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租税不服申立について(審査請求「審判所の役割と機能について」編…その2)

2020/12/05

代理人が、納税義務者からの委任を請け、本件事件の妥当な処理を図るべく課税当局と接触したのは、S国税局調査査察部査察第三部門の主査ST氏(NS氏同席)が最初でした。しかし、同氏の説明に、前回も述べたように、代理人として本件事件の解決すべき前途に漠然とした「好ましからざる」予感に似たような印象を持ちました。また、別件の租税事件の刑事裁判が先行していた関係で、弁護団による開示請求で検察から示された証拠資料等を通して得られる限定的な情報のうちの多くにも、極めて課税当局に有利な(国税局の情報に基づいて、検察庁に告発されているからか)、信じ難い内容となっていることに、租税法学者の視点からも疑念を抱いたものでした。

 

というのも、調査対象者として、S国税局の聞き取りを受けて申述書若しくは質問てん末書を作成された人達に、あるいはS検察庁で検事から事情を訊かれ、検面調書を巻かれた者らに、代理人が改めて面会して、「調査官や検事らにどういうことを訊かれ、どういうことを話しましたか」と質問すると、異口同音に、「自分の考えを自分の言葉で話させて」貰えずに、「そのことはこういう風に言うんだよねぇ。」と調査官や検事の言葉に替えられる。また、それは「こう言うことだよね。」、「その時、こう考えたよねぇ。」と執拗、強引に誘導ないし誤導されており、それらの申述、供述等による「任意性」、「真実性」のない申述書、質問てん末書、検面調書が作成されている旨を明らかにしていたからです。

 

それらの調査や聞き取りないし取り調べは、関係法令に牴触する可能性が高く、その結果、虚偽の証拠書類等が作成されていたとすれば、国家公務員による職権の濫用にも該当する犯罪ですが、より深刻であると考えられるのは、課税当局による確信犯的な言動や行為です。後に詳述するように、それらを知りつつ敢えてそれらに目を瞑っていたり、請求人(代理人)からの意見書で原処分庁等の諸々の違法行為や虚偽の主張等を把握しているにも拘わらず、また、請求人から国税通則法971項に基づく調査を求められ、その調査権限を行使すればそれらの違法行為、虚偽主張等の事実が確認できる、より直接的な表現をすれば、原処分庁等の主張の「嘘」が忽ち判明するにも拘らず、それを行使しようとしない審判所の姿勢です。

 

ともあれ、本件事件の異常性と審査請求に至るまでの経緯について、もう少し述べてみたいと思います。前回にも述べたように、納税義務者及びその関係各法人の所轄税務署長から、平成291115日から22日(受取日は2~3日後)までの間に、平成25年3月期から平成27年3月期までの3期分のそれぞれの法人の該当期の法人税額等及び消費税額等の更正通知書等及び加算税の賦課決定通知書等(青色申告承認の取消通知を含む)が送達されました。これを受けて、それぞれの法人は、「再調査の請求」を平成30年1月18日から同年2月20日までの間に各所轄税務署長宛に送付、ないしは持参して提出しています。なお、それに先立ち、平成2912月4日、S税務署からの電話連絡で、4社の再調査の請求が出揃った段階で、再調査請求人及びその関係各法人3社との併合審理になる旨の見通しが示されています。その後、平成30年1月29日になって、S国税局から本税の追加額及び加算税額を告げられ、同日、納付を完了しています。

 

平成30年6月下旬、処分庁であるS税務署から再調査請求人の代理人である弁護士に、再調査の請求書中の税額とその根拠(=更正通知書中の税額、その経緯等)についての問い合わせがあり、本来、代理人が原処分庁に回答すべき事柄ではないものの、当該弁護士に代わって再調査請求人の代理人である税理士が、曩の再調査請求書の主張に加え、本件更正処分等の事実認定及び税額の算出根拠等の曖昧性、虚偽性について指摘する主張を加え、平成30年8月27日から平成31年4月12日の間に再調査の請求の追加主張として提出しています。なお、上記S税務署の問い合わせは、いくつかありましたが、そのうちの1つは、関係法人の1社の平成27年度1月期の給与手当額の過大計上と認定される約3,500万円についての質問でした。

