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税務行政職員の使命感と職業倫理 その2

2021/03/05

以前にも、別のテーマの税務コラムで述べましたが、筆者が税務代理人として、その法人税額等及び消費税額等の更正事案に関わることとなったのは、平成281025日に、納税(義務)者の取引金融機関の支店長からの、「大事なお客様が、関与税理士の手違いで大変厄介な税務問題になっているようなので、相談に乗って上げて欲しい」、との依頼によるものでした。この依頼を受け、納税者(当時の法人の代表取締役及び専務取締役)と数回の詳細な質問や遣り取りをした後、平成281117日、S国税局に当該事案の全体像の把握、確認及び調査状況等の内容確認の目的で赴いたのがその始まりでした。しかしながら、同国税局査察担当者らは、開口一番、「先生、来られるタイミングが遅過ぎました。本件は、既に検察庁への告発事案となっており、現時点では、本件に関し何もお話しすることはできません。」と、にべもない対応でした。

 

税務代理人として、状況が皆目把握できない状態では代理人としての今後の業務等ができないと、必死に食い下がり、概略説明でも構わないからとお願いしたところ、一つだけ言えるのは、「関与税理士が納税者に脅されて、脱税に係る申告書等を作成していたようです。」とのことでした(のちに判明しますが、その事実はありません)。また、「一連の検察庁への告発業務が終了し、国税局から原処分庁となるべき所轄のS税務署に修正に向けての業務が移行する、その最終段階で、(修正申告に関する)打ち合わせ及び処分庁からの修正の勧奨並びに(税務)調査結果の説明があります。その時までに、当国税局からも説明することになるので、二重に説明することになりますが我慢して聞いて下さい」と当時のS国税局調査査察部査察第三部門の主査らは代理人(筆者)に伝えました。しかし、結果として、S国税局及び当該担当職員はその言質を守ることはありませんでした。

 

と言うのも、平成291129日の夕刻1650分になって、上記査察第三部門の主査からの電話で、「(税務)調査結果の説明や修正の慫慂(勧奨)、それに関する打ち合わせ等はしないことになりました。」との連絡がありました。また、日付が前後しますが、同年同月10日、原処分庁であるS税務署において、乞われて同署法人課税7部門の統括官及びN税務署法人課税8部門の統括官と修正申告に関して面談した際、重ねて本件法人税額等及び消費税額等の更正処分に係る経緯、調査内容、調査結果、処分内容、税額等につき質問しましたが、同統括官らは、別件の刑事裁判が進行中であることを理由に、「答えることができません」と回答しました。そこで代理人である筆者は、「本件の調査から告発に至る一連の税務手続に対する質問」と題するS税務署長宛文書を手交しています。実は、この調査結果の説明をしないことは、本件法人税額等及び消費税額等の更正処分に関する原処分庁と納税者との争訟にとって決定的な意味を持ちます。

 

国税通則法(以下、「通則法」という。)は、国税についての基本的事項及び共通事項を定めた法律ですが、同法の第74条の111項には、(調査終了の際の手続)として、「税務署長等は、国税に関する実地の調査を行つた結果、更正決定等をすべきと認められない場合には、納税義務者であつて当該調査において質問検査等の相手方となつた者に対し、その時点において更正決定等をすべきと認められない旨を書面により通知するものとする」とし、同条第2項は、「国税に関する調査の結果、更正決定等をすべきと認める場合には、当該職員は、当該納税義務者に対し、その調査結果の内容更正決定等をすべきと認めた額及びその理由を含む。)を説明するものとする」との規定が置かれています。すなわち、当該調査結果等の説明がなければ、通則法違反となり、当該更正処分等は無効になると考えられます。

 

