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税務行政職員の使命感と職業倫理 その1

2021/02/25

今回からは、筆者が近時の一連の不服申立の手続の中で感じた、国税職員の(誤った)使命感と職業倫理について、私見を述べてみたいと思います。日本国憲法30条「国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負ふ。」を受けて、国税庁は、「納税者の自発的な納税義務の履行を適正かつ円滑に実現する」とし、その「使命を達成するため国税庁は、財務省設置法第19条に定められた任務を、透明性と効率性に配意しつつ、遂行する。」としています。すなわち、申告納税制度を前提とする納税義務の履行を適正かつ円滑に実現するために、与えられた任務を、透明性と効率性に配慮して行うことを明らかにしています。

 

これは、国や地方公共団体が、国民や住民の生活に欠かすことのできない公共サービスを提供するための活動を行うためには、その原資(税金)が重要で不可欠だからです。そこで、上に述べるように、公共サービスが国民の税によって円滑に提供されるよう日本国憲法30条は国民の義務の一つとして、納税の義務を定めており、国税庁には税を徴収するための権限が与えられています。国税庁は、この国民から負託された責務を果たすために、さまざまな広報活動等を通して善良な納税者が課税の不公平感を持つことがないよう、国税の適正で公平な賦課・徴収の実現を目指しており、そのための取り組みに当たっては、納税者である国民の理解と信頼を得ることが重要だと考えている、としています。

 

そのため、国税庁の外部に向けた広報活動は、その組織及びそこに働く税務行政職員の高潔性ないし厳格性をイメージさせるものとなっています。しかし、納税義務の履行を適正かつ円滑に実現するとする(外部向けの)「使命」と実際の実務としての「使命」(内部向けの)との間にはギャップがあり、ダブルスタンダードとなっていることを強く感じます。これは税務職員個人の問題だけに由来するものではないように思われ、組織的、複合的要因に由来するような気がしてなりません。彼らは、税務行政組織に公務員として採用された当時、「自分はなぜ公務員になったのか」を自問自答し、自己の利益や組織の利益を図るために公務員になったわけではなく、国民や住民(納税者)のため、そして社会に貢献するために公務員になったのだ、とその答えを出していた筈です。

 

事程左様に、いわゆる「国税専門官」と言われる国税調査官、国税徴収官、国税査察官の試験に合格して間もないフレッシュマンは、その抱負を以下のように述べています。国税庁は、「『納税者の自発的な納税義務の履行を適正かつ円滑に実現する』ことを使命としていますが、この使命を全うするためには、納税者の方と直接接し、納税への理解を深めてもらわなくてはなりません。私が勤務する税務署は、実際に納税者の窓口として国税事務を担っていますが、国民の立場を肌に感じながら使命感を持って職務に取り組める環境は、日々、私を成長させてくれています。幅広い仕事をして経験を重ね、国民からも組織からも頼られる税務職員になるという目標に向けて、目の前の仕事に全力で取り組む日々です。」1と、将にその新鮮さがそのまま伝わって来そうな気がします。

 

このような、採用当初の自覚、使命感や倫理観は、長年の勤務によって次第に薄れ、自分たちの組織や職員個人の利益を優先するようになってしまうものなのでしょうか。国民の立場を肌に感じながら使命感を持って職務に取り組み、社会のために貢献し、困っている人を助けたい、自分が喜ぶことよりも他の人が喜んでいるところを見たい、そんな新鮮な感覚や気概は世俗にまみれて段々と経年劣化していくものなのでしょうか。否、そうであってはならず、そうなって欲しくはありません。筆者は大学教員として税法に関わる一方、実務面では、税理士としての業務にも携わってきました。その中で、近年の政治及び政治家の劣化と軌を同じにするかのように公務員の倫理感の低下、就中、税務職員の使命感と職業倫理の変化を肌で感じ、それに対する危機感を募らせているものです。

 

それらと同根かと言えば必ずしもそうではないのかもしれませんが、筆者が経験した税務行政職員の「使命感と倫理」に関しては、わが目と耳を疑いたくなるような、かつて経験したことのないような惨憺たる事態を経験しています。組織や自己を守るために、見え透いた嘘を平気でつくことなど、一昔前の役所では寡聞にして知らず、あり得ない現象でした。一例として、“課税要件を充足すると課税される”ことになります。と言うことは、課税要件が満たされなければ、課税をされることはありません。しかし、近時は、税務調査官の現場臨場時の指導を、のちに納税者の信頼の対象となる公的見解を表示したのではない、として前言を翻したり、根拠法を示すことのできない課税をしたり、課税要件を充たしていないにも拘らず、充たしていると平気で言い張ったり、ありもしない事実をデッチあげ、証拠を捏造することも厭わないなどの現実があります。

 

このような場合、本来、納税者は、課税庁と徹底的に争ってそれらの取消を求めるべきですが、わが国には、争いを望まない国民性を持った納税者が多いという実情があります。また、近年、税務行政職員を含む国家公務員の職業倫理意識の高揚が強く求められていますが、その一つの理由として、その組織における不祥事、そこに働く職員による不祥事等が後を絶たないことが挙げられます。折しも、既視感のある農水省、総務省関係の高官の接待絡みの不祥事がマスコミ報道を賑していますが、国家公務員には、国家公務員倫理規程において、当該部署職員は倫理保持をするために遵守すべき倫理行動規準が定められています。これは社会全体の満足度の最大化の期待に由来するものと言えます。

 

因みに、課税要件とは、それが充たされると納税の義務が成立する要件を指し、その課税要件の内容(要素)は次の5種類とされています。すなわち、納税義務者、課税物件、課税物件の帰属、課税標準(課税物件を価額、数量等で表したもの)、税率であり、ある人物(法人)が納税義務者に該当し、その人物(法人)と課税物件との間には帰属関係があり、その課税物件の課税標準を算出することが可能で、その課税標準に税率を乗じて税額が確定可能な場合にはじめてその人物(法人)に納税義務が成立することになります。

 

「私は税務署で、法人に対する税務調査を担当しており、現場では、各種書類の保存状態などを確認することがあり、調査を受けることが初めての方などは、不安に感じて厳しい態度をとられたり、拒絶されたりすることがあります。そのような時は粘り強く説明をして、不安を取り除き、理解と協力を求めます。適正・公平な課税の実現のため、強い信念と熱い情熱を持って、全ての納税者に平等に接する必要があります。経験の浅いころは上手く説明することができず、なかなか苦労をしましたが、納税者の方に理解を深めていただき、協力と信頼を得ることができた時は、言葉にならない達成感や遣り甲斐を感じます」2とする曩の国税庁のフレッシュマンの気概なり、使命感からは、程遠いものを現実は感じさせますが、仮令、それが一部であったとしても、重大な問題です。

 

わが国においては、為政者の行動を憲法秩序が制約し、国民や住民(納税者)が公務員(税務行政職員)に期待する事項は、法令という形で定められています。したがって、税務行政職員にあっては、何よりも法令に従って的確に業務を遂行し、法令によって禁じられていることを行うべきではありません。「法令遵守は、公務員としての最低限の倫理と理解すべきものです。」筆者が抱く危機感は、納税者にとっての満足度や効用の最大化の期待を実現すべく定められている法令よりも、自らの組織の内部管理利便のための規則や慣例等に固執し、本末転倒の状況にあることを危惧するもので、行政組織の本来の目的である公益の実現を優先すべきであり、組織秩序や仕事のしやすさなどを優先させるべきではないと考えるものです。(つづく)

文責(G.K

 

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