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租税不服申立について(審査請求「意見書」編…その4)

2020/10/17

前回のコラムの後半に述べた架空給与については、既に触れたように、「本件架空給与」という用語自体を原処分庁が使用することを、請求人は認めているわけではありません。また、原処分庁は、当該架空給与額が答弁書の表3-3に記載されている「給与手当勘定」から更正通知書の別表3に記載されている「総勘定元帳に計上している金額」を減算した金額との差額としていますが、請求人は、その差額が架空給与であること及び当該差額そのものの存在についても既に修正処理済みであったことから認めていません。このことについては一旦措くとして、原処分庁が「架空給与」としているものの実態について述べたいと思います。

 

「架空給与」とされているものの実態は、元請の現場担当責任者に請われて同現場担当者らに一時的に貸し出した金員であり、それらは事業の維持遂行、次回以降の受注額の維持一層の向上に寄与するための潤滑油としての販促費の性格を強く有する交際費であったことは、査察調査時点で調査を担当した国税局職員も把握していました。しかし、旧関与税理士の指示により実際にはその会計処理を「給与」としていたことから、所轄税務署の指摘を受け、既に修正済みでした。その情報が国税局査察担当職員と共有されておらず、所轄税務署調査担当者と国税局査察官との間の意思疎通が十分でなかったことから、結果として、「架空給与」と判断されているものです。加えて、そのことを旧関与税理士のI氏が当局に理解可能な表現で説明できていなかったところにも、その本質的な問題があったと思われます。

 

ともあれ、この「交際費」は、当時の現場において、元請企業の現場担当者社員と下請企業の従業員との間の人間関係をより円滑にし、作業効率を向上させ、現在にも及ぶ受注高向上にも寄与する形で機能しています。よって、旧関与税理士が委任業務を遂行するに当たり、仕訳に使用する科目名の不適切性の問題は残るものの、優勝劣敗の企業活動社会におけるサバイバルを賭けた受注競争を勝ち抜くための販促費ないし一部が費途不明の交際費等であり、原処分庁が、これを隠蔽、仮装を伴う「架空給与」と認定することは誤りであり、「木を育てずに、その果実のみを採取しようとする」恣意的な判断と言えます。また、これにつき、原処分庁の意見書においては、「請求人である法人の専務であったC氏は、社長であったA氏に指示されて架空の給与を計上した旨申述し…」との主旨の記載がありますが、答弁書の記載からは、それを直接表す文言は見当たらず、そのような申述はなかったと思われます。また、「…C氏が説明したとおりの金額の不一致が認められる…」としていますが、その具体的な金額について原処分庁は、明らかにしていません。

 

加えて、答弁書においては、「架空給与」とされる一時的な貸付金の上乗せ計上を指示したのは旧関与税理士の、故人となっている父親であり、A氏は貸付金の準備の指示こそすれ、「架空の給与とされる貸付金の計上を指示」しておらず、A氏の申述とされる文言からも、それを指示したと読み取ることは不可能です。また、元請企業の現場責任者の要請により、貸付金を交付するに当たって、二次下請の職長等の幹部従業員等には、真実の給与に貸付金分を上乗せする形で支給し、その金額分の源泉所得税を納付しており、その意味では、法人税としてではなく(源泉)所得税として納税しており、旧関与税理士の事実誤認から結果として税目を誤った処理をしたもので、逋脱目的で給与の上乗せ水増しを企図したものではありません。仮に、これに加算税等が賦課されることになれば、タックスオンタックスの状態になります。

 

そして、原処分庁が主張する更正通知書別表3の「総勘定元帳に計上している金額」と答弁書の表33「給料手当勘定」とは使用されている用語、文言に相違があり、金額にも相違があります。これにつき、原処分庁の意見書においては、概要、両者は「差額が等しく」問題はない旨を主張しています。しかしながら、本件のような不利益処分に係る租税争訟事案において、更正通知書別表における金額と答弁書の表に記載された金額及び用語が相違していれば、比較対照が困難若しくは不可能となることは明らかです。穿った見方をすれば、更正通知書別表3に誤りがあり、それを答弁書において密かに補正、修正したことが、請求人等に気付かれないよう、敢えて用語を変更、金額を修正していると考えられるからです。すなわち、「総勘定元帳に計上している金額」を「給料手当勘定」とし、また、「給与明細一覧表の支給額」を「給与明細集計額」とし、そこに更正通知書別表3の「差額」に符合するそれぞれの金額に変更、修正して記載したものと考えて不合理はありません。この点においても、原処分庁の請求人における「架空給与」計上の証明はおろか、疎明にもなり得ないものとなっています。

 

「利益調整」についても、そもそも、本件における「利益調整」なる文言は、原処分庁が言い出し、脱税類似の用語として取り調べ段階で、何度も何度も繰り返し使用したものであり、請求人は、それに引き摺られるまま、何度も何度も刷り込まれる状態で受け止めたものであって、請求人が、「利益調整」を当初から認めているものではありません。すなわち、本件調査当局によって、誘導され、取調べの中途から「本件利益調整」とされてきたものです。しかしながら、請求人が受け止めていた「利益調整」とは、売上を除外したり、経費等の損金を水増しすることではなく、現場の工事の進行状況により当初見込んでいた進捗状況ではないときに、元請企業からの依頼で、売上であれば翌期に繰り延べ、いわゆる「期ズレ」の状態とし、それに伴って経費等の配分が、今期のものと次期のものとに計上するもので、その意味では、意図した逋脱行為としての利益調整ではありません。これらを、原処分庁は「本件架空給与」及び「本件利益調整」だとし、請求人が企図して旧関与税理士に指示したとの虚偽の申述を事実認定して、本件更正処分等の判断を行っています。

 

なお、このことについては、審査請求書においても述べているように、旧関与税理士であったI氏は、国税局職員による質問応答において、「期ズレ」の認識に関して、「売掛金の前倒しは翌期の売上が今期に計上され、翌期はその分売上が減るので長い目で見れば同じだと思ってました。下駄をはかせるのも利益額は変わらないため税額に影響はないので気にしていませんでした。でも、その期その期で見ると正確な数字とはなっていないのでいけないことなのかもしれませんが、父の時代からそのようなやり方をしていたため、継承していました」と述べています(I税理士作成文書で同業の他の税理士の質問に答えたもの。審査請求書の参考資料として添付、提出)。また、同税理士は、日頃から法人税を、概要「今期払うか、来期払うかの違いだけです。お金が無くなっていないので全く問題ありません。任せて下さい、僕は数字のプロですから。」と述べてもいます(A氏、B氏とI税理士との会話を記録した当時のC氏のメモより)。

 

これらのことから、請求人はもとより、税務申告業務を受任していた旧関与税理士であるI氏にも、偽りその他不正の行為、すなわち逋脱(脱税)の意図ないし故意が認められないことは明らかであり、税務申告に関わる一連の受任業務は、脱税に結び付く故意はなく、単なる誤認に伴うものであったと評価されるところです。このような状況の中、問題とされた決算期には売上が急伸し、同税理士が「期中現金主義」による会計処理を行っていたことから、期中では見えづらい利益が決算調整の段階で突然に顕現化しています。これに慌てた同税理士は、当期利益は約1億円といっていたものを、翌期に入った連休直前になって、その倍額である2億円を超えることになると請求人らに告げたところから、代表者であるA氏は不審に思い、その理由を糺しています。(つづく)

文責(G.K

 

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