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租税不服申立について(国税不服審判所への審査請求編…その9)

2020/06/23

原処分庁は、答弁書において請求人の事実の隠蔽又は仮装を主張していますが、既に述べているように、本件において資産又は事業から生ずる収益の法律上帰属する者は、本件各関係法人しかあり得ず、その収益を享受する者もまた本件各関係法人しかいないのであるから、法人税法第11条の規定は請求人には妥当しないことになります。また、資産の譲渡等を行った本件各関係法人が単なる名義人ということはあり得ず、本件各関係法人はその対価をも享受しており、消費税法第13条第1項が適用される余地もあり得ません。したがって、「本件各関係法人は、独立した事業実体を有していないにも関わらず、(中略)実質的な費用収益等の帰属主体をあたかも本件各関係法人にあるように装っていたと認められ、このことは、本件各関係法人が事業実体を有し、費用収益等が帰属するとの外観を作り出すための仮装とみるほかない」とする原処分の主張は、「課税をするためだけの、原処分庁だけの論理」であって、取引社会一般の規定、ルール、慣行等に照らしても妥当しないことが分かるかと思います。

 

加えて、原処分庁が主張するところの「本件架空給与」及び「本件利益調整」は、答弁書においても、具体的算定根拠が示されておらず、国税通則法第68条第1項の適用要件を欠いていることは明らかです。これに関連しては、課税標準の算定方法が不明である状況が続いていることから、請求人は、原処分庁に繰り返しの算定過程を明らかにするよう求めるとともに、いずれの事実をもって仮装行為があったと認定するのか、速やかに明示するよう求めているところです。いずれにしても、既に完了している取引に純課税目的で適用ルールの解釈を変更、若しくは新たなルールを創出し、それを遡及して適用させようとするのは、もとより憲法違反の謗りを免れないものです。

 

原処分庁は、本件各関係法人の設立時の出資金の拠出者について、本件各関係法人の代表者ではなく、A氏又はT氏のどちらかが強く推認されるとして、本件各関係法人の設立に際して、体裁を整えていただけだと主張していますが、これについてはA氏及びO氏の申述とは矛盾しており、意図的な虚偽表示と思われます。また、本件各関係法人の経理事務及び経理・決算内容の報告について、原処分は、その処分理由において「T氏は、自分で本件関係法人3社の日常の経理を行っている旨申述しており」としていますが、原処分庁がT氏からの申述要旨であるとして答弁書で示した内容からは、処分理由に示されているような申述内容を読み取ることは不可能です。T氏は、旧関与税理士事務所の指示に従い、請求人と本件各関係法人の現金出納帳や領収書、振替伝票などとを区別し、旧関与税理士事務所に渡していましたが、それはあくまで旧関与税理士事務所の業務の補助的なものであり、それを「日常の経理を行って」いたと誇張し、申述したとするのは、再三述べているように虚偽表示に他ならないと考えられます。

 

旧関与税理士事務所は、かかる原始証憑(会計資料)を基に、請求人と本件各関係法人のそれぞれについて、総勘定元帳や試算表の作成等の会計処理を行なっていたもので、請求人に係る「業務」は本件各関係法人のそれより若干、幅広くなることはあっても、「日常の経理を行っていた」とまでは評価できるものではありません。また、請求人及び本件各関係法人の経理処理に明確な差異はないとする主張は、上記しているとおりであって、作業内容に大きな差異はありませんが、法人規模が大きく異なることから、その内容の強度は全く異なります。なお、若干、幅広いという意味は、HS社の経理事務をも担当しているものの、経理事務に不慣れな女性事務員に自らが行っていた作業を教える必要があったからです。

 

原処分庁は、給与の支給(状況)及び指揮命令系統について取り上げ、本件関係法人には事業実体がないとの、状況証拠に結び付けようとしていますが、本件関係法人の従業員の給与は銀行経由で各従業員の指定口座に振り込まれ、その証拠としての当該銀行の為替明細書(各従業員に対する給与振込明細書)が存在し、給与支給の事実は明らかです。また、仮令、法人の代表者が不在であって直接の指揮命令がなくても、法人の活動はストップすることなく、維持される旨は「再調査の請求」の記述の折にも述べたとおり、法人は、その代表者個人の意思で運営、活動するものではなく、取締役以下のそのポストの責任者の人々の意思を結集して活動するものです。したがって、代表取締役が事実上、不在であっても、企業活動が停止するものではありません。本件各関係法人がそのような状態であることをもって、A氏及びT氏の指揮命令系統と本件各関係法人の指揮命令系統とが同一と結論付けることはできず、また、その飛躍した論理をもって、請求人の従業員と本件各関係法人とは同様の指揮命令系統であり、本件関係法人には事業実体がないと結論付けることもできず、原処分庁のこの点の主張も認められないことになります。

 

原処分庁は、外注費の支払先及び下請業者編成表についても取り上げ、上記と同様、元請先に提出する下請負業者編成表に本件各関係法人の名称がないことを、本件関係法人には事業実体がないとの、状況証拠に結び付けようとしていますが、現況は別として、元請先が下請業者の社会保険料負担をしていなかった平成261月期当時位までは、その提出が特に厳格に求められる運用はなされておらず、元請先からも強い要請はなかったことから、請求人は、再調査の請求書等においては、タイミング等によるとしていたものです。

したがって、この事情をもって建設業法第1条の規定(宣言規定)に背く行為とまではいえず、また、このことが税務行政とどう繋がり、一次下請(契約会社)と二次下請(施工会社)とが同一だと判断することになるのか、原処分庁の主張は理解しがたいものです。というのも、仮令、違法、不法な収益から生ずる所得であっても課税、徴税は厳然と行われるからです。

 

原処分庁は、関係法人の代表者が法人税の確定申告書の内容を知らないことにつき、「以上のことから」と述べており、「以上のこと」が何を意味するのかよく理解できませんが、思うに、請求人が「これまでここで取り上げ反論してきた内容を指し、それらを総合すると」を意味するものと考えられます。そして、原処分庁の「一般の二次下請業者は、一次下請業者と締結した契約内容の履行に関する責務を有している」との指摘は、正にそのとおりですが、但し、それは法人間の契約が前提であり、契約内容の履行に関する責務を有しているのは二次下請業者の代表者個人ではありません。法人と個人とでは人格に相違があり、そのことと法人税の確定申告書の内容を知らないこととは、直接に結び付くものでもありません。この点に関しても原処分庁の主張には理由がないと考えられます。

 

加えて、請求人の認識に及ぶ以下の言及には、強く反論するものです。曰く「請求人が…このように捉えていること自体が、本件各関係法人に事業実体がないことの証左」と。これは、特に、原処分庁(国)が優越的地位から高圧的態度で納税者(国民)を聊か見下した表現の現れと受け止められます。租税法律関係は、かつてオットー・マイヤーの学説の影響を受けて国が優越する権力関係とみられていましたが、戦後レジームを受けて、今日では、アルバート・ヘーンゼルの学説が有力視され、わが国においても、現在では、国と国民とが対等な関係である債権債務関係にあると解されています。すなわち、課税庁の法令等の恣意的ないし一方的な解釈を納税者に押し付ける「対立的」な関係ではなく、納税者の意見や事情に寄り添う「協調的」な関係にあるといえます。そしてそのことが、結果として、税法・税制に普遍的価値を与え、納税に対する理解が向上し、相対的に本件のような争訟が減少していくことに繋がっていくものと思われます。この考え方の根底には、憲法14条の「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。」との規定があります。原処分庁は、租税行政の執行に当たっては、このことを十分に念頭に置くべきです。(つづく)

文責(G.K

 

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