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さる税法違反被告事件判決に対する疑問 その6

2019/07/12

「公平」が最重要視される税制(税法)の実務の領域において、しかもその根幹にあるともいえる東京国税局で40数年間幹部職員として他の職員を指導する立場にあった、そのようなキャリアの持ち主の得難い重要な証言すらも、侮蔑するかのような表現で斬り捨て、一顧だにしない裁判長裁判官の判断(態度)は、非礼で非常識極まりないとさえ感じられるものでした。また、租税刑法(行政刑法)の領域に、同種の他の事案との比較衡量することなく、刑法一般の概念、判断を何らの合理性の検討することなく持ち込むことは、一般市民の常識からはかけ離れ、違和感すら覚えさせるに充分なものでした。因みに、「公平」の法概念は、日本国憲法第14条の要請であり、最も基本的、重要な原理の一つであって、「課税権の行使を含む国のすべての統治行動に及ぶもの」として、曩の最高裁大法廷判決が示すところでもあります(最大判昭和60327日民集392247頁)。

 

公平に関し本判決は、「平成2X年○月期においては、売上の一部を除外するとともに架空の外注費を計上するなどした上、所得を過少に申告しているのであるから、被告人A及び被告人Bの(脱税の)認識についてはいったん措くとしても、少なくとも客観的に見れば、法人税法1591項の「不正の行為により・・・法人税を免れ」た場合に当たることは明らかである」としています。しかし、脱税行為を否認している被疑者(その時点においては)らを、検察が1年を超えて勾留して執拗に自白を迫りながら取調べてさえも、なお事実認定に必要な直接証拠を得ることができなかった、その者(被告人ら)を、裁判所は、「架空の外注費を計上するなどした上、所得を過少に申告している」と認定しています。

 

しかし、その一方では、肝心な被告人らの認識(故意)についてはいったん措くとして、いわゆる表面的に存在しているように見える事実関係、すなわち真実に存在する事実関係や法律関係から離れ、その経済的側面や経済的効果のみから構成要件の存否を判断しているように思われます。不正の行為により税を免れる脱税犯の構成要件は、刑法第38条第1項が、原則として、故意犯のみを罰することとしているところから、脱税犯においても、故意(脱税の認識がありながら、敢えて脱税行為をしたこと)が必要と思われます。そうだとすれば、被告人A氏、同B氏の脱税をすることに対する認識は、脱税犯が成立するための必要条件であり、本判決が示しているような、いったん措くといったような消極的な事実認定しかできないような程度の、「真実に存在する事実関係や法律関係から離れ、その経済的側面や経済的効果」からの間接事実のみで脱税犯の事実認定をしていい筈はないと思われます。また、「架空の外注費を計上するなどした上、所得を過少に申告している」ことに対する最終的責任は、当時の経営者と経理責任者であった被告人A氏、同B氏にあるにせよ、税務申告書等に実際に記名押印して、それらの書類を作成し課税庁に提出した、いわゆる「実行犯」としてのI税理士の責任が問われていないことは、同種の他の事案に比べて、極めて、Rechtssicherheit(法的安定性)を欠いて不自然であり、公平性という観点からも大いに問題のある取扱いと考えられます。

 

加えて、所轄税務署による被告会社の税務調査時に調査官が示した公的見解についても、裁判長裁判官の、「被告会社と関係法人とが独立したものであり、このようなものが適法であると是認するものではない」との、課税庁を全面的に擁護するかのような認識ないし判断は、一市民であり、納税者であり、傍聴人でもある筆者を納得させるものではありませんでした。というのも、課税庁が一旦示した公的見解を、後になってこのように簡単に覆すことは、禁反言の原則=信義則(法の一般原則として、公法、私法の区別なく、当事者が相手側の信頼にそむかず誠意をもって行動しなければならないとする原則)に反し、また、課税庁が示した判断を、後に一方的に覆すことになれば、課税庁と国民の信頼関係はたちどころに崩壊し、租税正義は地に堕ち、申告納税制度の崩壊に繋がることは明らかであると考えられるからです。

 

さらに、本判決は、「事業年度を区分することにより税額を計算し確定されることから、事業年度を正確に区分することは税務申告上当然求められるところ、本件において、平成2X年○月期の売上及び法人税額として行うべき計算に基づく実際額と申告額が異なっているという客観的事実には変わりないのであるから、……不正の行為と評価できる」としています。その一方で、検察官の主張内容をそのまま維持する裁判長裁判官は、弁護側の証人尋問の終わりに、(誤りのある会計処理より)「税務申告」についてのみに限定する形で、証人に質問しています。その質問の意味するところは、仮令、間違った会計処理であったとしても、税務申告さえ正しくなされていれば問題がないのではないかという趣旨と思われます。しかし、正しい事業年度に区分して正しい税額を算出するためには、正しい会計処理が大前提であり、それがあってこそ、初めて正しい税務申告が完結することとなると考えられます。

 

適正な(財務)会計による処理によって適正な期間損益を算出し、それを受けた適正な(税務)会計により適正な税額を算出することが、申告納税制度における会計に課せられた重要な役割の一つであり、それらの正しい会計処理なくして、正しい税務申告はあり得ません。したがって、本判決がいうところの「事業年度を正確に区分することが税務申告上当然に求めら」れるのであれば、正しい会計処理が必須であることは自明の理といえます。(つづく)                                                                                                                      文責(G.K

 

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