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さる税法違反被告事件判決に対する疑問 その4

2019/06/19

本件事件において被告人らは、これまでにも述べてきているように、一義的には租税法律主義(何人も法律の根拠がなければ、租税を賦課されたり、徴収されたりすることがない<況してや法律の根拠なしに逮捕、拘留されることなどあり得ない>とする考え方)が貫かれるべき租税(刑)法領域において、明白な法規定の根拠も直接証拠(いわゆるタマリといわれる隠匿金員等)や自白もなしに、1年を超える長期間の逮捕、拘留をされています。上に述べる租税法律主義の直接的意義としては、国民の経済生活に法的安定性と予測可能性を与えるとするものですが、そこから派生する考え方としては、「経済生活」に限定されず、広く「国民生活」に法的安定性と予測可能性を与えるものとして考えることができます。そうだとすれば、自白も得られていない状況で起訴され、また、逮捕後は人権無視の環境下において、連日のように違法とも評価できる検事による取調べを経てすらなお直接証拠を示すことなく、結果として本判決が採っているように(直接証拠によらず)、その殆ど全てを(予断が強く疑われる)推認による事実認定によって有罪とする手法は違法とも評価できるのではないでしょうか。

 

上に違法とも評価できるのではと述べましたが、その一部として、被疑者(被告人)に対する(副)検事による取り調べにおいて、被疑者自らの記憶やそれに基づく供述に反する調書が作成され、それにつき、後日、次の内容の「供述調書訂正の申入書」を提出しています。すなわち、「平成○年○月○日、そちらで作成されました供述調書には、以下の7点において私の記憶及び述べた内容と違う部分があるような気がします。仮にそうだとしますと、私の記憶に従って述べたところを正確に調書に表示して頂きますようご訂正の程、よろしくお願い申し上げます。」とするものです。しかし、取り調べに当たった同副検事は、当該供述調書の訂正を約束しながら、結局、検察側に有利な内容が書かれている当該供述調書を訂正せず、そのまま放置されています。

 

また、消費税に関する質問では、同副検事は被告人に対し、「あなたは消費税を横領しており、(刑法における)横領罪が成立します」と誤った情報で法知識に疎い被疑者を精神的に追い込み、消費税逋脱の自白を強要しています。しかし、法的に被疑者(事業者)が消費税を横領できる関係にはないことは、消費税法第5条の「納税義務者」の規定を存知していれば明らかであり、担当副検事の勉強不足、知識不足が気になるところです。このことを含めた、本件事件の特異性については、これまでこのコラムを通じて、所轄税務署による税務調査の段階、国税局による査察調査及びそれに基づく告発の段階、検察庁による逮捕、勾留及び検事取調べの段階、起訴及び刑事裁判の段階、裁判官による事実認定及び判決の段階につき、それぞれに疑問点を述べてきたところです。

 

それらのうちで、これまでこのコラムで取り上げなかった消費税に関する裁判官の事実認定にも、大きな誤り、ないしは明らかに(消費)税を知らずして認定していると思われる個所が見受けられ、本判決にも影響を与えていると思われます。それは、前回のコラムにも触れましたが、I税理士の事務所の職員Yが、210日に被告会社の当四半期の消費税概算額を被告人Bに示したとする供述で、これこそは、絶対にあり得ないことなのです。I税理士の事務所は期中現金主義で帳簿を記入しており、試算表は作成されておらず、況して、被告会社の210日の時点では、あの複雑な「個別対応方式」による消費税概算額を算出することができるとすれば、11月末が限界であり、物理的に不可能といえます。それにも拘らず、本判決においては、「…消費税額の暫定的な概算に関する質問と回答があったとする(Y証人の)供述は信用することができる。」と認定しています。

 

その一方で、「その事実を否定する被告人Bの供述は信用することができない」としています。また、消費税の逋脱に関し、平成1X年及び平成2X年の各税務調査時に調査官が被告会社と関係法人とが一体であるとの指摘もせず、調査官が「関係法人をこのまま存続させなさい」と言ったことにつき、被告会社と関係法人とが独立したものであり、このようなものが適法であると是認するものではないとしています。この点につき、国税幹部として東京国税局勤務や全国の税務署長を歴任し、現在は税理士として活躍しているH税理士は、法廷で概要次のように証言しました。すなわち、「関係法人を作ってそこに外注費を支払うことは取引社会において頻繁に見られる事象であり、それらに関して、税法上、人件費を外注費に仮装したと評価されることは殆どなく、また、被告会社等と関係法人の一体性を論じるにあたって指揮命令関係や被告会社の影響力を必要以上に強調することは誤りと言える」としています。このことは、消費税に関しては、極めて特殊な関係性がない限り、両会社の一体性を理由とした課税をすることは許されないことを示しています。

 

しかし、裁判官は本判決において、国税内部の処理手続きを知らずしてか、輝かしい経歴のH税理士のことを侮蔑したかのような表現で、『税務署勤務歴のあるH税理士』の供述は「単に限られた自己のかつての経験にのみ基づく一般的推測の域を出ず、本件における過去の税務調査の具体的内容を踏まえたものでもないし、また、税務当局における運用一般を述べるものではな」く「信用することができない。」としています。あまりにも無神経、税務行政庁の内部事情(手続)に対する無知、非常識という他はありません。少なくとも租税(刑)法の領域の職務に携わる裁判官、検察官、弁護士等の司法関係者は、租税法学の専門知識を身に付けることが求められることを痛感するところです。(つづく)

 文責(GK



 

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