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税法違反被告事件判決への疑問 その6(正しかるべき司法も盲いることがある?)

2019/03/03

繰り返し述べているように、本判決は、被告人、弁護団ともに満足のいくものではありませんでした。制度的には審制が採用されていて、3回までの審理を受けることができるわが国の裁判司法ですが、現実的には社会生活の側面で、会社であれば取引先との関係からいつまでも被告人という社会的に不安定な立場に立たされていることのデメリット、公共事業に伴う入札から排除されるデメリット等々の要因で上訴を断念せざるを得なくなってくるのが実情です。また、個人であれば、経営者としての立場を失うこと、新聞をはじめとするマスコミに取り上げられることで、裁判以前に既に犯罪者としてのレッテルが貼られてしまっていること、何よりそれらを再び裁判をすることによって名誉挽回を図ることの困難さが挙げられるように思います。

 

かかる事情から、弁護側は今回の控訴を断念しましたが、これに伴って課税庁・検察庁が押収していた帳簿、資料等の書類が被告人らに還付されました。以前にも述べているように、本件事件は、刑事事件として裁かれる一方で、行政面では所轄税務署から法人税額、消費税額等の更正通知書及び加算税の賦課決定通知書が発せられ、これに対しての争いの側面もあり、それらは通常の租税争訟の局面と全く同一の手続をとることになります。そこで(再調査の請求か)審査請求を経てなお不服がある場合は、訴訟を提起することになり、それらの手続をとるに当たっては、課税当局が算出した「本税の額」、「重加算税の額」等を確認する必要があります。このことから、所轄税務署から被告会社宛てに送達された「法人税額等の更正通知書及び加算税の賦課決定通知書」を一読しましたが、そこには「杜撰な計算」及びそれを印象付ける個所が随所に見られ、残念に思いました。

 

例えば、当該通知書は、「外注費10,000,000円を総勘定元帳に計上し、当事業年度の損金の額に算入しています。しかしながら、当該外注費は請求書がなく支払の事実もないことから、取引事実がないと認められるため、…外注費の過大計上額として当事業年度の所得金額に加算しました。」としています。ところが、総勘定元帳には、借方外注費に1千万円が計上された同日に、貸方に売上として1千万円が計上されています。これは、旧関与税理士が「損益に関係なく、単に売上を増やしたいときにこのような仕訳をした」と課税当局・捜査当局の取り調べに対して供述しているところでもあり、所得金額に加算されるべきではありません。また、課税当局は、旧関与税理士の期中現金主義による会計処理を容認しながら、一方で、外注費を否認して(二重計上だとして)、その過大計上額だとして所得金額に加算しています。

 

これまでに旧関与税理士が採っていた、期中現金主義という会計処理方式については、少なくとも株式会社に採用される会計方式ではないことをこのコラムで指摘して来ましたが、この方式は、期中の取引を仕入高や経費又は損失については、出金した時点で計上し、残高については期末に買掛金勘定の洗い替えを行うことで精算する会計処理方法です。したがって、やや乱暴な表現をすれば、仮令二重計上されていたとしても、期末には機械的に反対仕訳をして、残高を0にすることになるところから、これを外注費の二重計上分として所得金額に加算するのは、論理必然的に誤りとのコロラリーとなります。

 

このように、期中現金主義は家計簿と同程度の簡易、例外的な会計処理方法であり、被告会社規模(売上高約20億円)の会社の会計処理方式としては、極めて不適切であるといえ、法規範においても、企業会計原則(金商法=財務諸表等規則11項)はもとより、法人税法224項や会社法431条及び432条において「一般に公正妥当と認められる会計処理」の基準や慣行および適時性が求められています。また、期末の機械的な反対仕訳が恣意的な利益調整を可能とすることから、脱税の誘因ともなり得ることを指摘できます。所轄税務署は、被告会社への税務調査を数度行っていますが、この間に、追徴課税にのみ汲々とすることなく、当該会社の規模からしても、期中現金主義での会計方式は適切ではなく、発生主義に基づき法令上も適法な会計方式を採るよう旧関与税理士に指導すべきであったと考えられます。(つづく)

文責(GK

 

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