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租税不服申立について(国税不服審判所への審査請求編…その7)

2020/05/20

前回も触れましたが、わが国の消費税が、小規模事業者保護や事務負担の軽減の観点から、免税事業者制度や簡易課税制度を採り入れ、インボイス方式ではなく帳簿方式を採用する限り、そのための免税事業者及び簡易課税事業者の判定には基準期間を設けることは論理的帰結であり、中でも新設法人に係る基準期間のない事業年度の消費税の納税義務の免除は、課税、徴税の観点からは、この制度の持つ欠陥とも言えます。そして、免税期間の善意・合法的利用については、「法の欠缺」として必然です。その、いわば法の欠陥ないし法の不備に由来する責任を、他の根拠のない法令を、無理矢理当て嵌め、納税者に転嫁することは、憲法第84条の租税法律主義及び憲法第14条から導かれる自由権、すなわち公権力の不当な干渉を排除できる権利、並びに同第31条の法律によらなければ罰せられない権利を侵すことになり、憲法規定に違反することになります。なお、憲法第31条は、刑事手続きだけでなく、税務調査等の行政手続きや違法収集証拠等に適用、排除、無効とされます。したがって、原処分庁の主張には理由がないことは言うまでもありません。


また、原処分庁は、本件各関係法人に係る「本件更正処分等はその対象となる処分が納付すべき税額を増加させる更正処分ではないことから、本件審査請求は、処分の取消しを求める法律上の利益がない」として、いわゆる門前払いを主張しています。しかし、本件の場合、本来、本件各関係法人の(新設法人に係る基準期間のない事業年度として)免除されるべき消費税相当額をその取引相手である請求人の計算として引き直しており、表面的には、納付すべき税額を増加させる更正処分ではないように観察されるだけであって、実際には、当然に免除されるべき本件各関係法人の消費税が否認され、当該消費税は請求人に加算して計算されているに過ぎず、詭弁という他はありません。このような理由等による納税者の正当な権利や利益の侵害を簡易にかつ迅速に救済するための手続が「再調査の請求」や「審査請求」であり、わが国においては、憲法第31条にデュープロセス(適正手続き)を保障する規定が置かれています。


さらに関係法人の消費税に関して、答弁書は本件各関係法人を一括りにした主張をしていますが、本件各関係法人は、以前にも述べましたが、三社三様であり、そのうちのHS社は、もとより適法に設立され、現在も独立し、歴とした事業活動を行うなど、企業実体を有していることは明白です。しかし、HS社に対する原処分庁の答弁書によれば、「請求人(HS社)を除く本件各関係法人は、設立からおおむね2年後に解散することで、消費税等の課税事業者となることを回避していたものと認められる」とし、HS社以外の本件関係法人が、2年で解散することが法令に違反するかどうかの議論は別として、そのことを問題視していることが読み取れます。一方、HS社については、どういう理由で基準期間のない事業年度の免除されるべき消費税及びその後の1期分余の事業活動の成果を、その取引相手である請求人の計算としたのかについて、消費税法に行為計算否認規定がない中、「請求人を除く本件各関係法人」と記載するのみで、そうすると、HS社の処分については法的根拠がないことになるが、それらについては、一切触れず、説明責任を果たしていません。


くわえて、実際に取引をしていたのは請求人と本件各関係法人であり、当該取引が本件各関係法人には実体がないことを理由として否認されるのであれば、否認されるべきは本件各関係法人であり、請求人ではありません。然るに、答弁書83枚目ニ「本件消費税等各更正処分」においては、「本件消費税等各更正処分は、本件法人税各更正処分を前提として行われた処分であり、…(中略)。なお、消費税法第30条7項の趣旨からすると、本件各関係法人が保存する帳簿及び請求書等については、通則法第74条の2に基づく税務職員による検査に当たって、本件各関係法人の帳簿等として提示することのみが予定されていると評価でき、請求人の当該帳簿等として、税務職員に提示することが可能なように態勢を整えて保存していなかったものと認められるので、本件各関係法人が計上した当期製品製造原価、販売費及び一般管理費等に係る消費税の課税対象経費については、消費税法第30条7項の規定により、請求人の仕入税額控除の対象とは認められない」としています。


この答弁については、明らかな誤謬と大いなる疑問点が存在します。先ず、本件消費税等各更正処分が、本件法人税各更正処分を前提として行われた処分であることから、本件法人税各更正処分それ自体に明白な誤りがあるのは事実であり、そうすると、反射的に本件消費税等各更正処分にも誤りがあることになると考えられること。また、これまで一貫して述べているように、本件各関係法人はそれぞれに事業実体を有することから、当然に、税務職員による検査に当たっては、本件各関係法人自らの帳簿等として提示することのみが予定され、作成されています。決して、請求人の帳簿等として保存しているものではありません。その意味での、消費税法第30条7項と通則法第74条の2とは、どのような文脈及びどのような関係性を有するというのでしょうか。また、それが消費税法には行為計算否認規定がないにも拘らず、適法に存在している法人間の取引を当該取引の相手方の計算に引き直していることとどのような関連性を持つのでしょうか。そして、原処分庁は、本件各関係法人には実体がないと判断したとする根拠として、次の段落で示す設立状況以下7項目について、各項目を総合的に勘案したとしていますが、それによって課税要件を充足しうる事実を認定したということであれば、被質問者の供述、申述をどのように評価し、どのような事実をもって認定に至ったのか、明らかにすべきであると考えます。これらの原処分庁の答弁、主張及び行為は、憲法84条、30条、31条及び刑法223条並びにその他の関係法令に牴触していると考えられるところです。


上に述べた、原処分庁が答弁書において「各項目を総合的に勘案した」とする7項目は次のものです。①設立状況、②代表取締役における業務遂行等の状況、③本店所在地における状況、④資金等の管理及び経理状況、⑤業務内容、⑥人事管理状況、⑦対外的関係等の項目で、これらを総合的に判断すると「本件各関係法人は、独立した事業実体を有しているとは認められない」とし、「請求人が実質的な費用収益等の帰属主体」であると認定しています。しかし、原処分庁が認定の前提としている質問てん末書における、関係者の申述とされているものは、これまでにも触れてきたように、誘導、誤導、さらには虚偽記載が多く含まれた恣意的なものであり、任意性、真実性には大きな疑問があります。


例えば、原処分庁が主張する本件各関係法人の設立状況のうち、当該法人の代表者の出資金の出捐については、T氏からの一時的借入れであった可能性を否定するものではありませんが、この種の事例は、世間一般に広く行われている事象でもあります。これを原処分庁に有利なように誇張して表現し、特にHG社が異常な形態の法人であるかの如くに、質問てん末書及び答弁書には記載されており、これをもって実体がないことの一要因としています。別件の関係法人の設立に当たってのO氏の出資金の出捐についても、T氏からの一時的借入れであった可能性を否定するものではありませんが、周知の通り、法人は出資金のみで運営できるものではなく、設立に係る諸費用や少なくとも2ヶ月分の運転資金、その他諸々の金員を必要とします。したがって、出資金の借入れ部分のみを捉えて、本件各関係法人の設立が単に体裁を整えるために行われたものとの原処分庁の恣意的判断に基づく主張を請求人は受け容れることはできません。蛇足ながら、法人の設立に係る出資金の拠出につき、当該法人の代表者が第三者から一旦、個人的な借入金として借受け、これを充てることは広く世間一般にも見受けられる事象であり、これに対する規制ないし規定は特に存在しません。(つづく)

文責(G.K)

 

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