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租税不服申立について(審査請求「審判所の役割と機能について」編…その6)

2020/12/25

これについて、平成27917日の税務調査においてC氏が、(前回調査時の同税務署の対応及び回答を)確認して欲しい旨を申し出たところ、S税務署の調査担当者O氏は「前回の記録は見当たらない」と回答しています。その後の原処分庁等の請求人に対する回答として、令和2年6月に行われた口頭意見陳述時に、「平成25月の調査においては、仮に、取引先に本件各関係法人がある事を認識していたとしても、本件各関係法人との取引内容を検討し、本件各関係法人の事業実体をつまびらかにしたとは確認できない。また、原処分庁が行う調査において、確認できた事実関係に基づいて課税処理している。したがって、原処分庁が平成25年2月の調査において本件各関係法人の事業実体の有無を含む本件各関係法人との取引の正当性を認めているものでもなく、認めた事実も確認できない。」としています。

 

また、信義則(禁反言)の原則については、「C氏が示した事実関係の詳細は不明であるうえ、それに係る原処分庁の調査担当者が、仮に請求人の主張通りの応答をしたとしても、原処分庁が請求人に対し信頼の対象となる公的見解を表示したという評価には当たらない。」としています。しかしながら、既視感のある、このような原処分庁の回答に満足し、納得できる納税者(国民)はおそらく一人もいないでしょう。前者は、納税義務者の主張を断定的に否定しないことにより、後の万が一の時の責任論を回避し、あくまでも「仮定」の議論として置き換え、論理をすり替えるものであり、そのすり替えた論理によれば、「本件各関係法人の事業実体の有無及び取引の正当性を認容若しくはその確認ができない」とするものです。暗に納税義務者の言うことは信用できなくて、お上である原処分庁の言うことが正しいとする言い回しですが、第一義的には、その事態を招いた原処分庁の調査スキルの稚拙さが根底にあり、それを自ら露呈したものと言えるでしょう。

 

後者については、前者と同様、自らの調査資料及び書類関係の管理の杜撰さを暴露するとともに、仮定の議論に置き換え(すり替え)るものです。但し、後者は、租税行政庁自らが現行の税務行政の根幹を否定するものであり、更に病根が根深く大問題と言えます。すなわち、課税庁の調査担当者が調査時にいい加減な指導応答をしたとしても、納税(義務)者に信頼の対象となる公的見解を表示したことにはならないとする原処分庁の大暴論です。これでは、単に課税庁と納税者間の信頼関係という議論を超越し、国家と国民の租税をめぐる信頼関係を根底から覆し、憲法の規定をも否定する考え方、発言です。課税庁はいい加減な発言をしても赦され、納税者が同様なことをすれば罰せられるのでは、民主国家とは言えないでしょう。国民に納税の義務があるということは、表裏一体の関係で、同時に権利も存在し、その「逆も真なり」です。

 

原処分庁等のこの回答を含む本件更正処分等に係るこれまでの殆どの対応は、このコラムを書いていていつも暗く、嫌な気持ちになります。民主主義の法治国家にあって、租税法律主義を標榜する大宗としての租税行政庁であれば、合法性の原則により租税行政庁が租税を減免したり、租税を徴収しないという自由がないのは大いに理解できるとしても、法律の根拠なくして、あるいは法律の捻じ曲げ解釈によって租税を課したり、徴収することは許されないことは理の当然と言えます。原処分庁等の回答は、一連の、いわゆる「モリ・カケ・サクラ」問題に関する政府側の答弁をトレース、彷彿とさせる欺瞞に満ちたものです。一旦、是認回答した、租税行政庁の公的見解を前回の記録の亡失、ないし廃棄等、その他の理由で、後になって当該回答を翻して変更することは、国の責任を国民に擦り付け転嫁するものであり、納税者の法的安定性及び予測可能性を大きく毀損し、納税者の租税行政庁に対する信頼を失墜させるものとなります。

 

C氏のメモには、これまでにも述べてきたように、I税理士が平成271126日、すなわちS国税局による第1回目の査察調査があった翌日、請求人(法人)の事務所を訪れ、平成273月期の請求人の法人利益約2億円を約億円に圧縮した(1億円を次期に期ズレさせた)ことにつき、「社長、決算の時の1億円、社長にお願いされてやったって言っていいですか?国税局が怖いので…資格を剝奪されます」と言ったり、「社長、今回の決算の利益はどうしますか?税金を今期で払うか来期で払うかの違いです。」と、自らの「期ズレ」は許されるとする事実誤認に基づいて利益の平準化を勧めたことが記されています。また、「任せて下さい、僕は数字のプロですから」とも発言していることが記されています。

