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さる税法違反被告事件判決に対する疑問 その3

2019/06/03

また、納税義務者たる名宛人についても疑問があります。仮に、司法がとっている理論構成を前提にすれば、消費税を免脱していた主体は誰になるのでしょうか、それは、論理必然的に被告会社ではなく、関係法人であるということになります。何故なら、消費税の基準期間(≒免税期間)経過後も関係法人が同一社名の法人として存続していた場合の納税義務者は、言うまでもなく関係法人であるからです。そうだとすれば、開廃業によって消費税を免れていたのは、関係法人ということになります。また、その場合は前述したように、本来、問題になるとすれば、「被告会社と関係法人の一体性」ではなく、「関係法人相互間の一体性」になる筈です。若干敷衍すれば、「法形式上は異なる法人名と法人格を取得してきた一連の関係法人は、実質的には同一のものと評価できるのではないか」、「したがって基準期間経過後は、形式的には異なる法人格となったとしても、新たに設立された法人に消費税の納税義務があったのではないか」というのが、本件事件における本来の問題意識の核心になる筈であるからです。

 

しかし、わが国における消費税の特質上、納税義務の判定するための基準期間(この期間は事実上免税である)を設ける必要性から、法制度上に消費税の基準期間(免税期間)が厳然と存在する以上、社会的経済的妥当性や、事柄の良し悪しはともかく、「関係法人相互間の一体性」という枠組みでは、現存する関係法人を対象としての消費税・地方消費税を徴収することは実質的に困難であると考えられます。何故なら、徴税の容易性や徴税コストにもまして、担税力という観点からは、関係法人より被告会社を対象とした方が消費税・地方消費税を徴収しやすいからです。そこで、消費税の制度上の瑕疵を突く潜脱行為に対する危機感に加え、「被告会社と関係法人の実質的な一体性」という、本来の問題意識の核心とは違うアイディアを持ち出すことにより、「被告会社が関連会社に対して正当に支払っていた外注費は、実は人件費であった」との見解のもと、本件事件が立件されたのではないでしょうか。

 

というのも、本来は、「関係法人相互間に実質的な同一性が認められ、新たに設立された関係法人が消費税・地方消費税を納入すべきだったのではないか」というのが問題の核心であり、関係法人が消費税・地方消費税を免れたといえるか否かが問われるべきであるにも拘わらず、「被告会社と関係法人の実質的な一体性が認められるか(認められるとすれば、関係法人に対して支払った外注費は人件費であり課税仕入れにならないのではないか)」という問題設定にすり換えられ、いつの間にか被告会社が消費税・地方消費税を免れたとしてその責任が問われることとなっていったと思われるからです。また、本件公訴提起は、問題の核心からはズレた形で、かなり強引な形でなされ、しかも親子二代にわたって密接な関係にあって事情を知悉していると思われる当時の関与税理士はもとより、税理士事務所の職員をあげて偽証の疑いが濃厚な供述を繰り返し、しかもそれらの検察官側の証人の責任が問われていない点も甚だ不可解であり、これらの点がこのコラムで累時にわたり指摘してきているような何らかの取引(司法取引)を想起させるものとなっているからです。

 

本件事件の審理を通じて、検察官の主張、立証を全面的に採用する裁判司法は、ここまでに述べてきたように、通常の社会生活上(社会通念上)は、見過ごされるような事象までも積み重ね、強引に事件と関連付けて(印象操作して)事実認定をしているような印象を与えるものでした。そのような中で、特に検察官は、関係法人が開廃業を繰り返していたことを、被告会社と関係法人の一体性判断の重要な要素として位置づけているように感じられました。このような検察官の対応は、本件事件の問題意識の出発点は「関係法人の開廃業による消費税の免脱」であった筈にも拘わらず、いつの間にか直接の争点が「被告会社と関係法人の一体性」に置き換えられたことを物語っているように思われました。そもそも本件事件においては、「人件費を外注費に仮装したかどうか」が問われているのであって、審理すべきは、「関係法人は被告会社から独立した事業実体を有していたか否か」であり、「開廃業の判断が誰によってなされたか」ではありません。「開廃業の決定ができたのであるから被告会社と関係法人は一体」だとするような乱暴かつ飛躍した判断は誤りという他はないように思われます。(つづく)

 文責(GK

 

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