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国税不服審判所の役割とその存在意義 その2

2021/04/13

前回、札幌国税不服審判所の本件に係る裁決は、確立している判例法理を無視し、最高裁判決に対決するものと述べましたが、それはまた、「納税者の正当な権利利益の救済を図るため、審査請求人と国税の賦課徴収を行う執行機関(税務署等)との間に立つ公正な第三者的立場で審査請求事件を調査・審理して裁決を行う」とする自らの役割を放棄するものであり、租税正義に挑戦するものであることを付け加えたいと思います。また、原処分庁の事実認定の基礎となっている重要な事実に虚偽及び誤認があり、その判断が事実の基礎を欠く(嘘で塗り固められた)ものであるにも拘らず、札幌国税不服審判所がその判断を是とするのであれば、原処分庁等が主張する課税をせんがための恣意的・曖昧な判断をそのまま裁決に採り入れるのではなく、その判断を根拠づけ、請求人(納税義務者)が納得するような直接証拠を札幌国税審判所として示すべきです。

 

札幌国税不服審判所の審判に際しての態度は、譬えこそ適切性の問題はあるにせよ、喧嘩の仲裁をするに当たって、予て懇意にしている当事者の一方のみからの話を聞いてその喧嘩を仲裁しようとするものであり、相手側当事者の主張(反論)を一切聞こうとしない、すなわち請求人の提出した数多くの証拠を検討すらしないものであり、「公正な第三者的立場で審査請求事件を調査・審理して裁決を行う」との評価に全く値しない、仲裁人としての役割を果たさないものです。これが「うっかり誤って、つい、やってしまった」というレベルのミスならまだしも、審理の冒頭から、「故意に騙そう」「言い逃れしよう」としているところに、その悪質性が数倍にも感じられるところです。争点整理の名分の下に、原処分庁(国)側に如何にして有利な裁決を出すか、本件審理の当初から腐心していたことが窺えます。

 

このことから、請求人(代理人)は、当事者双方の意見や主張を聴き、その上で争点を確定して貰うべく、札幌国税不服審判所の作成した争点の確認表につき、その都度、請求人が事前に提出した証拠、意見書等の書面及び口頭意見陳述並びに面談等に基づいて、請求人の主張を反映するよう累度にわたって、「争点の確認表についての請求人の意見書」を提出してきていました。令和21026日、札幌国税不服審判所の北村義実連絡担当者から、「本日付で争点確認表を送付するので、意見があれば114日までに提出」するようにとの電話連絡を受け取りました。当該提出期限である同年114日、請求人は、「争点の確認表についての請求人の意見書」を審判所に提出したところ、北村連絡担当者から少し待つようにとの指示がありました。

 

30分が経過した頃工藤卓也担当審判官が現れ、急遽、少し話したいとの要望で、面談することになり、その席で同審判官は、「こうして請求人から意見書を提出頂いていますが、これまで提出のあった意見書等については、全てに目を通していません。また、仮令、通則法971項の『審理のための質問、検査等』の申立てがあったとしても、これを行わないかもしれません。」と発言しました。この瞬間、私(税務代理人)は、「札幌国税不服審判所は、『理由附記不備』という本件事件の最大の争点の可否判断を回避し、自らにとって判断(裁決)し易く、結論として、原処分庁の誤った主張を追認する判断(裁決)を出すための争点を設定するつもりであること」を直感しました。これでは、「自分で設問したものを、自分が解答する」ものであり、予め結論も用意されており、原処分庁(国側)は、百戦して百勝することが明らかであり、国税不服審判所は、その役割を果たすことはなく、その存在意義も全くありません。

 

