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租税不服申立について(国税不服審判所への審査請求編…その8)

2020/06/05

原処分庁の虚偽記載に関しては、さらに、請求人の本件各関係法人の代表者らは、それぞれ自らが代表者を務める法人から報酬ないし給与等を貰ったことがないとする表記をしており、これらは、悪性を印象づける「印象操作」に他ならず、代理人を務める筆者は、国家機関の一つとしての原処分庁(税務署)がここまでやるのかといった思いを新たにしました。これにつき、「反論書」においては指摘するに止めています(後日行われた審判所における「答弁書の認否確認」では、これらを否とし、その証拠となるべき資料等を提出しています。)。因みに、虚偽記載の内容は、代表者は、給与等を貰ったことがなく、当時の関与税理士が作成した代表者の確定申告書は虚偽とするもの、法人の代表取締役としての役員報酬ないし給与としては支給せず、名義借りに伴う謝礼金を支給していたとするもの、代表取締役の報酬を支給していなかった等々、社会通念に照らしておよそあり得ない、残念ながら、まるで「言い掛かり」のような印象を持ちました。

 

「言い掛かり」のような印象といえば、上に述べたことに限らず、本件更正処分等全体を通してそのような印象があります。従業員に関しても、「請求人と本件各関係法人の従業員は、いずれも請求人の事務所において給与の計算が行われ、この事務について請求人の役員は関与していないとの指摘」については、本件各関係法人であるHS社の代表取締役であったO氏が急逝したため、直ちには、その業務を代替する人物が見つからなかった非常事態に、いわゆる急場凌ぎの形で請求人に所属していたS氏及び他の従業員を請求人とHS社との二重在籍として事務をこなしていたところ、それにつき、上記のクレームが付きました。これについては、真にやむを得ない緊急避難的なものであり、また経済社会一般において、給与事務を担当するのは、一般社員であって、役員が担当しているのはおそらく稀なケースといえます。

 

また、原処分庁は、工事現場の職長の二重在籍を取り上げて、「…このような二重在籍の状態となること自体が、本件各関係法人が請求人から独立した事業実体がないこと…」と主張しています。しかし、税務が先にあって、それが経済社会の慣習を含む広義の取引法を規定しているのではなく、税務は、経済社会における広義の取引法によって経済行為、行動が行われた結果、その果実としての「利益」に課税するのがその役割であって、決して「先に結論ありき」で、「偽りその他不正の行為」を認定すべきものではなく、「先に結論ありき」で進むあまりに、経済社会の実情を誤って認識しているものと思われます。

経済社会の現実は、親会社の社長が子会社、孫会社、関連会社の役員を兼任する例は枚挙に暇がありません。余人をもって代えがたい人材(特殊、特別な技能を有する人材)もまた、その例に漏れないと考えられます。況して、本件関係法人における二重在籍は、不可抗力的複合的要因によるものであり、これをもって本件各関係法人が請求人から独立した事業実体がないと結論付けることはできないと考えられます。

 

確たる証拠(直接証拠)や自白もなく、また、個別規定もないにも拘らず、法的、経済的及び社会的に独立している法人を、課税の観点のみの予断と偏見的感覚で捉え、これまで述べてきたように、多くの虚偽事実を含む間接証拠を挙げ、「不自然である」、あるいは、「事実上一体である」として、法人の実質を否定し、法人税法第11条及び消費税法第13条第1項を適用することは、法律の解釈・適用を誤ったものといえます。何故なら、本件において資産又は事業から生ずる収益の法律上帰属する者は、本件各関係法人しかあり得ず、その収益を享受する者もまた本件各関係法人しかいないのであり、法人税法第11条の規定は適用できません。また、資産の譲渡等を行った本件各関係法人が単なる名義人ということはあり得ず、本件各関係法人はその対価も享受しており、消費税法第13条第1項が適用される余地もまたあり得ません。これらの規定を、「偽りその他不正の行為に向けられた、先に結論ありき」の意図をもって強引に当て嵌めようとするには無理があるといえます。

 

因みに、近時の判例動向を見ても、裁判司法は、実質主義ないし実質所得者課税、また、答弁書におけるような「実質的行為者課税」なる考え方を採用することには、次の裁判例のように、否定的です。曰く、「租税法律主義の下においては、法律の根拠なしに、当事者の選択した法形式を通常用いられる法形式に引き直し、それに対応する課税要件が充足されたものとして取り扱う権限が課税庁に認められているものではない」(東京高判平成11621日訟月471184頁)。

 

加えて、原処分庁は、その答弁書において、本件「架空給与」についてなる項目を設けていますが、「架空給与」と原処分庁が称しているものの実態については、当局による調査ないし捜査過程においても、元請の現場担当社員との人間関係をスムーズにするための交際費の性格を有する一時的貸付金とされていたものであり、決して架空に支出した金員ではなく、当該支出は真に営業促進目的のものであり、それを請求人の現場の職長等幹部従業員の給与(源泉の上、本来の給与に上乗せして支給し、後に上乗せ分を回収していた。)としており、当時の関与税理士による仕訳等の会計処理のミスという稚拙さは否定できないものの、決して重加算税対象となるような性格の支出ではありません。

それがいつしか、原処分庁による悪性強調目的の印象操作とともに、隠ぺい・仮装の対象となる「架空給与」とされています。当該金額については、A氏は2,000万円程度だったとし、実際に当時の税理士が計算した額は2,200万円であったものが、原処分庁は更正処分において、3,500万円であると主張しています。いずれにしても、算定根拠及び金額が明らかでない更正処分は、違法であると思われます。

 

同様に、原処分庁はその答弁書において、本件「利益調整」についてとしての項目をたてています。しかし、原処分庁が「利益調整」であると認定するものの算定根拠は明らかにされていません。というのも、請求人が保管していた総勘定元帳、売上に係る請求書控、支払通知書を基に売上額を算定したものと、AT氏夫婦が申述したとされる「売上を減算するとともに外注費を加算することで本件利益調整を行った」ものとの差額は、税務調査で明らかにできていません。その差額を本件「利益調整額」としており、その算定根拠については、かなり曖昧なものといえます。したがって、原処分庁が主張する「利益調整」は、申述者の申述内容と原処分調査において確認した計上漏れ額とが一致しない以上、採用すべき正確な申述とはいえず、それをあたかも実現されているがごとく悪意を込めて意図的に評価・採用しており、国税不服審判所の心証をも悪くする悪意のある欺瞞と考える他ありません。前記の「架空給与」同様、請求人はこれらの用語自体も認めておらず、また、算定根拠が明らかでない更正処分は、違法であると考えられます。(つづく)

文責(G.K

 

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