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税法違反被告事件判決への疑問 その8(正しかるべき司法も盲いることがある?)

2019/04/01

今回からは、本判決のうちの消費税の逋脱に係るものについて述べたいと思います。本件事件においては、「人件費を外注費に仮装して課税仕入額を過大計上して消費税及び地方消費税を免れた」として公訴提起がなされています。すなわち、検察官の立論は、「被告会社と関係法人は実質的に一体であり、被告会社が外注費としているものは人件費であるから課税仕入額を過大計上したことになる」とするものです。しかし、「被告会社と関連法人が実質的に一体であるという前提」が崩れると、論理必然的に検察官の立論は成立しないものとなります。このため、検察官は、何としても(自白もないまま、取引社会一般に広く行われている行為(慣習)を強引に逋脱にかかる間接証拠として積み上げ、また、旧関与税理士及びその事務所の職員らに、実際には誤謬の疑いが濃厚な事象までも逋脱に関わる事実として証言させる等、悪性を印象付けるなどして)、両者は一体だと主張し、これを受けて裁判官も「常識離れ」しているような論理の下、「推認」によって本判決を導いているように思われるのです。

 

と言うのも、消費税の逋脱に関して本判決は、「罪となるべき事実第1」として、その大部分をこれに充て、結果として、論理破綻、辻褄の合わない判断をしているように思われるからです。すなわち、検察官の論理は、「人件費を外注費と仮装するなどしたことが不正の行為」に当たり、その場合、被告会社の控除対象仕入税額を算定するに当たり、「本件外注費に係る消費税等の額について、消費税法307項の適用」があり、仕入税額控除を行うことができず」、また、被告人らには、「人件費を外注費に仮装して消費税等の納付を免れたことにつき、故意及び共謀が認められる」とするものです。

 

これを受け本判決は、被告会社の外注先である関係法人の「設立等の状況」、「代表取締役等における業務執行等の状況」、「本店所在地における状況」、「経理」、「業務内容」、「人事管理体制,従業員の就労等の状況」、「対外的関係等」、「本件関係法人3社の事業実体の有無に対する評価」、「小括」等(の争点)に関し、客観的事実関係を認定した上で法的な評価を加えるとして、一見、細部にわたり慎重に検討してきたように見えます。しかし、それらはいずれも「疑わしきは被告人の利益に」(=無罪推定の原則)という刑事裁判における大原則からは大きく逸脱し、「最初に結論ありき」を強く想起させる手法で、本件関係法人の実体を、いわゆる「為にする議論」で強引に否定し、法解釈によらず推認による事実認定によって、結論を導いています。

 

改めて検察を含めた司法の論理を見れば、仮に被告会社と関係法人が一体だとすると、関係法人への外注費は否認されるとしても、帳簿及び請求書等は関係法人の名義で適式に作成、保存されており、消費税法307項は適用されないことにならなければなりません。そうすると、被告会社と関係法人は一体であるが別会社であるという論理不整合に陥ることになり、本判決には、重大かつ明白な背理が存在することになります。因みに、消費税法307項は、「課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿及び請求書等を保存しない場合には、課税仕入れに係る(税額の控除を)適用しない」とするものであり、一体であれば、関係法人による帳簿及び請求書等の保存=被告会社による保存ということになり、検察官・裁判官を含む裁判司法の論理は矛盾、破綻していることになります。

 

加えて、本判決の「ほ脱税額の計算」についても多くの疑問点があります。当然のことながら、所轄税務署の更正通知書における加算項目である外注費の過大計上分として当該事業年度の所得金額に引き戻して算出された税額と判決における逋脱税額のその部分の計算は一致することになります。しかし、単年度の帳簿を雑駁に見ただけでも、その中には借方に外注費1千万円、貸方に売上1千万円と仕訳されたものが含まれています。これは以前にも触れた、I税理士が「借方に『外注費又は材料費』を、貸方は『売上』と仕訳し、それぞれを同額計上することによって利益の額を変えずに売上高を増やすことができ」、「費用と収益が同額増加するため利益額は変わらず税額に影響はありません」と答えていたものであり、捜査当局もそのことを把握しています。よって、逋脱額の計算に当たっては、外注費を架空であるとして減算し、売上はそのまま減算せず、合算して逋脱税額を計算することは正しくありません。法人税の逋脱額の計算に当たっては、当然、1千万円に係る法人税額が減少し、これに伴って減少する消費税額も減算すべきものです。この外にも、本判決の「ほ脱税額の計算」には多くの疑問点・計算違いが混在しています。(つづく)

 文責(GK

 

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