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ノーベル賞受賞経済学者の進言は消費増税再延期の理由となり得るか? その2

2016/03/30
前号で筆者は、「財政規律の観点からは、消費増税は近い将来には必須と考えているが、その時期が来春であることについては異論」を持っている旨を書かせて頂きました。これには、実は、「増税先送り」が妥当と思えるいくつかの理由があるからです。それらのうちの主要なものに、3月の中旬頃だったと記憶していますが、内閣官房参与を務める経済学者の浜田宏一、本田悦朗両氏も述べていましたが、現下の経済情勢を踏まえると消費増税にはかなり慎重になるべきとの認識が多くの国民に共有されていることが挙げられます。

 

特に、本田参与は、「消費増税を凍結して、現行の8%から7%に下げ国民に対するメッセージを明確にする選択肢もある」との趣旨の、凍結のみならず減税のオプションにまで踏み込んだ発言をしています。確かに、10%までの消費税率の引上げが一時は既定路線となり、現時点での減税は政治的にも実現性に乏しいものですが、敢えてその見解を示すことで世間の耳目を集め、増税凍結に世論を誘導するのが狙いのようにも思われます。また、浜田参与は、「増税では産業の元気がなくなるので、首相の英断が必要となる。本当に消費税を引き上げたら選挙には勝てないだろう。」との趣旨の発言をしています。

 

アベノミクスの神髄は、「デフレ脱却」であり、これを最優先の政策課題に掲げる安倍政権にとって、以前にも触れたとおり、2度目の消費増税の延期にはリスクが伴い、野党はここぞとばかりに、「アベノミクスの失敗」を批判することが想定されます。しかし、先般公表された第3四半期(2015年10-12月)の成長率がマイナスとなったことが判明してからは、経済情勢に応じた増税判断を行う必要性が、与党の複数の政治家からも示されています。最近の新聞報道によれば、安倍首相は、予定どおりに増税をした場合、最優先の政策課題である「デフレ脱却」が遠のくことが想定されることから、消費増税を再延期した場合の対応策の検討を周辺に指示したとされています。

 

また、前回触れた「国際金融経済分析会合」の開催も挙げられます。前回2014年11月の消費増税先送りを決定した時と同様の手法を採って、消費増税に慎重な立場の著名な経済学者スティグリッツ、クルーグマン氏らを招き、両教授が景気回復を阻害する再増税に慎重な意見を示したことも、仮令、アリバイ工作であったとしても、そのインパクトは大きく、これも「増税先送り」が妥当と思える大きな理由と考えています。

 

日銀の黒田総裁は2%のインフレ目標を掲げていますが個人消費が伸びず、その目標をなかなか達成できずに喘いでいます。このように総需要不足が続いている状況では、成長を押し上げる金融政策や財政政策の他、減税(増税凍結を含む)等あらゆる政策手段をミックスしたものが必要になると思われることから、両教授はそれらに沿った受け入れ可能な政策を進言したものといえます。

 

安倍首相は、2016年度予算の成立を受けて記者会見し、「名目GDP600兆円に向け強い経済を確かなものにする」と強調していますが、第3四半期時点で名目GDPは約500兆円であり、リーマンショック直前のピークの515兆円に及ばないばかりか、バブル後ピークの524兆円(1997年央)と比べても依然として、約25兆円下回っています。消費税については、3%の増税によって家計に約8兆円の負担が及び、2015年の家計の可処分所得は、1997年のピークに比して約30兆円下回ったままと試算されています。

 

先ず「選挙対策ありき」ではなく、回復が遅れている家計の可処分所得と個人消費の回復を支え、経済成長を高めてデフレ脱却を押し進めるには、現時点での「増税先送り」は妥当な選択であり、本田参与が言及しているように、むしろ「減税」することも経済成長を支え、底上げするオプションとなり得ると考えています。

文責 (G・K)

 

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