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その後の軽減税率導入論議

2016/01/30
今、世間の耳目を驚かしているのは、甘利明経済財政・再生大臣の突然の辞任を巡るニュースです。「週刊誌」が、甘利大臣の政治とカネをめぐる疑惑を大きく報道して1週間、あっけなく辞任に追い込まれることとなりました。当初、「法に違反する行為はしていない」などと強弁していましたが、1月28日になって本人の現金の受領及び秘書が受け取った金額のうち数百万円が使い込まれたなどの不適切な対応があったことを認めています。 

 

甘利議員といえば、ベテラン議員で労働大臣や経産大臣も歴任した大物政治家であり、マイナンバー制度やアベノミクス、そして昨年末に大筋合意したTPP協定交渉の中心人物です。アベノミクスといえば、安倍政権下の異次元金融緩和で一時は盛り上がっていた不動産取引が昨年後半から失速し、ブレーキがかかっているようです。投資マネーの流入で、物件価格が上昇し過ぎ、割高感が出てきたからだといわれています。さらに昨今は、株安・原油安・円高の三重苦が、景気動向に敏感な不動産市場における投資家心理を冷え込ませており、投資用不動産価格は下落の可能性すら出てきたとの見方も出ています。  

 

こうした中で、日銀は1月29日、金融政策決定会合を開き、アベノミクスを支える追加緩和策として、市中銀行が日銀に預けている一部の資金に0・1%の手数料が掛かる「マイナス金利」を導入することを決めました。この追加緩和策の導入で、原油安や中国経済の失速をはじめとする新興国・資源国の債務問題から企業が投資活動を慎重にするのを防ぐのがねらいと思われます。また、米国の利上げで新興国からの資金が流出する懸念を払拭し、投資家の不安心理の解消も狙おうとするものと思われます。

 

日銀の追加緩和策を受け、国内金融市場も大きく反応し、1月29日の東京株式市場の日経平均株価の上げ幅は一時、500円を超え、東京外国為替市場では円相場が対ドルで急落し、一時、1ドルが121円台前半で取引されました。日銀の黒田総裁は、必要なら追加の緩和策をとると強気な発言をしていますが、問題は、このような緩和策の効果が長続きするのかといった懸念があることです。追加の緩和策といっても、日銀のとれる選択肢は次第に狭まってきているように思われます。

 

仮に、異次元緩和を強化し、「消費拡大を通じて物価を押し上げ、企業の物価観を高め、大幅な賃上げにつなげる」というシナリオが崩れれば、異次元の金融緩和の効果が実体経済を回すことができず、そのカネがマネーゲームに向かうだけとなり、それはアベノミクスの破綻に直結します。そうなれば、消費税の軽減税率導入についてさえ、それに伴う減収額の1兆円を埋める財源がなく、税収の上振れ分があてにされている中、それどころではなく、10%への引き上げ自体も困難になり、その議論にも大きな影響を及ぼすことになります。

 

消費税の10%への引き上げといえば、1月19日の参院予算委員会で増税時の数字の妥当性に疑問が出されました。財務省は、当初、1人あたりの消費増税による負担増は1万4000円で、1人当たりの軽減税率による負担軽減額は4800円であるとしていました。ところが、1人当たり4800円に人口をかけると6000億円になり、軽減税率による減収額1兆円より少ないことに疑問が呈されました。政府側は、結局、1人当たりの消費増税による負担増は2万7000円で、1人当たりの軽減税率による負担軽減額は8000円と修正しました。当初の消費増税による負担増1万4000円は総務省の家計調査であり、修正後の2万7000円は財務省の消費税収からの推計とのことで、根拠となる統計を揃えたというのが表向きの理由のようですが、一方、選挙を睨んで、支持を得ようと何が何でも軽減税率導入に走るのは、政治の無責任との謗りを免れないものと考えています。

文責 (G・K)

 

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