Mobile Navi

税務コラム

税務コラム

税務コラム

 

トップページ > 税務コラム一覧 > 租税不服申立について(審査請求「審判所の役割と機能について」編…その13)

租税不服申立について(審査請求「審判所の役割と機能について」編…その13)

2021/01/28

前回のコラムで、国税不服審判所長に宛てた申立てが、本部に届くことなく、その支部であるS審判所限りで検討され、当該支部審判所の首席国税審判官からの回答が届いたことを述べましたが、多分、それは本部の所長からの指示ではなく、S審判所独自の判断で回答したものと思われます。それは、国税不服審判所設立50周年を迎えた記念事業の一環として税務関係雑誌のインタビュー記事として、AA国税不服審判所長が、以下のような審判所についての認識を誇らしげに述べておられることからも想像できます。このことは、本部では、支部の事務運営について、その全てを把握していないことを意味し、当たり障りのない表現をすれば、本部支部間の風通しがあまりよくなく、意思疎通が十分でないこと、悪く言えば、組織の隠ぺい体質を物語っていると言えます。

 

因みに、同国税不服審判所長は、審判所の使命について次のように述べています。「税務行政部内の公正な第三者機関として、適正かつ迅速な事件処理を通じて、納税者の正当な権利利益の救済を図るとともに、税務行政の適正な運営の確保に資することを使命としています。この使命は、昭和45年に設立されて以来、一貫して変わらないものです。設立50周年に合わせて、『半世紀変わらぬ使命これからも』というキャッチフレーズを作成して、これを心構えとして執務に励んでいます。国税不服審判所では、この使命を果たすために三つの基本方針を50年間堅持しています。一つは争点主義的運営、二つ目は合議の充実、三つ目は納得の得られる裁決書の作成と、この三つを基本方針として公正妥当な処理をするよう周知している」としています。

 

また、上記の「三つの基本方針の下に事務処理の具体的な方針として五つの方針を共有しています。」すなわち、「『適正な事件処理』、『迅速な事件処理』、『審判の透明性の確保』、『裁決の質的向上』、『簡潔、明瞭な裁決書の作成』の5項目を共有して機動的、かつ効果的な処理を行って」いるとするものです。組織のトップがこのように認識し、国民に周知し、組織運営を行おうとしているときに、S審判所の事務運営の実態を知ることになったらどうなるのでしょうか。国税不服審判所長に宛てた文書には、S審判所の事務対応の実態及び担当審判官の業務の実態(表現は適切ではないかもしれませんが「羊頭狗肉」の状況)が記載されていることから、これを隠蔽し、本部所長の目に触れることのないようにしたくなるのも理解できるような気がしませんか。しかしながら、決して、それは許されることではありません。

 

三つの基本方針の一つ目として、AA国税不服審判所長は、「裁判所においては、事件を総額主義的に検討しますが、国税不服審判所においては、あくまでも行政のあり方を迅速に見直すという不服審査ですから、補充調査みたいなことは行いません。当時この証拠でこの課税をしてよかったかということを争点主義的に見ていく不服審査のあり方が、裁判とは違うところです。」と述べ説明をしています。そうだとすると、このコラムで繰返し触れている、S審判所のHS副審判官が、令和元年1218日第1回審判所と請求人(代理人)との打ち合わせ時に発言した「審判所においては、事実に基づき、『税務行政上に係る事項の判断をするのではなく、(事実についての)純法律的な判断を』しますとする説明とAA国税不服審判所長の説明との間には、明らかに齟齬があり、いわゆる行政庁内不一致の状態にあることを示しています。

 

より大きな問題は、請求人(代理人)はHS副審判官の説明に基づいて立論し、これまでのすべての原処分庁に対する反論、主張をし、また、審判所に対してもHS副審判官の説明に基づいた主張、立証をしてきていることです。更に、そのことについては累度にわたって明確に触れた上で税務行政庁に対するそれらを行っているにも拘らず、原処分庁はもとより、S審判所においては一言も、AA国税不服審判所長の説明との間の齟齬を補完、訂正すべきをしていないことです。仮に、HS副審判官の誤った説明がなければ、請求人(代理人)の主張内容及び立証方法は全く変わったものとなっており、少なくとも、現在とは違う局面になっていたであろうことが容易に推察されます。これは、国税不服審判所の基本方針云々以前の問題と言えます。

 