 

しかし、再調査請求人(当時は納税義務者)には、数度にわたるS国税局の査察調査によって、平成253月期から同273月期まではもとより、その前後の決算期に関係する帳簿書類等の殆ど全ての資料等を押収されており、再調査請求人の代理人が主体的に当該給与手当過大計上額を確認、検証することは真に困難を極めました。これに先立ち、筆者以外の再調査請求人の代理人からも原処分庁の署長宛に、情報公開法による「行政文書開示請求」を平成31年2月27日付で提出していましたが、同年4月24日付で原処分庁の署長からは、「特定の法人の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあると認められる」として、「行政文書不開示決定通知書」が届きました。

 

これらの情況が重なって、納税義務者(再調査請求人)は、「どんな理由で、どれだけの額の逋脱(脱税)をしたと認定されているのか」また、その「証拠とされるものは何か」等について他の、本件に係る全ての情報についても知ることが困難になっていました。ところが、S国税局への告発に先立ってS税務署の調査の段階で、当局の納税義務者への複雑な遣り取りを含めた指導があり、それを受けて当時の関与税理士の指示で作成した書類等が僅かに残されていました。そこで、再調査請求人の代理人が、当該残された書類等に基づき計算、確認したところ、原処分庁等が主張する給与手当の過大計上(当該認定は誤っており、実際には交際費であることを調査に当たったS国税局のST氏は認めていた)をそのまま再調査請求人が認めたとしても、平成27年1月期の当該関係法人の給与手当の過大計上額の約3,500万円とされる額は、実際には約1,600万円でした(別表3の平成27年1月23日~平成27年3月31日までの4か月分約1,900万円については、平成27年2月1日から始まる期の12月、1月に給与手当の過大計上分を減額して調整しています)。

 

このことからも、当該関係法人の元帳や給与明細とその他の資料とを併せて精査、検討する必要がある旨を述べ、それには、それらの資料等の再調査請求人への早期の返還や開示が必須であり、それを強く求める追加主張をしています。一方、上記の一件を現時点で考え直してみると、腑に落ちない側面が幾つか存在します。というのも、原処分庁として、再調査請求人に問い合わせるまでもなく、それらの情報に係る証拠は十分に得ていたからこそ、更正処分に打って出たと考えられるからです。また、原処分庁であるS税務署の審理専門官のY氏が再調査請求人の代理人である筆者に、平成31年3月末に、再調査請求の回答である「決定」を出します、と言ったり、4月になると、令和元年6月末には必ず「決定」を出します、と言ったりしていたことも、その理由の一つです。

 

結局、令和元年10月1日になって、同氏は、再調査請求に対する原処分を一旦、取り消し、同日、新たに同様の処分を行う旨の、いわば禁じ手を行使することを電話を通して再調査請求人の代理人に連絡してきました。これについては、最高裁が繰り返し違法との判断を示しているものです。このように、原処分庁等の内部においての混乱があったのも事実ですが、他方で、再調査請求人に更正処分に係る税額、その算出根拠等の問い合わせについては、全く異なる見方もあるかと思われます。何故なら、更正処分(原処分)として原処分庁等が認定し、その税額を算出しているにも拘らず、S税務署が再調査請求人の代理人に、更正通知書中の税額やその経緯等に係る問い合わせをすることは考え難いからです。

 

これを敢えて行ったのは、原処分庁等は、曖昧というよりは虚偽の事実(実際には存在しない事実)を認定し、税額を算出して通知していることから、そのことを再調査請求人から具体的に指摘される懸念があり、数度にわたった国税局の査察調査によって、関係帳簿書類等の殆ど全てが税務当局に押収されている中で、当該請求人がどの程度の情報を把握しているかを確認したかったのではないかとも強く思われてなりません。(つづく)

文責(G.K


 

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