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国税不服審判所の役割とその存在意義 その1

2021/04/02

前回の税務コラムでも概略は触れましたが、約3年半前に不服申立をした事案につき、漸く、その判断が示されました。当該事案は、平成291124日、原処分庁である札幌南税務署がなした、請求人に対する法人税額等及び消費税額等の更正処分等です。一般的な更正事案と違い、本件が若干複雑なのは、請求人が当初更正処分に対する再調査の請求をしたところ、原処分庁は、それを一旦取消し、同日、再更正処分をして後行する処分を原処分としたことです。そこで請求人は、その処分自体の適否を含む手続、ないし調査に係る手続きの適否、調査手法、内容、事実認定、法令適用等に対する見直し及びそれらの全部取消しを求めて、令和元年1122日、札幌国税不服審判所へ審査請求をしていたものです。

 

しかし、令和3313日土曜日の夕刻、「本件請求を棄却する」との裁決書が税務代理人である税理士に送達され、漸く当該審査請求に対するピリオドが打たれることになりました。異例の長期間に渡った本件不服申立事案の審理に審判所の判断が示されることになりましたが、残念ながら、その内容は、将に、租税不服審査制度の最大の短所と言われる、「中立性の希薄さ」、「公正性及び信頼性の弱さ」が目立つもので、訴訟外の審理(行政判断)の限界を明示するものとなりました。そこで、以下に札幌南税務署及び札幌北税務署並びに札幌国税局の職員等の原処分庁側の取調べにおける、違法証拠収集、曖昧な事実認定、更には代理人に対する原処分庁の明らかな「嘘」に基づく主張等を振り返りながら、札幌国税不服審判所のこの間の対応及び判断(裁決のあり方)、更にはその存在意義についての私論を述べたいと思います。

 

札幌国税不服審判所の問題点としては幾つかを挙げることができますが、先ず、審判所としての姿勢に係る大きな問題点として、令和1年第1回目の審判所と納税(義務)者との打ち合わせ会議で、橋立庄平副審判官の請求人に対する誤導が挙げられます。これは、意図的か否かは措くとして、その後の請求人の本件審査請求事件の攻撃・防御に大きな影響を与えるものとなりました。すなわち、請求人は、同副審判官の説明に基づいて、終始、法的視点からの攻撃・防御を行う方針を貫きました。しかし、実際には令和11218日の同副審判官の説明「審判所は、税務行政に係る事項の判断をするのではなく、純法律的判断をする」は誤りで、東亜由美国税不服審判所長が示した「行政のあり方を迅速に見直す不服審査」が正しいことが、令和31月になって判明しました。そうだとすると、実質的審理以前の取り付きから請求人の攻撃・防御両面における方針を、札幌国税不服審判所によって敢えて誤導されていたことになります。

 

次に実質審理面からも大きな問題点が指摘されるところです。平成6101日施行の行政手続法の制定前においても、理由附記に関する判例法理は累次に渡る最高裁判決により形成され、確立していましたが、平成2367日の最高裁判決において、同法14条の解釈等につき最高裁としての初めての判断が示されました。それまでの更正の理由附記に関する判例法理は、理由附記の趣旨及び理由不備の法的効果として、「処分庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を相手方に知らせて不服の申立てに便宜を与える趣旨に出たものであり、その記載を欠くにおいては処分自体の取消しを免れない。」とするものでした。また、附記すべき理由の程度については、「特段の理由のない限り、いかなる事実関係に基づきいかなる法規を適用して当該処分がされたのかを、処分の相手方においてその記載自体から了知し得るものでなければならない。」とするものでした。

 

そこで、平成23年の最高裁判決とそれ以前の判例法理との関係を見てみると、平成23年判決は、行政手続法141項が理由提示を命じた趣旨を処分適正化及び争点明確化の2つの機能としており、従来の判例法理が妥当することを確認したものと思われます。また、従来の判例法理は、理由附記に関する瑕疵については、処分の内容的適否とは無関係に独立の取消原因となるとしており、平成23年判決は、従来の判例法理同様、単独で取消原因となることを確認したものと考えられます。それにも拘らず、原処分庁は、請求人が本件法人税等更正当初処分に対する再調査の請求をしたところ、更正の理由及び処分の理由に係る記載が不十分であったとして、令和元年10月7日付で課税更正当初処分を取消し、理由を差し替えて同日付で本件課税更正処分を原処分であるとして行っています。

