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さる税法違反被告事件判決に対する疑問 その8

2019/08/08

前回までに、課税当局(租税行政庁)による調査(税務調査・査察調査)の結果、場合によっては検察庁に告発され、検察官による公訴の提起、裁判へと手続きが進むことを述べました。その意味では租税行政庁が課税処分等を執行する際に租税法解釈を行うことになりますが、その解釈は法の執行が前提となっているので、いわゆる「有権解釈」となり、事実上、課税当局が(租税)法を解釈し執行することになります。「有権解釈」自体は、裁判所による判決と異なり、直接国民一般を拘束するものではありませんが、その解釈に基づいて法が実行されることになり、いわゆる「公定力」を持つことから、事実上、国民(納税者)を拘束することになります。このことから、平等、公平な租税行政の執行、すなわち租税行政庁における租税正義に基づく租税行政執行の重要性ないし重大性が認識されることは前回に触れたところです。また、納税者における租税正義も考えられますが、その場合は、国民(納税者)が国家社会を営む上で必要な費用を共同で負担するために、法令等で定められた納税義務を適正に履行することを指します。

 

若干、本判決の内容からは離れたので、また、本コラムの趣旨に戻りたいと思います。上にも述べているように、本件訴訟は、租税行政庁、すなわち課税当局(所轄税務署、国税局)による脱税額の算出を含めた調査結果を、一応正しいものとして、これを基礎とする公訴事実が審理されています。当然、本件公訴事実に対する立証責任は、一次的には、検察官にあり、「被告人の有罪を確実な証拠で、合理的な疑いを入れない程度にまで立証することについては、検察官がその責任を負」うことになります。しかし、実際には、検察官が挙げた不利な証拠について、被告人(代理人=弁護人)が反論し、事実上、無実であることを積極的に証明しない限り無罪判決は得られない構造になっています。剰え、今回の場合は、それらを証明(反論)するための書類、資料等の一切は、国税ないし検察に押さえられていて絶望的ともいえる不利な状況にあります。

 

その状況下で、本判決は、法人税、消費税に共通して、「関係法人には事業実体がなかったと認められ」るとし、結果として、消費税については、被告会社の関係法人への外注費を「被告会社の従業員に対する給与を関係法人に対する外注費に仮装することにより…消費税等の納付を免れた」としています。また、法人税額については、「実際額と申告額が異なっている」としていますが、具体的にいくら異なっているかを算出する根拠が示されてなく、これらについては、被告会社及び被告人ら(弁護人)は限られた書類、資料(書証)や証人による証言(人証)によってしか、検察官の主張に対する反論をなす手立てが残されていない中、これまでにも述べてきたような、最大限度の主張(反論)をしてきています。しかし、より大きい問題としては、消費税法には「行為計算の否認規定」が存在していないにも拘らず、関係法人の税額(計算)を否認して、被告会社の税額(計算)に引き直していることです。明らかに罪刑法定主義(課税要件法定主義=租税法律主義)に反する処罰ではないでしょうか。

 

消費税法第30条第7項の解釈について、本判決は、「被告会社の本社事務所に関係法人のものとして帳簿等が保存されていたが、形式上は被告会社のものとは別に関係法人の帳簿等として保存されていたにすぎない。」としています。しかし、これについては、いわゆる言掛かりに過ぎないものと考えられます。何故なら、それまで2度にわたる所轄税務署による税務調査においても、関係法人の会計、税務処理について何らの指摘を受けることもなく、継続されてきた処理方式を突然に「脱税行為」として告発、検察官による公訴提起がなされたものだからです。また、本件事件において、仮に判決の趣旨である当該帳簿等が被告会社名義で作成、保存されていたとすれば、それこそは二重帳簿の作成に当たり、脱税の意思が真っ先に疑われることともなるからです。(つづく)     文責(G.K

 

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