Mobile Navi

税務コラム

税務コラム

税務コラム

 

トップページ > 税務コラム一覧 > 税法違反被告事件判決への疑問 その9(正しかるべき司法も盲いることがある?)

税法違反被告事件判決への疑問 その9(正しかるべき司法も盲いることがある?)

2019/04/15

前回も述べたように、裁判官(司法)が認定した(税務署の調査額に基づいて、国税局担当者から検察官へ告発され、それを前提とする逋脱税額がそのまま認定されている)本件消費税の「ほ脱額の計算」は、正確には、法人税額が変わればそれに付従して消費税額も変わるところから、根源的な誤りがあることになります。そうすると、本件事件においては、法人税額について税務署の調査額にはこれまでも述べてきたように少なからぬ誤りが含まれており、税額そのものについて争われてはいないものの、逋脱(脱税)が刑事訴訟の対象、いわゆる訴因とされている裁判において、その枢要な部分に誤りがあることになります。刑事裁判が「事案の真相の究明を重要な任務」としていることに鑑みれば、この点においても、本判決は杜撰の謗りを免れ得ないものであり、とても首肯できるものではないように思われるのです。

 

また、本判決中の消費税の「ほ脱の概括的な認識について」も、前々回に述べたと同様、本判決が採っている「概括的な認識」は、刑法一般で論じられる「概括的故意」の考え方を採っており、あまつさえ、租税(刑)法上は概括認識説と個別認識説との(学説、判例ともに)対立が見られる中、「概括的故意説」と「概括認識説」との考え方を折衷して併用・適用したことにつき、その必要性、合理性、適法性について何らの言及、説明もせず、「概括的な認識があれば足りると解される」としているのみです。因みに、近時の研究には、「概括的認識があれば故意は全額に及ぶとする見解は、逋脱犯の成立を拡大する危険性があり、支持するにはなお検討を要すると思われる。逋脱犯を犯したことにより免れた税額がいくらであったかということは、刑の量定の上で重要な意味を持つことも指摘されていることにも鑑みれば、基本的には、個別的認識説によるべきであろう。」とするものが見られます(伊藤秀明「租税逋脱犯の諸問題」『税務行政法の制度的環境変化と法的課題』日税研論集75所収 2019,3)。

 

繰り返しになりますが、仮に本件事件のように、一般権力関係にある課税当局が元々からの無理筋を強引とも思われる手法で納税(義務)者の逋脱を認定して捜査当局(検察)に告発し、それを裁判所が「推認」という形で、租税刑法(行政刑法)と刑法一般との区別なく、そのまま事実認定するとすれば、国民には逋脱額やその計算根拠を明らかにされることなく、犯罪者とされるばかりか多額の追徴課税を受ける、潜在的虞すらあることになります。

 

本判決には消費税に係る外注費についても誤認、背理があるように思われます。検察官が主張しているように、仮に、被告会社と関係法人との間に一体性が認められる場合には、関係法人に外注費として支払われた金額のうち、関係法人の従業員らの賃金に充てられた部分については、人件費となり仕入税額控除の要件を満たさないことになります。しかし、本件事件においての外注費は、関連法人の人件費のみに用いられたものではなく、実際には、人件費以外の多様な費目の支払に充てられており、当然に課税仕入れに該当するもの(ex.地代家賃、福利厚生費、旅費交通費、二次下請への外注費、その他の経費、雑費等)があります。ということは、仮に被告会社と関係法人が一体であれば(そのように認定されている)、論理的に、それらの関連法人の支払いは、いずれも被告会社自身からの支払ということになり、これに対応した会計処理をする必要があることになります。

 

その処理をした上で、適切な税額の計算をする必要があり、その際には、上記の課税仕入れに該当する支払いに対応する消費税は仕入税額控除を行わなければ正しい税額を算出することができません。それにも拘わらず、被告会社から関係法人に対して外注費として支出された金額につき、人件費と課税仕入れに該当する部分とを区別することなく、その全部について仕入税額控除の対象外としており、かかる外注費の捉え方と計算方法には明白な背理が認められますが、この点についての検察官による明確な主張・立証はなく、本判決においても、「『事業者が当該課税期間の課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿及び請求書等を保存しない場合』に当たると解される」とするのみです。

 

これは、ここまでに再三述べてきているように、本判決は関係法人には実体がないことを前提に書かれていますが、関係法人には施行会社としての歴然とした実体があり、また、以下に詳述するように、わが国の税務行政の中枢において長く勤務し、税務行政に深く携わってきた人物(以下、「H氏」という。)の法廷における証言からも、消費税法30条7項を曲解したものとの疑いを強く感じさせるものです。H氏は、全国各地の税務署長や調査担当者を指導するポストを歴任し、当該官庁を退いた後の現在は、自らの税理士事務所を開業しています。H氏は、税務上の法人間の一体性の評価に関して、法廷における証人尋問で大要、以下のような証言を行っています。

 

1「人件費を外注費に振り替える事例として、①個人資産家が不動産管理会社を立ち上げ不動産管理料を支払うケース、②税理士ないし税理士法人が会計法人を立ち上げ記帳代行部分を外注するケース、③印刷業を営む会社が別法人を立ち上げ製本部門を外注するケース、④建築関連業種において元従業員を、いわゆる一人親方として独立させ給与ではなく請負代金として外注費を支払うケース等を経験してきました。」2「①、②、③のケースにおいて、設立された法人は、いずれも親会社や個人事業主(以下「親会社等」という。)の指揮命令下にあり、また、事務所所在地も親会社等と同一か近隣にあることが殆どでした」。3「①~④のケースを通じて、親会社等と関係法人等の実体が同一であることを理由に、消費税法違反が問題となった事例には一度も接していません」。4「関係法人を立ち上げて当該関係法人から人材派遣を受ける例が国税庁ホームページの質疑応答集に掲載されている通り、グループ企業内での外注や派遣は珍しいものではなく、実質的同一性を理由として消費税法違反が問題にされることは、社会的にはほとんど見られませんでした」。5「関係法人が、親会社等の意向や指示を受けて仕事をすることはむしろ当然の成り行きであり、税務上、指揮命令関係や親会社等の影響力の大きさを理由に、両者の一体性を論ずることはできません」。と述べています。

 

裁判官は、検察官の予断とも思える公訴事実に基づき、書面上でのみの無批判に「浮世離れ」したような理屈での判断を示すのではなく、世間一般の常識に沿った、国民が受け容れ、万民が納得できる判断を示すべきと強く感じられるところです。蓋し、わが国も、そろそろ税務訴訟を民事訴訟とは切り離して独立させ、税務訴訟は創設した「租税裁判所」で裁く司法制度を設けるべき時期にきているのではないでしょうか。租税刑法分野はそれとは考え方が異なりますが、そうすることで、この分野がいい意味での示唆を受け、従前の固定観念から脱皮した、いわゆる租税法典(租税実体法)の指導理念に遵った、国民が首肯できる考え方なり判断を示すことが可能となると同時に、期待できる裁判司法の確立につながっていくものと考えられます。(つづく)

 文責(GK

 

金山会計事務所 ページの先頭へ