影響力を必要以上に強調することは誤りであると考えられます。 (つづく)

文責(GK

 

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