基本方針の二つ目として合議の充実が挙げられていますが、全国の支部審判所においては、民間出身の国税審判官(特定任期付)が採用されており、複雑な国税に関する審査請求事件にも対応できるような体制となっていること。また、民間の専門家の採用の重要な目的が、身内を庇い合うような事態を排除し、中立性及び公平性を確保することにあることからS審判所においても、このことを念頭に置くことを強く望むところです。基本方針の三つ目の納得の得られる裁決書の作成は、とりわけS審判所における本件審査請求事件においては、「基本方針」のみで終わることなく、是非とも「行動」が伴うよう、請求人(代理人)は望むものです。

 

国税不服審判所長は、平成28年に施行された改正通則法の大きな変化は二つあって、その一つは、再調査の請求を経ないで審判所への審査請求を可能とする直接審査請求であるとしています。しかしながら、このことが結果として、再調査の請求を経由する場合の原処分庁がなすべき再調査の請求を形骸化し、又審判所がなすべき調査の形骸化を生んでいるように思われます。すなわち、原処分庁にとってみれば、どうせ、再調査の請求に基づく調査をしなくても、あるいは名目的に行ったとしても、「審判所が一から調査することになるだろう」、という安易な思考を招来させ、真摯な職務意識を失わせる動機を生む余地を与えているように感じられてなりません。

 

一方、審判所にしてみれば、原処分庁にとって不利な事実や虚偽が存在している疑いがあったとしても、「(国税組織の、いわば身内とも言える)原処分庁等の調査を既に経由していることでもあるし」、という身内重視の、言わば「体育会系」的な発想、思考から、原処分庁等の職員、あるいは国税組織を庇い、本件のように、誤っていることが明白であり、それを通則法の規定に基づき確認するよう納税者から求められたとしても、調査を行わないとする(法令の趣旨に反する)動機が働き、納税者の不服事案をより慎重に審理するという所期の目論見は予定された機能を果たすことなく形骸化しており、納税者の正当な権利利益救済の観点からは、将に危機にあると言えます。

 

大きな変化の二つ目として、国税不服審判所長が挙げられている口頭意見陳述についてですが、これはS審判所に特有の問題か、あるいは全国いずれの支部審判所においても同様かは定かではありませんが、当該税務関係雑誌に記載されている記事から受ける印象と実際はかなりの乖離が存在します。先ずは、口頭と言いながら、その実、請求人には事前に原処分庁等に書面で質問内容を通知することが求められ、また、当日の原処分庁等からの回答は、事前に書面で質問事項を詳細に記述していたにも拘らず、まるで「木で鼻を括る」が如くの答弁で、論点が噛み合うことなく、全く所期の創設目標とは程遠い、無意味なものであり、当初予定していた2~3回の当該口頭陳述を1回で打ち切りました。

 

過日の新聞に興味深い記事が掲載されており共感したので、少し長いですが、引用してみたいと思います。それは、租税法分野で用いられる「否認」と精神分析学上の「否認」とは、概念が若干違うようで、「精神分析の用語としての否認について、『本当は分かっているけれども、本気になって受け止めていない』あり方を指す。第二次大戦中の日本人は、戦況が悪化し、アメリカとの戦力の差を痛感しても、日本が負けるわけがないと思い込もうとした。バブル崩壊後の日本も、しばらくの間は『また好景気が戻るだろう』と思い込んだ。現に、バブルの象徴とされるジュリアナ東京は、バブル崩壊後にオープンしている。人々は、あまりにも大きな変化が起き、危機が迫りくると、その状況を冷静に把握するのではなく、現状から目を背け、『否認』の方向に歩みを進める。『まあ何とかなるだろう』『大丈夫だろう』と思い込もうとするのだ。『否認』を乗り越え、危機の本質を見つめる勇気を持つ必要がある。」(中島岳志「北海道新聞」令和3年1月26日)とするものでした。

 

設立されて半世紀を過ぎた国税不服審判所、三つの基本方針及びそれを受けた五つの事務処理の具体的方針、それらは審判所最大の存在理由となっているところ、それらの理念、方針等が、50年間堅持されていることは、法的安定性及び予測可能性という観点からは評価できるとしても、それらの本部・支部間の共有化という点では、うわべはともかく、中身については常に錆び付いていないか検証することが肝要と思われます。(審判所の役割と機能について編 おわり)

文責(G.K

 

金山会計事務所 ページの先頭へ