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さる税法違反被告事件判決に対する疑問 その1

2019/05/05

今回からタイトルを若干変えたいと思いますが、内容そのものを大きく変えるものではありません。これまでに取り上げてきた消費税法違反、地方税法違反、法人税法違反被告事件(以下、「本件事件」という。)については、筆者の租税法学者としての立場なり視点から、そして被告会社、被告人A氏及び被告人B氏(以下、併せて「被告人ら」という。)側の証人としての立場、及び被告会社の取引先金融機関から依頼を受けて就任した顧問税理士としての立場や視点、また、証人として法廷で証言している時以外の公判の全てを傍聴してきた者として、当該消費税法違反、地方税法違反、法人税法違反被告事件判決(以下、「本判決」という。)に対して、気付いたことをそのまま、また、法廷での検察側と弁護側のやり取りを通じて感じた疑問をそのまま、それぞれの立場を区別せず、ランダムに述べてきたものでした。今回からは、それらの立場や視点等はこれまでと同様としつつも、本判決に沿って、より詳細に感想を述べてみたいと考えています。

 

このコラムで累度にわたって述べてきているように、裁判所が検察官の主張に沿い推認によって強引に結論付けたとも見える「被告会社と関係法人が実質的に一体」との判断には、どうしても違和感が拭えません。この点は本判決の「肝」とも言え、ここがグラつけば検察官の主張が瓦解し、それに伴って本件事件の公訴そのものが成立しなくなる虞すらあり、裁判所の事実認定を含めた最終的な判断に大きな影響を与えることになるため、検察を含めた裁判司法は、通常の社会生活上(社会通念上)は、見過ごされるような事象までも強引に事件と関連付けて(印象操作して)いるように見えるのです。このため、以前のコラムでも触れているように、検察官は、①従業員の所属、②従業員の採用・指揮命令、③請負業務、④経理業務、⑤設立状況等、⑥決算・納税という6項目を挙げて被告会社と関係法人との一体性を主張しており、その主張に沿う形で裁判所も推認、事実認定しています。しかし、本件事件においては、突き詰めれば、「外注費か人件費か」が争われており、外注費を人件費に仮装したか否かが問われているところから、その一体性を判断するためには、被告会社と関係法人との取引には請負契約の実体が備わっていたか、関係法人と職人らとの雇用契約には実体が備わっていたかこそが重要視されるべきであり、また、それらが審理され、判断されれば足りると思われます。

 

そこで、このようないわゆる「判断の要素」に関連して、被告会社と関係法人との実質的な一体性について見ていくと、関係法人は、被告会社とは独立した別個の会計・経理処理を行って確定申告をしており、その独立性を示す帳簿類も完備していて、対外的にも資本関係や役員関係が被告会社とは異なります。また、関係法人は、本店事務所を独自に構えてその賃借料も支払い、独自の資産も有しており、関係法人の計算で車両修理費、会費、贈答品購入費、従業員の健康診断費用、備品購入費用等を支払い、独立した企業としての運営実態が認められます。その上、旧関与税理士も被告会社とは別の法人として扱い、顧問契約も別個に締結していたことなどの諸事情からすれば、被告会社と関係法人との間に実質的に一体と看做されるような特殊な関係を見出すことはできません。

 

加えて、請負代金の決定方法などの観点からも、請負契約としての実質が認められ、また、職人の採用、契約書の存在、在籍中の取り扱い、事業関連官公庁との関係、退職時の手続等いずれの観点からも、職人らの雇用関係は関係法人との間にあったことが認められることからすると、被告会社から関係法人に支払われた金員は「人件費」ではなく、「外注費」であることが明らかであると言えるものです。以上の社会通念的な観点からは、被告会社と関係法人との間に実質的一体性を認めることは困難であり、また、前号までにも触れている証人H氏の証言等を総合すれば、ここまでのところを検討しただけでも、消費税法及び地方税法を適用して被告人らを処罰しなければならないほどの事情はないように思われるところです。

 

念のために、裁判司法が認定した前記6項目に対する弁護側の反論としては、大要以下のようなものです。①従業員の所属について検察官は、従業員の所属はもっぱら社会保険の加入の有無により区別され、社会保険加入を希望しない従業員は、関係法人に所属していたと指摘していますが、この点が、何故被告会社と関係法人との一体性を示す事実になるのか説明されておらず、理解することは困難です。また、事柄の是非は別として、関係者が共通して証言しているように、ゼネコンからの発注金額に福利厚生費としての社会保険料が含まれていなかった時代に、一方では、社会保険に加入することが一次下請業者たる被告会社の経営圧迫要因となり、他方、職人らにとってはその加入によって給与手取額が減少するため、むしろその加入を望まないものが大半であったことは、関係者への尋問でも明らかとなっています。そこで、これに加入しない職人らの受け皿として、関係法人が存在したのは事実であるとしても、当該関係法人が、被告会社から、法的にも経済的にも、正規に請負契約を受注していたことは上述のとおりであり、関係法人の従業員らが社会保険に加入していなかったことが何ら検察官の主張を根拠付けるものではありません。

 

②従業員の採用・指揮命令について検察官は、被告人A氏が決定した条件等に基づいて従業員を採用していた、関係法人の職長及び職人らを「本隊」と呼び、それ以外の協力会社と区別した上、「本隊」の従業員は被告人A氏の指揮命令に服していたと指摘しています。しかし、これは明らかな事実誤認であり、関係法人における従業員の採用は職長の判断で行っており、被告人A氏に決定権があったかのごとき指摘、主張は事実ではありません。関係法人が被告会社のグループ法人であり、両社に一定の関係性があったことは否定できませんが、建設・建築関係の事業を営む会社では、そのような呼称を使用するのが一般的であり、関係法人の職長及び職人を「本隊」と呼んでいたことの何が悪いのか理解できません。ここでも、裁判司法という、ごく限られた閉ざされた社会の認識(常識)が気になるところです。上述のように問題の核心は、「外注費か人件費か」であって、グループ会社の職人らを「本隊」と呼んでいたことを、然も然も「悪性強きが如くの印象操作」をして強引な結論とすることには、強い違和感を覚えるものです。当該呼称の事実は、問題の核心からほど遠い、無関係のものであることは論ずるまでもありません。請負契約の実質という点においても、関係法人と協力会社との間に差異は認められません。また、証人H氏が証言したように、仮に関係法人に対し、親会社等の立場にある被告会社からの指揮命令が及んでいたとしても、それはむしろ当然のことであり、消費税、地方税法上、両社の実質的一体性を検討するに当たって、重要視されるべき事柄ではありません。(つづく)

 文責(GK

 

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