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さる税法違反被告事件判決に対する疑問 その5

2019/06/30

前回にも触れましたが、平成1X年及び平成2X年の各税務調査時にS調査官らが「(社会保険未加入者の受け皿としての関係法人が)ないと(被告会社を存続させる上で)困るでしょ」、「だったら、(関係法人を)このまま継続させなさい」。との趣旨を被告人Bに告げたことにつき、裁判所は、「被告会社と関係法人とが独立したものであり、このようなものが適法であると是認するものではない」との判断を示しています。しかし、この判断こそ税務行政庁の内部事情(手続)に対する知識、認識の不足・欠如というか、もっと言えば、税務当局、検察庁、裁判所を含む裁判司法にとって不利な質問や答えに蓋しようと画策する、むしろ、“最初に結論ありき”の欺瞞に満ちた判断を補強せんがために示されたことを強く推認させるものではないでしょうか。以下に、その遣り取りを傍聴した内容に沿って述べてみたいと思います。

 

前回のコラムにも触れた、税務行政庁の中枢に40数年間勤務し、税務行政に関する経験が豊富なH税理士に対して、弁護人は法廷での証人尋問において、所轄税務署による税務調査に関して次のように質問しています。(弁護人)<税務署が税務調査に入って、申告内容に関する疑義が拭えなかったようなときに、調査を終えずにそのまま放置してしまうというような経験はありますか>。この質問に対してH税理士(証人)は次のように答えています。(証人)「ありません、疑いが拭えなかったとき、あるいは、統括国税調査官、調査担当者の上司がまだ調査不足だと判断した場合には、再調査を担当者に指示しますので、そこで徹底解明されるまで調査は継続されることになります。」

 

(弁護人)<疑いが残る以上、徹底解明する、調査する、逆に言うと、疑いがなければ調査はそれ以上しないということですね>。(証人)「はい」。(弁護人)<調査しなかったとなると、税務署としてはどのように考えたということになるんでしょうか>。(証人)「調査するまでもなく、当該取引等が適正なものと税法上認められるものだというふうに判断したとみるのが妥当だと思います」。(弁護人)<ここは本件訴訟の記録上明らかなので、私の方で少し整理しますが、本法廷で証言したI税理士の証言によると、平成2X年○月に被告法人に税務調査が入ったと。その際、調査官の方がB氏に対して幾つかの関係法人の名前を挙げて、これらの会社は何かと質問したと。B氏は、被告会社の社員にすると社会保険に入らなければならないから別会社にしていると答えたと。それ以外に調査官との間で関係法人の存在理由に関する質疑応答はなかったという証言がありました。証人自身の税務調査に関わる経験上、今のようなやり取りはどのような意味を持つものと認識されますか>。

 

(ここで検察官の異議あり)(検察官)「証人が体験していない事実に基づく意見を求めるものであり、鑑定ですので、それは証人尋問できないものです」。(弁護人)<今の点につきましては、先ずは、証人自身のこれまでの経歴、それから本件経過を前提とする質問ですので、事実関係に基づく推測として、刑事訴訟法156条で許容され得ると思いますし、意見を求めるものであったとしても、この点は、被告人の故意や少なくとも情状面に大きく影響するものですので、税務調査の経験豊富な証人への質問は、刑訴規則199条の132項但し書の正当な理由があるものと考えます>。(裁判長)「今の点は、国税当局の意図がどのようなものであったかという、そういう推測にわたるのではないですか」。

 

(弁護人)<推測にわたるものであったとしても、今申し上げたようなところから、本件における重要性や、証人の経験、その証言価値等々からすると、規則上の正当な理由は認められるべきだというのが弁護人の意見です>。(裁判長)「推測そのものということではなくて、証人の経験からしてどのように認識しているかという、実際に国税当局者がどのような意向であるかどうかは別にして、そのような証人としての認識を尋ねられれば十分だと思いますので、あまり深入りしても仕方がない問題かなとは思います」。(弁護人)<その点について端的にお尋ねしたいと思います。国税当局者がどう考えたかではなくて、あなた自身の経験に基づいて、今の遣り取りについては、どう認識されますか>。(証人)「調査担当者からそれ以上指摘がなかったということは、調査担当者ないし税務署がそれを認めたということだと思います」。

 

(弁護人)<証人の認識がそのようになる理由について簡単にお話して貰っていいですか」。(証人)「税務署での調査管理体制というのは非常にしっかりしておりまして、調査担当者が日々調査をした結果は、上司である統括官に報告されまして、そこで調査不足ですとか疑問点があれば、その事項について調査するような指示が出てきます。そういった調査を繰り返しながら、最終的には担当者が調査書に調査結果をまとめまして、上司の決裁を経て初めて調査が終わるという流れをくんでおりますので、税務署の組織としてその事実を認めたというふうに判断していいと思います」。

 

(弁護人)<これも税務当局の考え方を推測して頂くのではなくて、あなた自身の事実経過に基づく認識をお話頂きたいと思いますが、税務調査で指摘されなかったことを理由として、本件経過の中で、納税者が同じ行為を繰り返すことについてはどのようにお考えになりますか>。(証人)「指摘がないということは、逆に言えば、認められたと捉えられて当然でございますので、それを根拠に同じ行為を繰り返すことは至極当たり前のことだと思います。ちょっと補足させて頂ければ、仮にその時の税務署の判断が間違っていたとしても、後の調査等々で間違っていたとされた場合でも、その行為を継続させた責任は税務署側にもございますので、その責めを、加算税等の責めを納税者に負わせるというのは非常に酷なことだというふうに私は感じております」。(つづく)

文責(G.K

 

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