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租税不服申立について(原処分庁に対する再調査の請求編…その3)

2020/01/06

新年明けましておめでとうございます。官民を問わず、一般的には大体どちらの組織体においても今日から仕事始めとされているところが多いことかと思います。これまでにも折に触れて述べてきましたが、筆者はかつて大学に奉職していた関係で、例年、14日は当時の大学院のゼミ生が新年の挨拶と近況報告を兼ねた新年会を催してくれており、今年も7名の当時の院生が顔を見せてくれました。そのうちの大部分は資格を取得、税理士事務所を開業し、新たな顧客を獲得しながら事務所規模を年々拡大させており、毎年、彼らの活躍の情況を聴くのが楽しみであり、生き甲斐でもありました。今年の新年会は、立派に巣立った教え子達の立ち振る舞いや言動が、老い行く身には、特に眩しく、心強く映り、かつて経験したことのない刺激と励ましを受けたように感じました。

 

さて、話題は前回に続いて(再調査)請求人に対する原処分庁の(更正)処分の理由に移りますが、原処分庁は、⑦外注費支払先については(法人税、消費税及び地方消費税とも)「本件関係法人が外注費を支払ったとする相手先は、請求人から仕事を受注していたという認識を持っており、A氏又はB氏から、本件関係法人宛で請求書及び領収書を作成するよう依頼された旨申述している」と主張しています。これに対して請求人は、「外注費を支払った相手先は、請求人から仕事を受注していたという認識を持っているとの指摘は、請求人において当該申述者が思い浮かばないところから、確認が困難である。仮に、その特定がなされているのであれば、相対した上で、その事実関係を明らかにしたいと考えている。いずれにしても、請求人において確認の手段すらない、申述者の特定も明らかにされない者の虚偽的・抽象的な「申述」を根拠に、納税者の悪性を際立たせようとする目論見は、租税正義からは大きく逸脱し、非難されるべきものである。」

 

「また、外注費を支払った相手先には取引関係がないにも拘わらず、A氏若しくはB氏が、当該相手先に依頼して本件関係法人宛の請求書や領収書を作成するよう依頼されたとの「申述」したとする指摘は、全くの誤りで、虚偽表示である。正確には、当該相手先には信用上の懸念があり、ゼネコンから直接工事を受注することが困難であったため、ゼネコン、当該相手先双方からの依頼を受け、信用力に勝る請求人ないしその関係法人が、いわば取引口座を貸したものであり、建設業に限らず通常の企業間取引においても一般に行われているものである。また、相手方が一人親方の場合、締め、支払及びそれに係る期日を遵守する必要性から、当該相手先の経営者に依頼されて請求人宛の請求書を作成したことがあったというのが事実である。かように事実を敢えて曲解し、虚偽の「申述」を恰も真実の事実として補強しようとして、納税者の悪性を際立たせようとする目論見は、租税正義からは大きく逸脱し、非難されることはあっても、これが本件関係法人の事業実体を否定する理由とはなり得ず、租税行政庁の採るべき路ではない」と再調査の請求書において主張しました。

 

原処分庁は、請求人が元請先に提出した下請業者編成表の二次下請業者欄には、関係法人の名前がないとして、「⑧請求人が元請先に提出した『下請業者編成表』と題する書面の二次下請業者欄には、本件関係法人の法人名の記載がない」と指摘しています。一方、請求人は、「下請業者編成表の二次下請業者欄に本件関係法人の法人名の記載がないとの指摘については、偶々、請求人が元請先に下請業者編成表を提出したタイミング(時期)、更には、前回も述べたように、「元請先(ゼネコン)が契約を締結していたのは請求人(一次下請)であることから、A氏がその施工を担当する本件関係法人(二次下請)の従業員を、元請先に請求人の従業員として伝えたり、現場に入れたり、あるいは下請業者編成表に記載されないこともあり得るのは、いわゆる経営判断としては当然であり、従業員においても、対外的にはそのような認識を示すのもまた当然である。したがって、指摘は既述の④と同様、事実関係を誤認、殊更、悪性を際立たせる印象操作をするものであり、これをもって、本件関係法人の事業実体を否定する理由とはなり得ない」と主張しています。