 

上記に関し、昭和47331日の最高裁判決において、「再調査決定の附記理由が仮に不備でなかったとしても、これにより遡って更正処分の附記理由の不備が治癒されると解することはできない」として理由附記の追完は認めないとし、また、平成23年の最高裁判決は、「処分庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を相手方に知らせて不服の申立てに便宜を与える趣旨から、その記載を欠く処分においては処分自体の取消しを免れない」旨を判示しています。然るに、原処分庁は、法人税等更正当初処分の理由附記の不備を治癒すべく、法人税等更正当初処分を取消した上で、理由を差し替えて本件法人税等更正処分を行ったもので、理由の差し替えを目的とした再更正処分であることは明らかであり、根拠法令や課税標準の具体的な計算過程が記載されていない法人税等更正当初処分における理由附記不備は、本件法人税等更正処分によって治癒されるものではありません。

 

札幌国税不服審判所の裁決は、上記の確立している判例法理を無視し、最高裁判決に対決するものです。同審判所は、その作成した争点の確認表において、表向きは、「審理に当たっては、双方の主張を十分に聞いた上で、公正妥当な結論を得るよう努めている」としながら、その実、事前に提出した意見書等の書面及び口頭意見陳述並びに面談等における請求人の主張を一切考慮することなく、一方的に争点を確定しており、「争点の確認」とは名目だけのエクスキューズに過ぎません。あくまでも当該審判所が判断しやすく、結論として、原処分庁(国側)に有利な(国側が勝利するような)争点を予め設定したものでした。再度確認しますが、理由附記の不備に関する判例法理は累次に渡る最高裁判決により形成され、確立し、「遡って更正処分の附記理由の不備が治癒されると解することはできない」とするものです。したがって、札幌国税不服審判所は、原処分庁が当初更正処分を取消し、理由を差し替えて同日付で再更正処分を行ったことに対する請求人の審査請求を棄却するのであれば、判例法理との関係において、自らの見解及び判断を示さなければ審判所としての意義を失いますが、その可否判断を回避しています。

 

実質審理面の次は、札幌国税不服審判所が一方的に設定した争点2との関係においても、同審判所の判断は、姑息で疑問符の付く大きな問題となっていることです。前回も触れましたが、審判所が設定した争点1と争点2とは、本来は1つの括りで、累度の最高裁判決により確立した判例法理との関係を考慮しつつその判断がなされるべきものです。しかし、札幌国税不服審判所は、それを請求人の意見を容れることなく無視し、2つに分割して、理由附記不備という本件審査請求事件の最大の争点の社会的関心、衝撃を弱めるべくその内容を表現する文言すらも敢えて掴みどころのない、極めて抽象的なものとしています。その上で、「通則法は、第7章の2≪国税の調査≫において、国税の調査の際に必要とされる手続を規定しているが、同章の規定に反する手続が課税処分の取消事由となる旨を定めた規定はなく、また、調査手続に瑕疵があるというだけで納税者が本来支払うべき国税の支払義務を免れることは、租税公平主義の観点からも問題があると考えられるから、調査手続に単なる違法があるだけでは課税処分の取消事由とはならないものと解される」と、呆れた言い逃れをしています。

 

しかし、通則法が、第7章の2≪国税の調査≫を設け平成267月から施行されたことからすれば、従来の通則法24条等に加え同章の規定、すなわち通則法74条の112項に規定する「調査結果の内容の説明」も、これをしなかった場合は課税処分の効力は無効になると考えるべきところです。また、調査手続に瑕疵がある場合、調査手続の違法は、当然には課税処分の取消事由とはならないとしても、一定の場合、課税処分の取消事由になると考えられます。例えば、課税当局の判断が合理性を欠く場合で、ある判断の基礎となる重要な事実に誤認があること等により、その判断が全くの事実の基礎を欠く場合及び事実に対する評価が明白に合理性を欠くこと等によりその判断が社会通念に照らして著しく妥当性を欠くことが明らかであるような場合であり、将に本件更正事案が該当します。いずれにしても、札幌国税不服審判所の判断は、「はじめに結論ありき」と言うほかありません。(つづく)

             文責(G.K

 

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