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租税不服申立について(国税不服審判所への審査請求編…その6)

2020/05/05

前回までにも述べてきましたが、原処分庁の調査や主張は、杜撰かつ恣意性が極まりなく、数々の不合理な点や疑問点があり、事実、別件の刑事裁判においては、原処分庁が認定している「請求人と旧関与税理士であるI税理士の事務所の事務員との間でやり取りしたファックス書面について、…と記載されていることからすると、請求人から消費税の免税制度のことで問い合わせがあって、それに対して回答したことは間違いないので、…」をそのまま採用することはせず、旧関与税理士であるI氏の供述は、「明確な記憶に基づくものとまではいえず」、またI氏の事務所の女性事務員の供述も裏付けがある部分を除いて、同様の理由で「採用の限りではない」として両名の供述を採用していません。

 

この状況下にあって、原処分庁は、審査請求人(納税義務者)からの審査請求書に対する答弁として、請求人についての法的形式面ではなく実質面を重視(実質主義によって判断)するとして、「実質的な費用収益等の帰属主体について法人税法第11条及び消費税法第13条第1項により、請求人と本件各関係法人は、事実上一体であり、本件各関係法人は、独立した事業実体を有しているとは認められない。(中略)本件各関係法人は、資産又は事業から生ずる費用収益等の法律上の帰属主体と認められる単なる名義人に過ぎないと認められることから、費用収益等の実質的な帰属主体については、請求人と認められ、本件各関係法人が独立した法人として所定の帳簿を作成し備え付けるとともに、法人税等及び消費税等の申告義務を負うことからすれば、本件関係法人の当期製品製造原価、販売費および一般管理費のうち、本件関係法人の固有の費用収益等以外については、請求人が実質的な費用収益等の帰属主体と認められる(中略)。なお、(略)外注費は、実質的に請求人の従業員に対する人件費であることから、(中略)課税仕入の額に算入すべきものとは認められない。」と主張、答弁しました。

 

しかし、この論理には背理があります。すなわち、一方では「請求人と本件各関係法人は、事実上一体であり、本件各関係法人は、独立した事業実体を有しているとは認められない」とし、他方では、「本件各関係法人が独立した法人として所定の帳簿を作成し備え付けるとともに、法人税等及び消費税等の申告義務を負うことからすれば…」とし、本件各関係法人の独立性を認めている。このように、論理的な矛盾を平然と主張、反論していることも問題ながら、さらなる大きな問題として、そもそも、租税法律主義の下では、個別の否認規定によることなく、租税公平主義の原則もしくは(上にみるような)実質主義による否認は認められていないとするのが通説です。裁判例においても「租税法律主義の下においては、法律の根拠なしに、当事者の選択した法形式を通常用いられる法形式に引き直し、それに対応する課税要件が充足されたものとして取り扱う権限が課税庁に認められているものではない」(東京高判平成11621日訟月471184頁。また、課税要件の明確性、租税法上の解釈に厳格性が要求されること等について最判平成23218日集民23671頁参照。)と述べられているところです。

 

仮に、請求人と本件各関係法人が事実上一体であり、課税物件の法律上の帰属について、法的形式面は本件各関係法人が整えているが、実質的面での費用収益等の帰属主体は請求人であるような場合、すなわち形式と実質とが相違している場合には、実質に即してそれらの帰属を請求人と判定すべきとするのが、実質所得者課税の原則と言われ、法人税法では11条に、消費税法では131項にその趣旨の規定が置かれています。しかし、その適用に当たっては、次の3要件の全てを満たしていることが前提となります。すなわち、本件各関係法人が①単なる名義人であること、②収益を享受していないこと、③本件各関係法人以外の法人(請求人)が収益を享受していることの3要件です。これらを本件に照らしますと、請求人と本件各関係法人との関係においては、上記の3要件の全てが満足されていないことから、法人税法11条の適用はできないことになり、同様の理由で、消費税法131項の規定についても適用できないこととなります。

 

また、消費税について原処分庁は、その制度設計上の問題から新設法人については基準期間(納税義務を判定する基準となる期間を指し、個人事業者であれば前々年、法人であれば前々事業年度を指す)の納税義務は免除されているにも拘らず、新設法人である本件各関係法人には実体がないとして、更正処分をもって基準期間の消費税相当額をその取引の相手方である請求人の計算に引き直しています。しかしながら、本件各関係法人には法人格があり、当然に新設法人に係る基準期間の納税義務免除制度の適用を受けるべきところですが、それに対して、何らの法的根拠も示さずに、基準期間(納税が免除になる)という制度上の欠陥に由来する問題を、強引に本件各関係法人には実体がないとする問題にすり替え、この基準期間の消費税相当額を請求人の計算に引き直しています。

 

わが国の現行の消費税制度においては、主として、小規模事業者保護ないし事務負担の軽減の観点から、納税義務(免除)の判定や簡易課税事業者の判定には、必然的に基準期間が必要となります。それは制度の持つ宿命であり、欠陥でもあり、その制度を担保する法律の世界では、これを法の缺欠ないし法の不備と呼んでいます。そのような状況の中で、原処分庁を含む税務行政庁は、本件各関係法人には事業の実体がないとして新設法人に係る基準期間の納税義務の免除制度を適用することなく、調査等において、請求人の利害関係者等の被質問者に供述、申述を強要したり誘導、誤導したりして、それによって得られた、真実ではない事実の供述、申述(証言)を基に隠ぺい・仮装があったと事実認定し、結果として、誤った法律の適用をしていると思われます。しかし、これまでにも幾度となく述べてきたように、本件各関係法人は、いずれも適法に設立され、独立して企業活動を行う実体を有しており、また消費税法には行為計算否認規定がないにも拘らず、本件更正処分等に至らしめる根拠規定を明らかにすることなく、請求人から関係法人への正常な外注費を否認して請求人の人件費として計算しています。(つづく)

                                文責(G.K

 

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