ともあれ、札幌国税不服審判所の本件法人税額等の更正処分等に係る審査請求事件の裁決書(謄本)に示された「理由」に沿って述べてみたいと思います。このうち、1「事実」については、特筆すべき事項がないことから省略します。2「争点」については、そもそも、審判所への「争点の確認表についての請求人の意見書」において、(1)原処分庁が、更正処分の理由附記の不備を認めて一旦取消したものを、同日付で理由附記を追完し、新たに原処分としてなした本件法人税額等及び消費税額等の更正処分等は有効か。(2)原処分庁が請求人の代理人に行ったとする説明は、通則法74条の112項の「調査の終了の際の手続」の適切性の要件を満たすものと法的に評価できるか。(3)法人税法222項の規定は、課税庁が恣意的無限定に認定基準を定め、その適用範囲を定めることなく、否認規定として、適用することができるか。

 

4)行為計算の否認規定のない消費税法において、正常な取引を原処分庁が恣意的に否認して、取引の相手方の行為・計算として引き直すことができるか。(5)違法収集証拠の総合が税法領域において、証拠能力を持つか。また、関連して、原処分庁がなした当該違法収集証拠による曖昧な事実認定の総合に基づき法人税法22条各項を適用したとする本件更正処分等は適法か。(6)顧問契約における関与税理士の誤認による一連の申告業務等の処理ミスにつき、受任者としての責任が問えないものを、委任者である納税者のみの責任と構成することができるか、また、それに重加算税を課すことができるか。(7) (本件更正処分等に関わって、税務調査時の原処分庁の指導、発言等を後に税務調査時の調査官の発言は公的見解ではないとして、原処分庁が撤回したことが、禁反言の法理(信義則)等の法令違反を構成するか。とするよう、予て札幌国税不服審判所に申し入れていたものです。

 

それを、札幌国税不服審判所は、(1)本件調査に係る調査手続きに本件各更正処分等を取り消すべき違法があるか否か。(2)本件各更正処分の理由付記に不備があるか否か。また、本件当初各更正処分を取り消し、処分理由を差し替えて本件各更正処分をしたことは、違法か否か。(3)本件各関係法人がそれぞれ申告した収益、費用等に係る業務及び取引は、請求人が行ったものであるか否か。(4)請求人に通則法第68条第1項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があったか否か。(5)請求人に、法人税法第127条第1項第3号に規定する青色申告の承認の取消事由があったか否か。また、本件当初青色取消処分を取り消し、処分理由を差し替えて本件青色取消処分をしたことは、違法か否か。(6)本件各更正処分等は、信義則に反する違法な処分であるか否か。と争点を一方的に確定させています。

 

裁決書中の、3「争点についての主張」については、必要に応じて触れてみたいと思います。同裁決書中の、4「当審判所の判断」のうち、(1)争点1(本件調査に係る調査手続に本件各更正処分等を取り消すべき違法があるか否か。)についての、「イ法令解釈について」は、札幌国税不服審判所の法令解釈は、前回も触れたように、明らかな誤りであり、同審判所の判断には疑問符が付きます。と言うのも、札幌国税不服審判所が設定した争点1と争点2とは、本来は1つの括りで、その本質は、「理由附記不備」が許されるか否か、更にはその理由附記不備を、後の二次処分で追完できるかどうかという問題であり、切り離して当該問題を矮小化すべきものではありません。

 

これについては、いずれも累度の最高裁判決において不可とする判断が確定し、学説、判例ともに確立した考え方だからです。しかしながら、同審判所は、原処分庁による当初処分の理由附記不備及びその追完をすべく、二次処分(原処分)をしたことの可否をめぐる本件審査請求事件の最大の争点の社会的関心や衝撃を和らげるべく、争点を分割し、その内容を表現する文言すらも敢えて掴みどころのない、極めて抽象的なものとしています。

これらの争点では、本件各更正処分等の取消を求める審査請求事件の本質が隠され、その理解は不可能となります。札幌国税不服審判所の裁決は、本件審査請求事件の本質と判例法理との関係で、正面からの判断を示すべきものです。(つづく)

文責(G.K

 

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