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租税不服申立について(審査請求「審判所の役割と機能について」編…その5)

2020/12/18

原処分庁は、当初、本件更正処分等には実質所得者課税の原則が適用されると主張していましたが、請求人が、本件更正処分等において当該原則の適用は要件を欠くとして反論するや、原処分庁は答弁書において、「法人税法第11条及び消費税法第13条の観点について検討しているものの、これらの規定に基づき判断しているものではなく、あくまでも原処分庁が認定した『事実』を総合的に勘案した」と抽象的、曖昧な表現に変え、「法人税法第22条第2項に基づ」いて判断していると強弁、その主張を変遷させました。

 

しかしながら、原処分庁が認定したとする当該「事実」は、恣意的に「課税するために有効な事項」のみをピックアップし、事実認定の基礎としていたり、課税要件及びそれを充足する事実の捕捉方法に問題がある事例が殆どでした。このように、原処分庁が認定した「事実」は、それ自体に大きな疑問があり、とりわけ請求人の関係法人には事業実体がないと判断する具体的根拠、及び法人税法第22条第2項の解釈については納得できないものでした。そこで、請求人は、原処分庁が、本件各関係法人には事業実体がないと判断した根拠(課税要件を充足しているとする事実)を具体的に明らかにするとともに、法人税法第22条第2項の解釈(その規定振り及び文言から、課税当局が恣意的ないし一方的に益金の額及び損金に算入すべき金額を認定してよいとまでは読み取ることはできない)についての見解を原処分庁に求めました。

 

これに対し、原処分庁は、「法人税法第22条第2項の法律論的解釈について、意見を述べる立場にない。」、「本件各関係法人に事業実体がないと認定し、実質的な費用収益の帰属主体は請求人であり、本件各外注取引は架空と認められることから、請求人が本件各外注取引により支払う外注費は、法人税法第22条第3項に規定する損金の額に該当しないと認定する一方で、本件各関係法人の売上は架空であり、法人税法第22条第2項に規定する益金の額に該当しないと認定した。」と回答しました。しかし、原処分庁のこれらの回答は欺瞞に満ちたものでした。前者については、課税のための法規を執行する原処分庁が、当該法規の法律論的解釈をしないまま租税行政を行っていることを意味し、租税法律主義を蔑ろにするものと言えます。後者については、本件各関係法人には事業実体がないことの根拠を、請求人が具体的に明らかにすることを求めていたのに対して、原処分庁は、全く恣意的な認定である架空取引なる用語を作出、論点をすり替えており、回答になっていません。

 

一般に、法律の適用に関する判断を導き出す推論方法としては、三段論法が採られ、税法領域の争訟事案においても、同様にこの考え方に従って結論が導かれることになります。これは、大前提としての法規範と小前提としての具体事実から法律の適用に関する判断を導き出すものです。この考え方を、税法領域に具体的に置き直すと、⑴大前提として、税法の解釈を通じて税法規範を定立、明示し、⑵小前提として、事実(実際に存在した事実)の認定を行い、⑶そして、認定した事実を税法規範に当て嵌めて結論(判断)を導くことになります。そこで、本件審査請求事件を上記に照らすと、原処分庁等は、大前提としての税法の解釈を通じた、本件に適合する税法規範を明示すべきところを、請求人の累度にわたる質問において、法人税法につき、原処分庁が「恣意的に認定した7項目の『事実』を総合的に勘案し、法人税法第22条第2項及び3項の規定により」としか述べておらず、22条2項及び3項の解釈を通じたそれらの適用範囲等を含む、依るべき「否認規定としての規範」を一切提示していません(一般に認められている否認規定ではなく、法的安定性を欠き、拠るべき税法規範とはならない)。

 

