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租税不服申立(番外編) 税法分野における不利益処分の税務行政の裁量的運用の問題点…その1

2020/08/02

これまで連載していた租税不服申立についてそのもののテーマから一旦離れ、番外編として、税務調査時に調査官から非違を指摘されるような場合の課税庁の対応の問題点をテーマとして述べてみたいと思います。経済社会において何らかの形で企業経営に携わっておられる方にとっては、“税務調査”と言われただけで緊張感が走り、況して、実際の調査で調査官から非違事項の指摘を受けるような事態となれば、一層、その度合いが高まり、つい調査官(税務署)の指摘をそのまま(盲目的に)認め、修正申告の勧奨を受け容れて修正申告を済ませてしまったというような経験をお持ちの方もおられるのではではないでしょうか。

 

その一方で、調査官の指摘にどうしても納得することができず、争うような場合、税務署は更正処分を行いますが、その際には、「経済社会の構造の変化に対応した税制の構築を図るための所得税法等の一部を改正する法律」(平成23年法律114号。)により、国税通則法の一部が改正され、不利益処分については、行政手続法14条に基づき、その処分理由を示すことが国税通則法74条の112項に法定されていることから、当該処分庁は税務調査の内容等を納税者に説明することになります。したがって、更正処分等の不利益処分を行う場合の処分庁の対応としては、法人税法1302項による更正の理由附記とは別に国税通則法74条の112項の調査結果の説明も必要になることになります。

 

ところが、何らかの理由によって、課税庁側と納税(義務)者側との間に見解の相違があり、そのどちら側からも歩み寄りが難しいような事案で、しかも課税庁側が検察庁に告発を予定しているような事案においては、更正の理由や調査結果を予め明らかにすることは、ある意味、自らの手の内をさらすことになり、処分庁や検察庁を含めた国側に不利に働く内容を、戦いの前に相手側にさらしてしまうことにもなることが、当然、考えられます。そうすると、そこに処分庁側には処分理由等に係る情報を積極的に開示したくない動機が生まれることになります。しかしながら、そのことが納税者を欺く免罪符とされ、その結果として、処分庁を免責にするようなことはできません。処分庁(所轄税務署)が納税者(一般的には代理人である税理士)にその説明をしていなければ、当該更正処分は当然無効となります。

 

ところが、処分庁が上記のような事案において、自らの手続の不備で更正処分等が取り消されることを回避すべく、「納税(義務)者の代理人に、調査結果の内容及び修正申告をした場合に伴う法的効果の説明を行った上で『修正申告等について』と題する書面を交付し、その書面には代理人の署名押印がある」との明白な虚偽の主張をしている実務例があります。何故、嘘の主張であると断言できるかと言えば、第一に、当該書面の日付の筆跡は代理人のものではありません。第二に、仮に、当該書面が真正な書面であれば、日付を記入しないままで税理士が提出することはなく、また、空欄のままで提出しようとすれば、処分庁の担当者らはその場で指摘、記入を促し当該書面を完成させた上で受け取る筈です。第三に、そもそも当該書面は、処分庁による修正申告の勧奨を受け容れて、納税義務者が修正申告をする場合に、修正申告をした場合に伴う法的効果等の注意喚起を目的に作成されるものであるからです。

 

代理人は、本件事案が表面化したのを契機に、納税義務者の取引金融機関の紹介で顧問税理士に就任したことから、事案の内容や経過等を早急に把握すべく、以前から国税局や所轄税務署に対し、それらに関する説明を求めていました。当該説明要求のほぼ1年後の当日、所轄税務署において当該内容説明等をしたい旨の連絡を受けて所轄税務署に赴きました。そこでは、修正申告の意向の確認及び依頼は受けましたが、その意思はないことを、担当した統括官らに明確に伝えており、調査結果の内容、経過、金額等についての説明を処分庁がする筈もありません。ただ、修正申告をする、しないに拘わらず、代理人としては、調査結果の内容、経過、金額等を把握する必要性があったところから、それらについて重ねて質しましたが、処分庁の担当統括官T氏及びN氏らは、別件の刑事裁判が進行中であることを理由に、一切答えられないとして回答を拒否しています。

 

代理人は、それ以上踏み込んで質すことを断念し、「本件の調査から告発に至る一連の税務手続に対する質問」と題する所轄税務署長宛の文書(質問書)を手渡し、同日付の所轄税務署の収受印を受領し、同署を辞しています。因みに、その質問書の提出から、やがて3年が経過しようとしている、今日においても、未だ所轄税務署からのその件に関する返答はなく、「回答する義務はない」としています。代理人は本件調査内容について、本件事案の経緯、経過等が分からず、更正処分の理由や金額、また、その算出方法等も全く理解、納得ができず、やむなく当該質問書を提出しているところから、処分庁の主張は、課税行政庁の内規である「事務運営指針」にも明らかに背いており、説明責任が全く果たされていないことは明白です。なお、事務運営指針は以下のように定められています。

 

「調査の結果、更正決定等をすべきと認められる非違がある場合には、国税通則法第74条の112項に基づき、納税義務者に対し、当該非違の内容等(税目、課税期間、更正決定等をすべきと認める金額、その理由等)について原則として口頭により説明する。」また、「その際には、必要に応じ、非違の項目や金額を整理した資料など参考となる資料を示すなどして、納税義務者の理解が得られるよう十分な説明を行うとともに、納税義務者から質問等があった場合には分かりやすく回答するよう努める。また、併せて…(以下略)。」とされています(下線は筆者)。

 

上に触れているように、本件更正処分等について、処分庁からは何らの説明もないことから、代理人が「本件の調査から告発に至る一連の税務手続に対する質問」なる文書を提出しているものであり、それに向き合おうともせず、処分庁は最近になって、「回答の義務がな」いと回答してきたのは、将に「論点のすり替え」に他なりません。確かに、納税義務者側からの質問書に答えなければならないとする直接の規定は存在しません。しかし、それでは、上記の「国税庁事務運営指針」の下線部「納税義務者から質問等があった場合には分かりやすく回答するよう努める。」とする規定の趣旨はどのように解釈されるのでしょうか。(つづく)

文責(G.K

 

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