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さる税法違反被告事件判決に対する疑問 その2

2019/05/18

請負業務(業務内容)については、被告会社の従業員と関係法人の従業員が一緒に業務を遂行していた、関係法人の商号変更に関わらずその業務内容は同一であった、関係法人の従業員が対外的には被告会社を名乗っていたことなどを指摘しています。しかし、一般社会のうちでも、特に建設関係業界においては、一次下請と二次下請との従業員が協力して業務を遂行することはごく一般的であり、そのことが、必ずしも被告会社と関係法人が一体であることを示しているとは考えられません。また、商号変更後も関係法人の業務が同一であったことについて、関係法人相互間の同一性の根拠と考えるならまだしも、そのことが被告法人と関係法人の間の同一性の直接根拠とすることは、論理不整合であり、かなり無理があるように思われます。さらに、関係法人の従業員が対外的には被告会社を名乗っており、建設現場においても被告会社名の入ったヘルメットを被っていたことを指摘していますが、被告人側証人尋問でも明らかにされていたように、二次下請、三次下請の業者が、一次下請業者のヘルメットを被って作業に従事することは、日常的であり、どこの作業現場でもよく見受けられる光景であり、これらも被告法人と関係法人の間の同一性を直接証拠付けるもではないように思われます。

 

経理業務については、関係法人の経理業務全般を被告人B氏が中心となって行っていた、宛名のない領収書について被告会社と関係法人に適当に振り分けられ両社の経理が厳密に区別されていなかったことなどを指摘しています。指摘のように、関係法人が被告人B氏に経理業務を委託するのであれば、業務委託契約を締結するなどした方が、外形的には、両者の独立性をわかりやすくし、誤解を生じさせなかったのは事実でしょう。しかし、取引関係の濃密なグループ企業内において、親会社の立場にある会社の経理責任者が、関連する法人の経理にも携わることは一般的であり、そのことが両社の一体性の決定的な根拠と考えることは、聊か「為にする議論」に過ぎないのではないかと思われるところです。というのも、関係法人は、被告会社とは別にI税理士との間で税務顧問契約を締結し、I税理士も被告法人と関係法人とを明確に区別して経理業務や顧問業務を行っていたのであり、両社の経理が混然一体としていたとの指摘は的を射ていないように思えます。因みに、関係法人のひとつであるH会社の経理担当をしていたS氏は法廷においての証言で、宛名のない領収書は、領収書を持参した者の在籍に基づいて振り分けたり、その者に直接確認するなどして、適宜・適切に振り分けたとしています。

 

設立状況等については、関係法人の設立にあたって代表取締役の人選は被告人A氏が行い、出資金は被告人A氏及び被告人B氏が出捐し、設立及び解散の手続は被告人B氏が行っていたと指摘しています。これらについての概括的な事実は、弁護人側も完全に否定はしていませんが、一般論として、被告人A氏が関係法人の代表取締役の人選を行うこと自体は、グループ企業の在り方として特段不自然なことではなく、これをもって両社の同一性の根拠とすることにも無理があるように思われます。というのも、H会社の代表取締役であった故O氏は、同社の加工センターにおける業務において中心的な役割を果たしており、代表者としての業務執行行為を行っていたという事実もみられます。また、出資金の出捐については、被告人両名が実質的な拠出者であったとしても、法形式的には、被告人両名が貸し付けた金員を財源として関係法人の各代表者が出資したと見ることが一般的であり、この点でもまた、被告会社と関係法人の同一性を決定付けるほどの事情とはいえません。さらに、関係法人の設立・廃業に関わる手続に関する指摘も、司法書士らへの手続依頼を誰が行っていたかという形式論を強調する以上の何ものでもなく、結論に直結するような重要な事情とはいえないところです。

 

関係法人の決算・納税については、その代表取締役が直接関与していなかった点を指摘しています。しかし、グループ企業内(特に業務執行の中核を親族が占める、いわゆる同族会社間)において、親会社的な立場にある会社の経理担当責任者が中心となって、関係法人の決算・納税にも実質的な関与を行うということは、不自然なことではなく、この点もまた被告会社と関係法人の同一性を決定付ける事情とはいえません。また、上記に述べたように、関係法人の会計処理については、被告会社とは区別した形で日々の仕訳処理がなされ、それに基づいて帳簿が作成され、その結果に沿って決算・納税がなされており、一連の決算業務を行う一時点において、関係法人の代表取締役の関与がなかったという、いわば形式論を強調し過ぎているように思われるところです。

 

ここで、本件事件において、何故「被告会社と関係法人との実質的な一体性」という議論が持ち出されたのかについて考えてみたいと思います。上述のとおり、被告会社と関係法人との取引関係は、社会的に見ても法的に見ても請負契約としての実質を有しています。また、職長をはじめとする職人らの雇用契約の相手方が被告会社ではなく関係法人であったことは疑うべくもない事実です。加えて、経理上、会計上あるいは税務上も両社は区別されており、関係法人に関する詳細な帳簿が作成され、関係法人が独自に決算・申告を行っていたこと等の両社が独立の法人であったことを示す根拠は少なくなく、かつ明確であり、「被告会社と関係法人の一体性」という理論を媒介として、「外注費を人件費に仮装」したとする検察官を含めた司法の強引とも思われる理論構成は、聊か度を越して不自然にさえ思われます。そこで、本コラムでは何故このような強引とも思える立論がなされるに至ったかを検証してみたいと思います。

 

課税当局及びその告発を受けた捜査当局が、消費税法及び地方税法に関連して、本件事件を問題視するに至った核心と思しきは、「2年ごとに関係法人の開廃業を繰り返し(事件当時は基準期間が2年間であり、実質その期間は免税となる)消費税の納付を免れていたこと」であると推察されます。すなわち、「消費税の基準期間を悪用して、次々に関係法人の廃業、設立を形式的に繰り返し、本来であれば、設立3年目以降(基準期間経過後)に納付しなければならない消費税を免れている」という消費税の制度上の瑕疵を突く潜脱行為に対する危機感にあったと思われます。しかし、消費税法を含め、基準期間が終了するごとに法人を閉鎖、廃業し、新規に開業、設立してはならないとする法令、規定は見当たらず、消費税法には「行為計算の否認規定」も存在しません。道徳的な善悪はおくとして、規定がない以上、租税法律主義の観点からは、「罪に問うこと」には問題があると考えられます。仮に、それを許さない、あるいは許してはいけないとするのであれば、立法によってその「穴」は塞がれるべきものと考えられます。(つづく)

 文責(GK

 

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