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さる税法違反被告事件判決に対する疑問 その7

2019/07/23

ここまでにも述べてきているように、本件事件は、税法違反被告事件という、行政刑法領域の、しかも否認事件において、異例の経過を辿ってきたように思われます。というのも、本件事件が課税当局から検察官に引き継がれる前の捜査段階においては、以前のコラムにも触れたように、所轄税務署の税務調査において、担当調査官から修正申告の「慫慂」(現在は<勧奨>と表現が変更されています。)、同時に当該所轄税務署長宛に「申述書(誓約書)」の提出を条件に青色申告承認の取消は行わないとする、「行政指導」をそれぞれ受け入れ、納税者(=被告人)として必要な書類の提出を行っていました。ところが、そのおよそ1ヶ月後に、突然、国税局による強制的な査察調査があり、これを受けた脱税嫌疑による告発が検察官に対してなされ、当該「行政指導」は反故にされています。

 

脱税事件については、国税局による強制的な査察調査が行われることが一般的であり、当該調査において脱税の嫌疑がある場合には、本件のように、検察官に対して告発がなされることになります。告発がなされた事件については、国税当局から検察官に捜査が引き継がれ、刑事事件としての手続が開始されることになります。その際、脱税の嫌疑がある者は、逮捕されるケースが多く見られますが、逮捕・勾留期間中に自白しているケースが殆どです。というのも、通常の場合、脱税事件の捜査は、事前の税務調査(国税局による査察調査を含め)、が相当綿密に行われ、当局によって既に証拠固めされているからです。したがって、仮令、否認事件であったとしても、弁護側の保釈請求を受け入れて保釈しても、その実害は少なく、本件のように、数度の保釈請求に対する裁判所の求意見に対して、その度ごとの検察官のステレオタイプの「逃亡の虞」、「罪証隠滅の虞」を理由とする反対意見は、嫌がらせにも似て、「人質司法」の謗りを免れないものではないでしょうか。

 

本件事件において、裁判所は、被告人らは「架空の外注費を計上するなどした上、所得を過少に申告している」と認定していることは、前回も述べたところです。その認定の基礎となっているものの建前は、国税当局が相当の時間を掛け、綿密に調査をしたものであり、その上で、それらを検察官に引き継ぎ、それを基に検察官が公訴事実としたものです。したがって、裁判所は基本的にその事実とされたもの(本を正せば国税当局の調査が基礎となっています。)について判断をし、認定していることになります。しかし、その国税当局の調査に誤りがあったとした場合、どうなるでしょうか、当然、裁判所がそれを基礎として判断した刑事事件判決には誤りがあることになります。

 

ここで一旦、刑事裁判とは離れますが、近年、国税通則法が改正され、税務当局が行った更正処分等について、その処分に不服があり、その処分の取消しを求める場合、具体的には、所轄税務署(長)に対する再調査の請求をするか、あるいはその手続を経ずに国税不服審判所(長)に対する審査請求するか、また、それらの手続のいずれをも選択することが可能になりました。本件事件の場合は、原処分庁に当該処分の妥当性を再検討して頂いた上で、審査請求をなし、もって国民(納税者)の権利利益の救済を図るべく、それらの手続の全てを選択しています。当然のことながら、その手続きを本件刑事事件裁判と並行して進めていましたが、本年6月中には、いわば再調査の請求に対する回答である「再調査決定書」を送達すると約束しながら、現在に至っても、原処分庁からの一切の連絡はありません。このことも、本文の冒頭部分で述べた「異例の経過」の一つといえます。

 

本件事件において、国税当局が相当の時間を掛け、綿密に調査をしてきたものに微塵の誤りもないとするのが「建前」なら、「本音」の部分では、実のところ、取り返しのつかないような大きな問題が存在しているように推測されるところです。よりあからさまな表現が許されるなら、本件事件においては、これまでの課税庁の見解、ないし解釈を越えて、無理矢理事件化して告発、検察と一体になって起訴に持ち込んだところに、税務行政実務の現場との間に齟齬、矛盾が生じ、未だ「決定」が出せない状態にあるのではないかとすら思われるところです。以前にもこのコラムで触れていましたが、脱税したのであれば、通常は、「タマリ」と呼ばれる脱税額相当分の現金ないし現金等価物が存在する筈ですが、それらは当局による徹底した調査においてすら発見されていません。また、肝心の脱税額の算出、計算自体も曖昧であり、査察調査時の担当官の法廷における証言においても、税額計算において、帳簿から拾い上げた金額と認定税額との間に2千万円から3千万円の開きがあったとしています。

 

脱税の疑いで告発された者は、殆どの場合、検察官によって起訴され、刑事裁判を受ける身となりますが、当該裁判における量刑は、一般に、以下のような要素を総合的に勘案、判断して決められることになります。
・ 脱税額  脱税額が多額であるほど、処罰は重くなる傾向にあります。

・ 脱税率  脱税率は、脱税額と本来納めるべき税額との割合であり、この割合が大              きいほど、処罰は重くなる傾向にあります。

・ 脱税行為の悪質性(組織性、計画性、継続性)

・ 修正申告と納税  これらを行っていると、処罰が軽くなる傾向にあります。

・ 脱税の前科  脱税の前科がある場合には重くなり、実刑の可能性が高まります。

 

本件事件においては、被告人Aに懲役2年、被告人Bに懲役16月、それぞれに執行猶予3年、被告会社に罰金2500万円が言い渡されています。このように、課税当局の調査が基礎となって、起訴され、裁判の結果によっては、国民(納税者)の財産的損失もさることながら、人権を大きく毀損、制限することに繋がることから、納税者がその義務を果たすことはもとより、課税当局においては、「租税正義」に則った租税行政の執行が求められるところです。(つづく)

                                 文責(G.K

 

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