 

それらの事実からすれば、I税理士が質問調査の段階で調査担当者に誘導・誤導され、虚偽の申述をすることは十分に考えられ、原処分庁も、当然、当該事実を把握しておきながら、申述の内容、質問てん末書の文面等の修正を考慮、検討することなくそのまま事実認定し、誤った法令の解釈・適用をしています。しかしながら、これまでに見てきたことに加え、この本件更正処分等のキーポイントとなる事実等についても、審判所は頬被りをして見て見ない振りをしているやに見受けられます。すなわち、I税理士が自らの事実誤認に基づいて、主体的に本件更正処分に係る申告書等の作成、提出をしており、請求人らは、あくまでも従たる立場でその事実誤認によって作成されていた申告書等に係る報告を受けていたに過ぎないのです。そうすると、請求人はもとよりI税理士のいずれにも、租税免脱の故意はなく、単なる勘違いレベルに基づくものであって、これを偽りその他不正の行為と評価することには無理があることになりますが、仮に、審判所が原処分庁の誤った判断を追認するようなことがあるとすれば、本質から敢えて目を逸らしていることになり、審判所における審理自体が空虚、無意味なものとなるでしょう。

 

このような状況の中にあって、審判所の役割を大いに評価すべきと考えられるのは、審判所から原処分庁に宛てた「求釈明」があります。これは、国税通則法97条(審理のための質問、検査等)に基づく質問、検査の一環として審判所が行うものです。これまでに触れたとおり、原処分庁が本件更正処分等の理由、金額、計算方法、根拠法等を明らかにしないため、架空給与額が35,536,282円存在すると言われても、請求人は、これに対して十分な反論ができずにいたものです。ともあれ、原処分庁からの回答により、漸く、金額、計算方法等の一部が明らかになり、請求人は以下の反論をすることができました。

 

すなわち、「I税理士主導によって誤った経理処理が行われ、元請の現場責任者等に対する一時的な貸付金の原資に、法人の交際費の性格を持つ金員と個人の出捐による金員が入り混じり、その回収手段を誤ったが、これに会計、税務に関する知識の殆どない請求人(C氏)の悪意による故意は認められず、単なる関与税理士の事実誤認で指示誤りによる経理ミスを原処分庁等は、殊更に悪性を印象付けようとしており、それが架空給与とされているものの実態であり、無論、重加算税の対象となるものでもなく、請求人にもその認識はない。」とする反論です。なお、これ(架空給与と認定されている額)については、S国税局の調査段階で、当該調査担当者は交際費である旨の発言をしています。

 

とは言え、S税務署による調査時の進行年度に係る指導に従って、平成272月(原処分庁指摘1月)分から274月(原処分庁指摘3月)分(16,283,883円)まで(請求人の平成273月期分)を含む関係法人の翌期に係る差額分についても、A氏夫妻の個人の金員を平成271214800万円、同月16800万円、同月18400万円、同月24200万円、平成28113500万円、同月20400万円(関係法人の決算期の中)、合計3,100万円を関係法人の口座に戻し入れて返還し、平成281月期で総勘定元帳の給与手当勘定を3,100万円減額し、残金についてはA氏の関係法人への貸付金で相殺しており、本件更正処分時には残高0円となっています。

 

百歩譲って、仮に原処分庁の主張(架空給与認定)をそのまま受け容れたとしても、処分対象期間内における実際の金額は、原処分庁の主張する35,435,232円から16,283,883円を減算した19,151,349円となります。これらの処理の全ては、S税務署の指導に従って行ったものであることから、当然、原処分庁もこの事実を把握している筈であり、原処分庁を含む租税行政庁内の連絡ミスと思われ、審判所からの求釈明に対する原処分庁の回答は、将に欺瞞に満ちた内容です。因みに、これ以外にも原処分庁は、101,050円の認定誤りをしていたことを明らかにしており、原処分庁による本件更正処分等が如何に曖昧かつ杜撰な事実認定であったかを物語っています。(つづく)

文責(G.K

 

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