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租税不服申立の本論からは若干離れますが… その1

2020/03/29

コロナウィルスが世界的規模で蔓延し、私達の仕事を含む日常の行動も段々と制限を受けるようになった中、かつて大学に奉職していた頃の教え子で、現在は税理士として活躍しているK氏が浮かぬ顔で話し掛けてきました。相談の内容は、自分が担当している顧問先の会社の税務調査に立ち会ったところ、その会社が請け負った新築工事に伴う古屋の解体撤去時の廃材等を元従業員が会社に無断で中古品を扱う業者に売却し、その代金を横領、着服しており、その事実を調査官から指摘を受けたというものでした。そして、この場合の税務処理について所轄税務署からは、税務代理人である当該税理士に対し、元従業員が横領した金額(廃材等の売却代金)の帰属は、本来会社の収益となるものであり、それに係る法人税が申告漏れになっている状態、また、元従業員に対する認定賞与等の支給ということも考えられるのであり、修正申告して欲しいと勧奨されたとのことでした。

 

そこで、租税不服申立に係る審査請求の話題からは、若干、離れますが当該税理士からの相談を機に、今回から2回くらいの予定で、租税法と実務事例について近時の裁判例や裁決事例等を参考にしながら検討し、述べてみたいと思います。筆者は、当該税理士に「大学の講義でも話していたように、会社の(元)従業員の横領等の不法行為による会社の損失とその税務処理については、現在では3つの処理方法」が考えられる旨を話し、それを所轄税務署の調査官及び統括官にも伝えてみるが、但し、それが受け容れられるかどうかは確定的ではなく、別の問題であることも併せて話しました。因みに、3つの処理方法のうちの1つは、不法行為により被った損失とその損害賠償請求権は裏表の関係にあり、損失については、法人税法2232号の規定による損失額の確定が求められており、損害賠償請求権の行使の可否による実際の損失額が確定した事業年度においてその損失額を損金の額に算入する損失確定説といわれるものです。

 

その2つは、不法行為により損害を被った場合、その損害の発生と同時に損害賠償請求権を取得するという私法上の考え方と同様、不法行為による損失について、損失が生じた事業年度の損金の額に算入すると同時に、取得する損害賠償請求権も同事業年度の益金の額に算入する同時両建説といわれるものです。その3つは、損失の発生と同時に取得する損害賠償請求権が観念的、抽象的な債権であるところから、具体的な債権として確定したものではなく、不法行為による損失については、その損失が発生した事業年度の損金の額に算入するが、損害賠償請求権については、その額が具体的に確定した事業年度の益金の額に算入する異時両建説といわれるものです。

 

今回の事例も、横領された金員(売却代金)は既に費消されており、その回収の困難性もあり、実務においては、上記の3つの説のうちのいずれかの処理が採られることになると思われます。いずれにしても、損害賠償金の資産計上と収益の認識の問題は、横領した従業員に対して給与(賞与)を支給したと認定されることはなく、したがって、これまでの司法判断(判決)においても、従業員の横領等による金員の領得が給与として課税された事例は皆無であり、原則的には、損害賠償請求権として処理されているのが実情です。

しかし、損害賠償請求権の益金算入については、無条件にこれが認められるものではなく、その事例ごとの検討を要することになります。

 

会社の役員や従業員の横領に関する司法判断は、横領による損失と同時に損害賠償請求権を収益として認識する同時両建説を採用している裁判例がみられています(最高裁昭和431017日判決、集民92607頁)。一方、同時両建説によりながらも、「横領による損害賠償請求権が取得当初から明白に実現不能の状態にあった場合には、直ちに当該事業年度の損金として算入することを妨げられないものというべきである。」と判示している裁判例もみられます(大阪地裁平成101028日判決、税資238892頁)。このように、司法判断は同時両建説を採用するものがある中で、上記大阪地裁の判決においては、当該使用人が無資力である場合には、損害賠償請求権の収益を認識しないことを許容しています。

 

この他、従業員が架空外注費を計上して会社の金員を詐取した事例において、東京高裁は、「…(略)本件のような不法行為による損害賠償請求権については、例えば加害者を知ることが困難であるとか、権利内容を把握することが困難なため、直ちには権利行使(権利の実現)を期待することができないような場合があり得るところである。このような場合には、権利(損害賠償請求権)が法的には発生しているといえるが、未だ権利実現の可能性を客観的に認識することができるとはいえないといえるから、当該事業年度の益金に計上すべきであるとはいえない」というべきであると判示しています(東京高裁平成21218日判決、刊行物未掲載 裁判所Web行政事件裁判例集)。事程左様に、学説においても、両論(同時両建説と異時両建説)は拮抗しています。

 

国税不服審判所における裁決事例においても、「詐取をした使用人は、…(略)職制上の重要な地位に従事したことがなく、経理帳簿の作成等の職務に従事したこともなかったから、単に…(略)一使用人であった事情や、この使用人が、私的費用を詐取するために独断で…(略)行為を実行し、法人側も偽装行為によってその行為を認識していなかった事情などを総合考慮して、法人(納税者)が取引内容の管理を怠って、仮装行為を発見できなかったことをもって、当該行為を請求人自身の行為と同視することはできない」としています(国税不服審判所平成2376日裁決)。また、課税実務においては、法人税基本通達2143の運用により、当該使用人が無資力である場合には、損害額の支払時とする回収基準が適用される余地を残しています。国税不服審判所の裁決においても、会社の従業員が横領等により会社財産を領得した場合に、会社がその従業員に対して給与を支給したと判断することはあり得ないものと思われます。(つづく)

文責(G.K

 

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