また、消費税法のうち、新設法人の免税期間についての法の缺欠に関しては前回に触れましたが、それ以外について原処分庁は、「国税通則法704項(平成273月法律第9号による改正前のもの。)の規定が適用され」る、としか述べておらず、上記法人税法と同様、累度にわたる請求人からの根拠法令についての質問にも答えることなく、通則法704項の解釈を通じた「依るべき規範」を明示しておらず、照らすべき税法規範が存在しないことになります。加えて、小前提としての事実認定は、請求人が証拠を挙げて反証するように、その大半が「はじめに結論ありき」に沿ったもので、虚偽ないし原処分庁側の作出に拠った「事実」をそのまま事実認定したものです。そうすると、当て嵌めるべき税法規範が存在しないばかりか、「虚偽事実」を事実認定していることになります。

 

よって、このような誤った事実を、原処分庁等は「総合的に勘案し」て判断したと主張していることになり、審判所が、そのような原処分庁等の誤った判断に基づくならば、中立的、公正な結論(裁決)を導くことは論理的に不可能というコロラリーとなります。反論書においては、請求人がする違法性の主張等に対して原処分庁の主張(答弁書)は、「原処分は適法に行われている」とする抽象的な答弁に終始するだけで、請求人がする違法性の主張、反論等に、具体的にどこに誤りがあり、原処分庁等の主張等のどこがどのように適正なのかについての答弁はされていません。因みに、原処分庁による本件更正処分に先立つ税務調査において、以下の事実を記した資料が存在します。

 

すなわち、平成25月の調査において、調査担当者は請求人の専務取締役であったC氏に対し、3~4社の関係法人の名前を挙げて、「これらの会社は何ですか」と質問し、C氏は「請求人の社員にすると社会保険に入らなきゃいけないから違う会社(の所属)にしているんです。」と答えたところ、「当該調査担当者2名は、『ふ~ん』という態度を示し、この件に関しそれ以上、私(=I税理士)やC氏に質問することなく、別の話題に移りました。」との記録です。他方、平成28年6月21日のS国税局の質問てん末書には、「平成25年の始め頃(2月)にS税務署の調査を受けた際に、調査担当者から、関係会社の設立目的や実態について確認されたことがあり、その際は、C氏から社会保険の調査を受けないようにするためであると説明してもらい、当該調査担当者の方にも納得してもらったことはありました。」とのI税理士の申述が記載された質問てん末書が存在しています。

 

また、当日以外の別の日には、「この時(当日)も含めて、この税務調査を通して、関係法人に外注費を計上することにより請求人の消費税が減ることについての話題になったことはありませんでした。」と申述しています。それ以前にも同様に、I税理士事務所の元職員が立ち会った平成18年頃のS税務署の税務調査においても、A職員は、「私が請求人と関係法人との役割に気付いていたのですが、税務署の調査官が関係法人のことを指摘するのではないかと思っていたところ、調査官は関係法人については何も触れなかったことに驚き、『これって許されるんだ』と思った」と述べた質問てん末書が存在します。すなわち、これらの事実は、調査担当者らは請求人が本件各関係法人を設立していたことを認識しており、「請求人が消費税逃れのために本件各関係法人を設立していたのではないか」という疑いについて、調査担当者らはその疑いのないことを認めていたということになります。

 

また、C氏の質問てん末書及び本人のメモ並びに別の日に申述した内容によれば、請求人の本件各関係法人について、社会保険の都合上、別法人にする必要がある旨を述べたところ、調査担当者らは「そうなんですね」とか「なるほどね」と言っています。そこでC氏は、「今後こ(れら)の会社はどうしたらいいんでしょうか、教えてください」と質問したところ、S税務署のS調査担当者は、「だって、この会社がなかったら困るんでしょう、だったら、続けるしかないでしょ」と答え、当該調査に同行していた同税務署の別の調査担当者U氏からも「そうだね、仕方ないよね」との回答が得られた旨がC氏のメモには記されており、I税理士は、調査担当者らは「納得」していたとし、C氏は、調査担当者は「是認」していたとし、事務員は「何も触れなかった」とし、是認であれ、追認であれ、黙認であれ、いずれも認容していたことを示しています。(つづく)

文責(G.K

 

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