Mobile Navi

税務コラム

税務コラム

税務コラム

 

トップページ > 税務コラム一覧 > 税法違反被告事件判決への疑問 その7(正しかるべき司法も盲いることがある?)

税法違反被告事件判決への疑問 その7(正しかるべき司法も盲いることがある?)

2019/03/16

今回は、本件判決における「期ズレ」及び「協力金」の(法的)評価並びに税理士の専門家責任について、今一度、触れてみたいと思います。これまでに述べてきたことと重複して恐縮ですが、期ズレについては、被告会社の関与税理士(以下、「I税理士」といいます。)が平成X+2428日に被告会社を訪れてA、B両氏を前に、平成X+1年度分の法人税につき、「税金を今期で払うか来期で払うかの違いです。」と期ズレについて積極的に触れ、むしろそれを推奨するかのような示唆、確信的な発言をしています(B氏のメモ)。また、これに関連するものとして、平成X+269日の夕刻にI税理士が同業のT税理士の事務所宛にFAX送信して説明した、国税局調査担当者からの質問に同人が答えた「質問応答書」という文書が存在します。

 

当該文書の内容についても以前に触れましたが、I税理士は、「借方に『外注費又は材料費』を、貸方は『売上』と仕訳し、それぞれを同額計上することによって利益(の額)を変えずに売上高を増やすことができ」、また、「費用と収益が同額増加するため利益額は変わらず税額に影響はありません」と答えています。当然ながら、調査担当者は「ということは真実の売上高や利益額とは違う決算書になりますがどう思いますか」との質問をI税理士にしています。この質問にI税理士は、「確かにその期だけでみると真実の数字と違いますが、売掛金の前倒しは翌期の売上が今期に計上され、翌期はその分売上が減る(期ズレさせる)ので長い目で見れば同じだと思ってました。下駄をはかせるのも利益額は変わらないため税額に影響はないので気にしていませんでした。でも、その期その期で見ると正確な数字とはなっていないのでいけないことなのかもしれませんが、父の時代からそのようなやり方をしていたため、継承していました。」と答えています。

 

この会計思想は、I税理士が関与税理士として被告会社で決算を含めた税務、会計処理を行うに際して採っていたものと全く同一です。然るに、それに依って作成された帳簿等が存在していながら、また、上記のような事実を把握しておきながら、裁判司法を含む司法当局は、ひたすら耳を塞ぎ、目を逸らし、その理由に対しては口を閉ざし、それらの証拠に依ることなく、事前の「見立て」をそのままに、金科玉条の如く「推認」に依って被告人らの責任を認定しているように思われます。法人税の逋脱と認定されているものに、今一つ「協力金」があり、課税当局及び捜査当局が、いわゆる「裏金」であるとし、架空給与と認定しているもので、その実態は「協力金」という名の「販売促進費」の性格を有する金員があります。一般に建設現場の運営慣行として、(元請企業からの)公式、非公式の現場経費(協力金≒一時的な貸付金に類似)の出捐要請は付き物ですが、下請け企業はこれを無視してその後の取引が継続することはありません。この出捐金の処理に当たって、被告人らはI税理士に相談した結果、同人は、当該協力金分を被告会社の現場責任者等の給与に水増しする形で処理、申告をしています。その事実及びこのコラムでこれまでに述べてきた事実を総合すれば、I税理士が被告会社の決算書を自らの会計思想に基づいて作成し、決算及び申告の過程においても主導的役割を果たしていることは、社会通念からも明らかと思われます。

 

本判決は、「法人税のほ脱犯におけるほ脱結果に対する認識についても、具体的なほ脱額や計算根拠・方法等についての認識がすべて必要なものではなく、法人税等をほ脱することの概括的な認識があれば足りると解される。」として強引に被告人らの逋脱結果に対する認識を推認に依る事実認定しています。これでは、「公訴事実の存在が合理的な疑いを入れない程度に証明」されているとは言い難く、被告人らに違法性の認識があったとは認定し難いように思われます。加えて、本判決が採っている「概括的な認識」は、刑法一般で論じられる「概括的故意」の考え方であり、租税刑法特有の概念である「概括認識説」とはその考え方を異にします。本件事件において、概括的故意説と概括認識説との考え方を折衷、併用して適用できるか否かについては大いに疑問、議論のあるところですが、それらについて検討がなされていた形跡は見当たりません。と言うのも、税についての認識の内容や程度については、概括認識説と個別認識説との対立が見られ、しかも刑事裁判においては、「疑わしきは被告人の利益に」の原則が貫かれており、敢えて概括認識説の考え方を採らなければならない理由についての説明も欠落しているように思われるからです。

 

かような推認による事実認定がそのまま認められるとすれば、逋脱額やその計算根拠を明らかにされることなく、納税者(国民)は、一般権力関係にある課税当局の意のままに、脱税が認定され、捜査当局によって納税義務者が告発され、それを裁判所が「推認」という金科玉条(都合のよいターム)を用いて認容する結果にもなり得ることになります。重ねて述べますが、本件事件において、非違が存在したとすれば、I税理士の重大な判断ミスが招いた結果であり、専門家責任が問われると同時に共犯としての刑事責任も問われて然るべきと考えられます。このような事態(納税者が白紙委任の状態で税理士に会計税務処理等の業務を委任すること)を想定して税理士法は制定されており、他の士業には見られない、52条の「無償独占」の規定が置かれているものと考えられます。

 

被告人らの逮捕、拘留期間が370日間にも及ぶ重大な犯罪と認定された本件事件において、事前の「見立て、筋読み」と整合させるかのように、そして、司法当局にとって都合の悪いことからは目を逸らし、また、完黙するかのような司法判断には疑義があります。税理士という職業は、長年にわたって顧問・関与先企業との信頼関係で結ばれており、色々な意味でその利益を守るのが、この士業の使命と考えられます。そのためには、顧問・関与先企業に平素から「危ない橋」を渡らせないよう指導したり、時として忠告や苦言を呈する勇気を持つべきであると考えられます。(つづく)

 文責(GK

 

金山会計事務所 ページの先頭へ