税務コラム
前回にも触れましたが、原処分庁(課税行政庁)が更正処分等を行う場合、更正処分に係る理由附記の他に当該税務調査に係る調査結果の説明も必要になります。本件事案、すなわち法人税額等及び消費税額等の更正処分等(以下、「本件更正処分等」という。)においては、それらのいずれにも原処分庁と本件納税義務者の間に争いがありますが、前者については本コラムの他のテーマで何度も触れており、ここではテーマとの関係で「不利益処分の税務行政の裁量的運用」に係る問題点について必要最小限度で触れるに止めたいと思っていますが、若干の重複についてはご容赦頂きたいと思います。
先ず、「税法的三段論法」について述べてみたいと思います。一般に、法的三段論法とは、大前提としての法規範と小前提としての具体的事実から法律の適用に関する判断(結果)を導き出す推論方法であり、租税法領域の争訟事案においても同様にこの考え方に従って結論が導かれています。そこで、この考え方を租税法領域に置き換えますと、⑴大前提として、租税法の解釈を通じて税法規範を定立させ、⑵次に小前提として、事実の認定を行い、⑶そして、認定した事実を税法規範に当て嵌めることで結論(判断)を導くことになります。よって、このような3段階の思考過程を「税法的三段論法」と呼ぶことにします。
以下に、当該税法的三段論法に従って、本件更正処分等について見てみると、原処分庁は、法人税については、7項目の「原処分庁が恣意的に認定した『事実』を総合的に勘案し、法人税法22条2項及び3項の規定により」としか述べておらず、また、消費税については、「国税通則法70条4項(平成27年3月法律第9号による改正前のもの。)の規定が適用され」る、としか述べていません。したがって、通常、租税争訟事案において行われる思考過程のように、⑴租税法の解釈を通じて税法規範(法人税法22条2項を適用した否認における同条同項の法的意義及び法的解釈並びにその射程(範囲)等)を定立させることもなく、また、⑵税務調査によって公正な事実を認定することもせず(処分を前提とした、その多くは虚偽ないし虚偽的作出を含む『事実』のみをピックアップして認定)、⑶その認定した(真実に存在しない)「事実」を、原処分庁が恣意的に拡張解釈した未確立の税法規範に当て嵌めて、誤った結論を導き出しています。
⑴租税法の解釈に関しては、法人税法22条2項につき、原処分庁のあまりの恣意的な拡張解釈振りに、本件納税義務者の税務代理人(以下、「代理人」)という。)は、「法人税法22条2項は、法人の各事業年度の所得の金額の計算規定を定めたものではあるが、その規定振り及び条項の文言からは、課税当局が恣意的ないし一方的に益金の額に算入すべき金額を判断(認定)してよいとまでは読み取ることはできず、課税当局にフリーハンドを与え無制限に行使できる否認規定ではない」旨の反論主張をしたところ、原処分庁は法人税法22条2項等であるとして、自らの主張に「等」を加え、「等」に法人税法11条及び消費税法13条1項の役割を付け加えました。さらに代理人が実質所得者課税の原則について本件では適用できない旨の反論をすると、法人税法11条及び消費税法13条1項について検討はしたが、7項目の基準(原処分庁が独自に打ち立てた、単に処分をするためだけの未確立の基準)を総合的に勘案した結果、法人税法22条2項を適用したと主張を変遷させています。
消費税については、一次下請である本件納税義務者から二次下請である関係法人に対しての外注費を、関係法人には事業実体がないとして否認し、本件納税義務者の給与等として引き直していますが、その根拠法令についての代理人からの質問にも明確に回答することなく、国税通則法70条4項(平成27年3月法律第9号による改正前のもの。)が適用されるとだけ回答しています。当該条項は、「偽りその他不正の行為によりその全部若しくは一部の税額を免れたり、純損失等の金額が過大であるとする納税申告書を提出していた場合における更正処分は、七年間はすることができる。」ことを主旨とする国税の更正、決定等の期間制限を定める規定であり、決して否認規定ではなく、本件納税義務者から関係法人に対する外注費を、関係法人には事業実体がないとして否認し、本件納税義務者の給与等として引き直している、その根拠法令等についての代理人の質問に答えるものではありません。
⑵に関しては、課税当局作成の質問顛末書における申述の誇張表現記載ないし虚偽記載等及び違法証拠収集等、このコラムの別のテーマで累度にわたり、具体例を挙げ述べているとおり、(真実に存在する)公正な事実とはかけ離れた「事実」を認定していますが、重複することからここでは割愛したいと思います。
⑶に関しては、内容が真実ではない、不適正な事実を何ら吟味することなく、事実認定し、これを処分庁が恣意的に拡張解釈した未確立の税法規範に当て嵌めてみたところで、誤った結論しか出てこないことになります。したがって、原処分庁による本件更正処分等は、論理的な観点から誤りがあると言えます。本件更正処分等についてのみの例外的取り扱いかどうかは別として、原処分庁においては、更正処分を行うに当たって、かような「運用」が採られているとすれば、速やかな変更が求められると考えられます。
前回のコラムでは、国税通則法74条の11第2項の調査結果の説明をめぐる処分庁の対応について、今回は処分庁による租税法の恣意的拡張解釈について述べており、いずれも不利益処分と税務行政の裁量的運用についての問題点を述べてきました。近時の行政に関係する説明責任の問題は、税務行政に限らず、多くの行政の現場で生起しているように思われるところですが、とりわけ税務行政に関しては、公権力の行使と納税者(国民)の権利保護との関係で重要視されなければなりません。何故なら、租税は憲法が保障する国民の財産権を反対給付なしに強制的に国家に移転させるものであり、その意味で、租税法は侵害法規であり、その運用に際しては、納税者の権利保護に十分に留意することが求められるからです。
既にみてきたように、国税通則法74条の11第2項によって、更正処分(不利益処分)をするに先立って、税務調査の結果を納税義務者に説明しなければなりません。しかしながら、処分庁内部では、当該調査結果の説明を行った後に法的効果のある教示文を手交し署名を求める「運用」を行っていることから、本件の場合、何らの調査結果の説明を行なっていないにも拘らず、また、処分庁が説明したとする当日の代理人の署名押印かどうかも疑わしい書面を提示して、調査結果の説明は完璧に行ったと処分庁は主張しているのです。偽りその他不正の手段で税を免れる行為に対し、課税庁としては、厳格に対応すべきは言うまでもありませんが、税法的三段論法に依拠した論理的思考を採ることもせず実際には存在しない事柄を「事実」として作出したり、代理人を陥れてまで「事実」であると強弁し事実認定して行った原処分庁による本件更正処分等については、少なからぬ問題があるように思われます。(このテーマ終り)
文責(G.K)