 

関係法人の代表者らへの確定申告書の報告等がなかったとして、原処分庁は、「⑨本件関係法人の3名の代表者は、本件関係法人3社の経営業務に携わったことはなく、本件関係法人3社の法人税の確定申告書を見たことがない旨申述している」と指摘しています。一方、請求人は、「本件関係法人の代表取締役らは、本件関係法人の経営業務に携わったことはなく、法人税の確定申告書を見たことがない旨を申述しているとの指摘については、既述のとおり、取引社会の実態においては、企業の実質的なオーナーと代表取締役が別であり、代表取締役が実質的に経営に参画しない、いわゆる雇われ社長であることは珍しいことではなく、そのような会社は、一般社会に多数存在している。仮に、本件関係法人の代表者らが「経営上の重要な判断」を行わずとも、「業務内容等」を熟知せずとも、本件関係法人の経営に支障が生ずることはない。何故なら、建設会社にあって一次下請の意向は、二次、三次下請にとっては絶対的なものだからである。」

 

「本件のような親会社と子会社に類似した法人の関係、すなわち請求人と本件関係法人にあっても、その関係は同様であり、二次下請である本件関係法人の代表者としての独自の判断は事業継続にとって邪魔になることはあっても、必要なものとはなり得ない。これは建設会社に限らず、およそ親会社と子会社(関係会社)との関係にあっては、一般に見られる現象であり、資本主義社会におけるそれが資本の論理でもある。このような場合であっても、必ずしも法人の代表者がそれらの業務を執行していなければ法人が立ち行かないわけでもなく、それらの業務を行わないから、法人の存在が否定されるというのは、問題のすり替えに他ならない。現に、本件関係法人であるS社における事業は遅滞なく遂行されており、本件のみが問題視されることには、とりわけ「公平性」「平等性」が重要視される租税法及び租税行政実務領域においては、極めて違和感があり、誘導による申述、若しくは想像による表記、更には租税逋脱認定に向けられた虚偽表示の疑いが濃厚である。原処分庁による原処分において、本件関係法人の事業の実体を否定する根拠とされている上記各事実は、いずれも通常の法人においても生起し得る事象である」と主張しています。

 

ここまで述べてきたように、本件においては、本件関係法人が自己の名義で法律行為の主体若しくは客体となっているところから、課税物件の法律上の帰属先は名義人である本件関係法人であることが事実上推定され、それ以外にも本件関係法人の法人としてなすべき手続の履践状況(決算書、申告書の作成提出、納税の履行等)からも、本件関係法人の法人としての独立性は確保されていると評価されます。このように、本件関係法人の事業実体を肯定できる裏付け要素がある一方で、原処分庁の主張、指摘に係る本件関係法人の事業実体を否定する事実は、それらを総合しても本件関係法人の事業実体を否定するに足りないと評価、判断されます。また、当テーマでは直接触れてはいないものの、虚偽記載等の法令違反、法令に違反する証拠の収集、更正の理由附記の不備、事実誤認あるいは法令適用等の誤り、任意調査における受忍義務の範囲の逸脱等、更正における事案では稀に見る強引な認定手法は、租税逋脱認定に向けられた「はじめに結論ありき」を強く推認させるものです。そうだとすれば、原処分庁は、名義と実体の相違、すなわち名義人(本件関係法人)と異なる者(請求人)が実体上の課税物件の帰属先であることを示す特別、直接の事情を主張立証していないと評価するほかないと考えられます。よって、原処分は、課税物件の帰属先判断や事業所得の帰属判定を誤り、課税物件の法律上の帰属先が請求人であることを否定するに足りる事情がないにも拘らず、本件関係法人が課税物件の法律上の帰属先でないという誤った判断に基づくものといえます。したがって、本件各処分は違法であるところから、速やかに取り消されるべきと考えます。 (このテーマ終わり)

文責(G.K

 

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