原処分庁より送達された「更正通知書」に対して「再調査の請求書」において当該調査結果の内容等の説明が再調査請求人(以下、「請求人」という。)である納税者になかったことを指摘、主張しました。これに対し、原処分庁(S税務署)は、国税不服審判所(以下、「審判所」という。)に一連の不服申立手続が移行した後に、曩の原処分庁と請求人(代理人)との面談時に請求人に、「修正の勧奨をするとともに、非違の内訳を提示し、非違項目、非違金額及びその理由を伝え」た、と全く虚偽の主張をし、加えて、その証拠として「修正申告について」なる文書が存在する旨の強弁をしました。そこで、代理人が閲覧請求を行い、当該文書を確認したところ、日付欄の記載が筆者以外の手で加筆されており偽造文書であることが判明しました。

 

代理人である筆者に上記括弧書きの主張内容を伝え、更に「修正申告について」なる文書を手交し、その文書には筆者の署名押印があるとする「事実無根、虚偽の主張」は、原処分庁のみの判断で行っているとは到底考えられません。税務行政庁は、事実をデッチあげてまで代理人(納税者)を陥れるこのこと(幾つもの犯罪行為を重ねていること)の重大性をどう捉えて、その下部組織である税務署を統括しているのでしょうか。前回も触れましたが、租税法律主義が支配する税務行政の現場にあって実働する職員は、何よりも諸法令を遵守し、「法律に従って的確に業務を遂行し、法律が禁じている行為を行ってはなりません。」「法令遵守は、公務員としての最低限の倫理」と理解すべきです。法令は国民(納税者)の意思や行動の表示を利便化するためにその方法、方向等を定めたものであり、これを租税行政庁職員自らが業務をする上で都合のいい、国民(納税者)を統べるためのツール(規律)であるとの錯覚に陥ってはなりません。

 

脱税事件の多くの場合は、一般的に、納税義務者は上記の最終段階では自己の脱税行為を認めていることから、その後の修正申告を含む手続もスムーズに進行することから、本件においても、強圧的で強引な取調べや取り扱いをすれば、全てにおいて首尾よくスムーズに進行する筈だと、当該担当職員らは安易に考えていた節が見え隠れします。本件の場合、S国税局の上記査察担当職員らの「関与税理士が納税者に脅されて、脱税に係る申告書等を作成していた」とする認定(認識)は、「初めに結論ありき」で、「組織の都合に合致するよう」、納税者を強引に説き伏せようとした結果、必然的に生まれた誤りであったと思われます。というのも、S国税局を訪れる前に、納税者(法人の代表者ら)との数回の詳細な聞き取りを経て代理人が得た心証は、当該査察担当者の認識とは全く異なるものであったからです。そして、当該納税者についての金融機関の支店長の評価等からは、脱税などは全く縁のない、優れた感覚を持ち合わせた経営者であるとするもので、一般的な脱税事件の行為者のそれとは全く異なった印象だったからです。

 

また、信義則(禁反言の原則)については、これまでの裁判例で示された法的判断[1]「特別の事情が存する場合」に考えるべきであり、その判断は、「税務官庁が納税者に対し信頼の対象となる公的見解を表示したこと」により、「納税者がその表示を信頼して行動したところ、のちに表示に反する課税処分」が行われ、「納税者が経済的不利益を受け」たかどうか、「その行動について納税者の責任がない」かどうかの考慮が不可欠であるとしています。しかし、これらの4条件は厳格な租税法律主義(合法性の原則)が貫かれていることが前提であり、無条件に租税行政庁に免責を与える趣旨ではありません。上記判決は、本件のように事実認定が曖昧であり、適用法令も判然とせず、法令を遵守する姿勢及び使命感や職業倫理が欠如している状況の中で、税務行政職員が当該判決を奇貨(エクスキューズ)として、納税者に「嘘」ついたり、納税者に「行政指導、約束」をしたもの平気で反故にしたりすることまでを赦す趣旨ではありません。

 

人は小さな間違いならそれを認めて簡単に直せるものですが、その間違いが深刻で責任が大きい程、それを認めまいと言い訳を探し、固執するものだと言われています。(つづく)

文責(G.K



[1] 最判昭和621030日、訟月344853

 

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